アークエンジェルがユーラシア連邦の軍事要塞「アルテミス」を目指し、ヘリオポリスの残骸が漂う暗い宇宙を突き進む中、後方からは執拗な殺気が迫っていました。
「アスラン、出るぞ。あの黒いガンダム……今度こそ、その化けの皮を剥いでやる」
損傷を強引に補修したジンを駆るミゲル・アイマンが、憎悪を込めた声で通信を繋ぎます。隣には、親友であるキラを奪還せんと静かな闘志を燃やすアスラン・ザラのイージスガンダムが、紅い影のように控えていました。
艦内に戦闘配備の警報が鳴り響く中、リン・ベルナルは追加装備を一切纏わない身軽な姿で「ストライカーブラスト」をカタパルトへ進めました。
「リンさん、何も装備をつけないで出るつもりなの!?」
隣のストライクで出撃準備を整えていたキラ・ヤマトが、モニター越しに驚愕の声を上げました。
「……大丈夫。この子なら、いける気がするから」
「でも……! 分かった、僕が前へ出る。リンさんは無理をしないで!」
二機のガンダムは、ヘリオポリスの瓦礫が舞う虚空へと放たれました。宇宙へ出た瞬間、ミゲルのジンが容赦なく機銃を掃射します。リンは機体のスラスターを繊細に制御し、弾丸の雨を紙一重でかわしながら肉薄しました。
「(今……!)」
リンは短時間式ビームサーベルを抜き放ちました。高出力の光の刃が暗黒の宇宙を焼き切り、ジンの装甲を溶断しようと迫ります。しかし、その瞬間でした。
「な……っ!? エネルギーが……切れた!?」
あまりにも高い出力を維持しすぎたため、サーベルの光刃が不気味な瞬きと共に消失しました。武装の限界――その致命的な隙を、アスランが見逃すはずもありません。
「隙だらけだぞ、未確認機!」
アスランのイージスが死角から急加速で襲いかかります。変形した四肢の爪が、無防備なストライカーブラストを捕らえようと迫り、リンの視界を絶望が覆いました。
「リンさん、下がってぇぇぇ!!」
絶体絶命の瞬間、キラのストライクが強引に割り込みました。シールドを盾にし、自らを犠牲にするような角度でイージスの爪を力任せに弾き返します。
「キラ! なぜ邪魔をする! どけと言っているんだ!」
アスランの怒号が通信回路に叩きつけられます。イージスは空中で鋭く翻り、ストライクのビームライフルを紙一重でかわしながら、その鋭い蹴りを見舞いました。
「アスラン! やめてくれ! 僕は……君と戦いたくないんだ!」
キラは叫びながら、ストライクを必死に操作してアスランの猛攻を凌ぎます。しかし、アスランは引くどころか、さらに機体を加速させました。
「なら、なぜ連合にいる! その機体と一緒にザフトへ来い! そうすれば戦わなくて済むんだ!」
「できないよ……! この船には、僕の友達がいるんだ。守らなきゃいけない人たちがいるんだよ!」
親友同士が互いの機体を激しく衝突させ、火花が散る中で言葉をぶつけ合います。キラの瞳には、かつての友を撃つことへの恐怖と、それでも仲間を守らなければならないという悲痛な決意が入り混じっていました。
「……キラ、君……。……ありがとう。ごめんなさい……!」
リンが震える声で通信を入れると、キラはアスランの連撃を受け流しながら力強く答えました。
「謝らなくていい! リンさんは後ろに! 立て直すまで僕が支えるから!」
そこへ、メビウス・ゼロを操るムウ・ラ・フラガからの通信が飛び込みました。
「お二人さん、友情を確認してる暇はないぜ! あのオレンジのジンを仕留めるぞ。お嬢ちゃん、お前がトドメを刺せ。俺が追い込んでやる!」
「……はい、ムウさん! 行きます!」
ムウの放つガンバレルが、変幻自在な軌道でミゲルのジンを包囲しました。四方八方からの波状攻撃に、ミゲルは回避すらままならず翻弄されます。
「キラ君、合わせるよ!」
「分かった! リンさん、道を空ける!」
キラがストライクを急旋回させ、ミゲルの退路を塞ぐようにバルカンを掃射します。逃げ場を失ったジンの懐へ、リンはストライカーブラストの加速力を一点に集中させて突っ込みました。
サーベルではなく、機体各部に備えられた95ミリ大型バルカンが火を噴きます。
「これで……最後にして!!」
ゼロ距離から放たれた重金属の弾丸が、ジンの胸部装甲を粉々に粉砕しました。
「ぐああああああっ!!」
激しい爆発の衝撃に包まれながら、ミゲルのジンは制御を失い、戦域からの離脱を余儀なくされました。 エースを退けた安堵感が通信回線を流れます。
「……助かったよ。リン、お前もよくやった」
キラの労いの言葉に、リンは激しく高鳴る鼓動を抑えながら、小さく頷きました。
アークエンジェルの格納庫へ帰還した二人を、マリューやナタルは冷ややかな沈黙で迎えました。無装備でエースを圧倒した機体、そしてリンが持つ正体不明の「強さ」への恐怖は、勝利の喜びを塗りつぶすほどに大きくなっていました。