ユニウスセブンの破片が地球へと降り注ぎ、世界が未曾有の混乱に揺れる中、ロンド・ベル艦隊の旗艦【ラー・カイラム】の機密通信室に、暗号化された最高優先度の通信が舞い込んでいた。
画面の向こうに映し出されていたのは、プラント最高評議会の**【穏健派議員】**の重鎮である。
『……ロンド・ベル艦隊司令、および関係諸氏。不躾な要請であることは重々承知している。だが、現下の情勢は一刻の猶予も無いのだ』
穏健派の議員は、苦渋に満ちた表情で言葉を続けた。
今回のユニウスセブン落下という最悪のテロ事件は、プラント内部のザラ派残党――**【プラント過激派】**による謀略であったことが完全に証明されてしまった。このまま過激派を野放しにすれば、地球連合軍の反コーディネイター感情は沸点に達し、ロード・ジブリール率いるブルーコスモスに、プラント全土を焼き尽くす格好の「大義名分」を与えてしまうことになる。
事態を極めて重く見たプラント穏健派は、身内の不祥事を迅速に清算し、これ以上の戦火の拡大を防ぐため、ザフトの正規軍では動きづらいプラント内部の裏局面に、中立かつ確かな実力を持つ独立艦隊ロンド・ベルの手を借りるという苦肉の策に打って出たのだ。
『我がプラントの治安維持部隊の目を盗み、過激派の主犯格数名が、プラント内の僻地へと逃亡を図っている。ユニウスセブンの悲劇をこれ以上繰り返さぬためにも……ロンド・ベルの手で、あの**【過激派の残党を確保】**していただきたい』
プラント側から直々に下された、テロリスト残党の捕縛任務。
眠り続ける指揮官リンの想い、そして彼女が命懸けで護った地球の明日を無駄にしないためにも、ロンド・ベルの精鋭たちは即座に立ち上がった。
――プラント内部、某未開発エリア。
広大な人工大地の端に位置する、険しい岩肌が続く【山岳地域】。
ゴォォォォォォォォォッッ!!!!!
静まり返った渓谷に、鋭い金属音が響き渡る。
穏健派から提供された潜伏座標を元に、ラー・カイラムから緊急発進した隠密部隊が、プラントの空を裂いて急行していた。
先頭を切って飛行するのは、可変モビルスーツ**【ゼータプラス】。シャープなウェイブライダー形態で複雑な渓谷の隙間を低空で高速縫い泳ぎ、機首の高性能センサーで地表の微細な動体をスキャンしていく。
そのすぐ背後には、スラスター音を最小限に抑えながら、地形の死角を利用して跳躍・滑空する通常カラーの【ジェダ3機】**が、一糸乱れぬフォーメーションでピタリと追従していた。
『各機、電波沈黙(ラジオ・サイレンス)を維持。目標はモビルスーツではない可能性が高い。地表のわずかな熱源も見逃すな』
ゼータプラスのパイロットの冷静な声が、限定的な指向性通信でジェダ隊へと飛ぶ。
過激派の残党は、目立つモビルスーツではなく、ザフトのレーダー網に引っかかりにくい地上車両で山岳地帯の隠れ家へと逃げ延びる算段だった。だが、ロンド・ベルの研ぎ澄まされた追跡能力の前では、その姑息な足掻きも無意味だった。
ピピッ――。
ゼータプラスのメインモニターの片隅に、赤色のロックオン・マーカーが鋭く点滅する。
険しい山道をごく僅かな排熱を出しながら、必死に逃走する1台の不審な**【過激派のクルマ(軍用ウニモグ型車両)】**の姿が、赤外線センサーによって鮮明に浮かび上がった。
『――ゼータプラスより各機へ。目標のクルマを発見した。これより臨検・確保へと移行する!』
『了解! ジェダ1号機、2号機、左右から退路を断つ! 3号機は頭上から威嚇しろ! 誰一人として逃がすなッ!!』
逃げ惑う過激派の車両に向け、大空から舞い降りる4機の鋼鉄の死神。
リンが繋いだ平和の火を消させないための、ロンド・ベルの容赦なき「闇の狩り」が、プラントの険しい山岳で今、静かに幕を開けた――。キィィィィィィィィンッッ!!!!!
ロンド・ベルの隠密部隊が天空から急降下したその瞬間、山道を逃走する過激派のクルマを護衛するように、背後の岩陰から1機のモビルスーツが飛び出してきた。
『ロンド・ベルめ、どこまで我らの邪魔をすれば気が済むんだぁぁッ!!』
現れたのは、過激派のザラ派残党が隠し持っていた**【護衛の旧型ジン】**。
すでに型落ちとなった実体弾式の76mm突撃銃を構え、なりふり構わぬ様子で引き金を引こうとする。
――だが、百戦錬磨のロンド・ベルの精鋭たちの前では、その動きはあまりにも遅すぎた。
バシュゥゥゥゥッッ!!!
「――しまっ!?」
ジンが銃口を向けるよりも早く、上空から襲撃したゼータプラスが急制動をかけ、ウェイブライダー形態からMS形態へと瞬時に変形。その鋭い推力をもって、ジンの死角から弾丸のような速度で肉薄した。
ガシィィィィィンッッ!!!!!
「な、何だと……!?」
驚愕するジンのパイロット。ゼータプラスは相手に反撃の隙を一切与えることなく、その強固なマニピュレーターでジンの右腕を力ずくで掴み、突撃銃を遥か谷底へと叩き落とした。
それと同時に、背後に肉薄していたジェダの1機が、メインスラスターを激しく吹かしてジンの正面へ突撃。ビームサーベルの出力を限界まで絞った、超高熱の「ピンポイント・レーザー刃」を抜刀した。
ズバァァァァァッッ!!!
「がはっ……!? モニターが、操縦桿が……ッ!!」
ジェダの精密極まる一閃は、ジンの機体構造を完全に熟知したプロの技だった。
装甲を無駄に爆発させることなく、コックピットハッチの駆動ブロックと駆動系だけをミリ単位で焼き切り、完全に機能停止(フリーズ)させる。パイロットを殺傷することなく、外からの脱出も内からの操作も不可能な状態へ追い込む――文字通り、**【即刻コックピットを制圧した】**のだ。
動力源を絶たれ、山肌に力なく膝を突く旧型ジン。戦闘時間は、わずか数秒だった。
「ひ、ひぃぃぃぃッッ!! 化け物か、奴らは……ッ!」
護衛のMSを一瞬で無力化された過激派のクルマは、狂ったようにアクセルを踏み込み、なおも砂煙を上げて逃亡を図ろうとする。
だが、その絶望的な足掻きもそこまでだった。
ズウゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!!!!
「――っっ!? うわあああァァァッッ!!!」
逃げ道を塞ぐように、凄まじい衝撃音と共に険しい山道の真っ正面へと、2機の**【ジェダが文字通り頭上からドォンと降り立った】**。
目の前に突如として現れた、そびえ立つ鋼鉄の巨壁。
クルマの運転手は顔を真っ青に染め、ギギギギギィィィッッ!!!と、タイヤが引き千切れんばかりの凄まじい急ブレーキをかけた。車体は激しくスピンしながら、ジェダの巨大な爪先のわずか数センチ手前で、完全に立ち往生した。
逃げ道は、もうどこにもない。
ジェダの頭部カメラの冷徹なグリーンの光が、フロントガラス越しに恐怖でガタガタと震える過激派の男たちを、静かに見下ろす。
『――ロンド・ベル隠密部隊より、プラント過激派テロリスト残党へ。これ以上の抵抗は無意味だ。直ちに車両を停止し、両手を上げて外へ出ろ。拒否すれば……次はない』
スピーカーから響く、ジェダのパイロットの冷徹な警告。
眠り続ける指揮官リンの想いを背負ったロンド・ベルの迅速かつ圧倒的な鉄槌が、世界を狂わせたテロリストたちの逃げ道を、完全に、そして完璧に封殺した瞬間であった。『――こちらジェダ2号機。対象の車両および人員を完全に制圧。これより拘束、ならびに身柄の身辺警護に移行する』
ジェダの威圧的な巨体の前で、過激派の男たちはもはや戦意を完全に喪失していた。車のドアが怯えきった様子で開き、中から両手を上げた**【過激派プラントメンバー】**の男たちが、這い出るようにして地面に膝を突く。
すぐさまゼータプラスから降り立ったロンド・ベルの特殊臨検隊員たちが、訓練された無駄のない動きで彼らを包囲。一人一人の身元をプラント穏健派から提供されたデータと照合し、確実に**【確保】**していった。
「く、クソッ……! なぜ地球の軍隊が、プラントの内部にまで手を出せるんだ……!」
拘束されながらも、過激派の男が悔しげに歯噛みし、ジェダを見上げて呪詛を吐き散らす。
『……お前たちが世界に撒き散らした身勝手な狂気のツケだ。大人しくしろ』
ジェダのパイロットは通信越しに冷徹に言い放ち、手際よく男たちを捕縛していった。彼らはただのテロリストではない。ユニウスセブンを落とした人為的な謀略の全容、そして背後にいる黒幕を芋づる式に引き出すための、極めて重要な「生き証人」なのだ。
間もなくして、山岳地帯の険しい上空へ、ロンド・ベルが手配した隠密仕様の大型輸送シャトルが静かに静空へと姿を現した。
強固な電子偽装(ステルス)を施されたシャトルが地表へと着陸し、ハッチが開く。拘束された過激派のメンバーたちは、ジェダの銃口に見守られながら、一列に並ばされて次々と機内へと押し込まれ、厳重な監禁室へと**【輸送】**されていった。
『ラー・カイラム、およびプラント穏健派本部へ。こちら隠密部隊。これより対象の輸送を開始する。ルートは予定通り、ザフト正規軍の警戒網をバイパスする僻地回廊を使用する』
『ラー・カイラム了解。見事な手際だ。リン様が命懸けで護ったこの世界の明日を、これ以上奴らの残党に汚させるな。帰投を待つ』
ゴォォォォォォォォォッッ!!!!!
過激派を乗せた輸送シャトルは、ジェダ3機とゼータプラスによる鉄壁の護衛陣形に囲まれながら、プラントの赤茶けた山岳地帯の空へと音もなく離陸し、静かに消え去っていった。
リンの決死の一撃によって最悪の滅亡を免れた地球。そして、その裏舞台で進む、狂気の根絶に向けたロンド・ベルの迅速な鉄槌。少女が深い眠りの中で世界の平穏を祈る中、残された精鋭たちは、それぞれの戦場で闇を払い続けていくのだった――。