※この作品はR-18です。

強化人間がSEEDの世界で活躍します   作:ナラティブ

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7話

独立艦隊ロンド・ベル。その旗艦【ラー・カイラム】のモビルスーツ・カタパルトデッキに、強烈な警告音が鳴り響き、まばゆい電磁光が暗い宇宙を照らし出していた。

先のユニウスセブン戦で大破したA装備に代わり、カタパルトに固定されているのは、背部に巨大な有線式攻撃端末(インコム)のコンテナを背負い、両腕にミサイル付シールドを強固にマウントした高機動迎撃仕様――**【ナラティブガンダムB装備】**である。

「リン様、本当に大丈夫なのですか? まだ脳への負荷が……」

通信回線から、彼女を実の妹のように心配するマクスたちジェダ隊の声が響く。

「大丈夫よ。不完全なサイコフレームの調整と、機体の抜本的な修復……それができるのは、今の中立国オーブのモルゲンレーテだけだから。少し行ってくるわ」

ノーマルスーツのヘルメットを被り、真真紅の髪を揺らしたリン・ベルナルがコンソールのタッチパネルを叩く。不完全なNT-Dの代償で流した鼻血の跡はもう拭われていたが、その瞳には世界をこれ以上壊させないという静かな決意が宿っていた。

『ナラティブB装備、進路クリア! リン・ベルナル、発進するわ!!』

ドォォォォォォォォンッッ!!!!!

ツインスラスターから凄絶な青白い烈火が噴き出し、ナラティブB装備はカタパルトから弾き出されるようにして宇宙(そら)へと躍り出た。大気圏を鋭い角度で突破し、目指すは中立の島国、オーブ連合首長国――。

その頃、オーブの【モルゲンレーテ社の軍事ドック】。

激戦を潜り抜けたザフトの新造艦ミネルバは、傷ついた艦体を有無を言わさず癒すべく、巨大なクレーンが慌ただしく動くドックへとその身を横たえていた。

代表首長として政務に復帰したカガリ・ユラ・アスハが、ウナト・エマ・セイランら首脳陣から「地球とプラントの関係はもう抜き差しならない。オーブの立ち位置を今すぐ決断しろ」と激しく迫られているまさにその同時刻。

海面を滑るようにしてモルゲンレーテの秘密ドックへと入港したナラティブB装備は、独立艦隊としてのロンド・ベルの事前の特権によって、どの陣営にも干渉されることなく静かにハンガーへと固定されていた。

「ふぅ……。修復が終わるまで、少し時間がかかりそうね」

ハッチから降り立ったリンは、ロンド・ベルの制服の上から薄手の私服ジャケットを羽織り、技術者たちが機体のスキャンを始めるのを見届けると、気分転換を兼ねて巨大なドック内をゆっくりと歩き回ることにした。

――カン、カン、と響く鉄板の足音。

巨大なコンテナが山積みにされた自動販売機の一角へと差し掛かった、その時だった。

「――だから、あいつらのやり方が気に入らないって言ってるんだよッ!」

「落ち着け、シン。ここはオーブの施設だ」

前方の影から、聞き覚えのない少年たちの声が聞こえてきた。

私服姿でジュースを片手に持っている赤服の少年と、冷徹な雰囲気を持つ**【金髪】**の少年だ。

「あ……」

リンがそっと足を止めると、二人が一斉にこちらを振り返った。

「誰だ……? ――って、見慣れない服だな? あんた、どこから入ってきたんだよ」

赤服の少年が不審そうに眉をひそめる。見たこともない深紅の髪の少女が突然現れたのだ。

「……こんにちは。驚かせてごめんなさい。ここの技術者さんたちか、それともオーブの兵士さんたちかしら?」

リンは敵意がないことを示すように、ふんわりと優しく微笑みかけた。ザフトの軍服を着ていない私服姿の二人を見て、リンは彼らをこのモルゲンレーテの人間か、あるいはオーブの若き軍人だろうと思ったのだ。

その言葉に、赤服の少年が少しむっとして声を上げた。

「だから、違うってば! 俺たちはザフトのパイロットだよ。今は修理のためにミネルバでここに寄ってるだけだ」

「えっ、ザフト!? ごめんなさい、私、てっきり……」

リンが驚いて目を見開くと、隣に立つ金髪の少年が、少し呆れたように小さく溜息をついた。

「……シン、そんなに熱くなるな。彼女は俺たちの衣服を見てそう判断しただけだろう。……失礼した、俺たちはザフトの軍人だ。私はレイ・ザ・バレル」

「俺はシン・アスカ。……で、あんた名前は?」

「私はリン。リン・ベルナルよ。勘違いしちゃって本当にごめんなさい」

リンが困ったように笑うと、金髪の少年――レイの鋭い視線が、リンのジャケットの隙間から覗く特殊な配色の制服へと注がれた。

(……あの制服、地球連合のどの主要軍のものとも違う。まさか……『ロンド・ベル』か……!?)

【レイは瞬時に、彼女がロンド・ベルの人間であることに気付いた】。ザフト、連合、オーブのどこにも属さず、独自の超法規的権限で動く謎多き独立艦隊。レイの瞳の奥に、一瞬だけ鋭い**【警戒の色】**が走る。なぜそんな組織の人間がここにいるのか、スパイではないか、と。

しかし、当のリンからは軍人特有の刺々しさが一切感じられず、その佇まいはどこまでも澄んでいて温かい。レイは微かに思考を巡らせた後、(ここで騒ぎを起こすのは得策ではない……それに、彼女から敵意は感じられない)と判断し、張り詰めた肩の力を僅かに抜いて、【少しだけ気を許した】。彼らは、目の前の華奢な少女こそが、自分たちの背中をジェダで救い、あのユニウスセブンを力ずくで削り取ったロンド・ベルの若き最高指揮官その人(隊長)であるとは、まだ全く気付いていない。

「リンか、いい名前じゃん! 怒ってないから気にするなって!」

シンはニカッと無邪気に笑うと、リンが自販機にお金を入れてボタンを押すのを見守った。だが、ゴトカンと転がり落ちてきた缶が、なぜか取り出し口のフラップの奥で引っかかってしまう。

「あ、あら……? 届かない……」

リンが困ったように細い腕を取り出し口の奥へ伸ばそうとするのを見て、シンが「あー、待って。危ないから」と苦笑しながら歩み寄ってきた。困っている同世代の少女を放っておけない彼の優しさだった。

「ちょっとそこ退いてて」

「え? ――あ」

シンは自販機の前にかがみ込むと、手慣れた様子でグッと奥まで腕を差し入れ、引っかかっていた缶を**【自販機の中からすんなりと取ってくれた】**。彼は立ち上がると、笑顔でリンにそれを差し出した。

「ほら、どうぞ!」

「ふふ、ありがとう。助かっちゃった、シン」

手渡された冷たい缶を包み込みながら、リンが鈴が鳴るように優しく笑う。

「ねえ、差し支えなければ教えてほしいのだけど……お二人は普段、どんなものが好きなの? その……例えば、好きな食べ物とか」

少し場が和んだのを感じたリンは、小首を傾げて二人に尋ねた。

唐突な質問に、シンは一瞬目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに身を乗り出し、そこから三人はさらに深く喋り合い始めた。

「好きな食べ物? 俺は辛いものかな! 何にでもかけると美味くなるし、炒飯とかに合わせるのが最高なんだよ! リンはそういうの食べないか?」

「辛いもの!? ふふ、炒飯にかけるのはちょっと強烈ね。でも、男の子らしくて可愛いわ」

「可愛くねーよ!」と赤くなるシンを見て、今度はレイが静かに口を開いた。

「私は特にこれといったこだわりはないが……強いて言うなら、お茶(緑茶)を好む。心を落ち着かせるのに適しているからな。シン、お前も少しは緑茶を飲んで落ち着きを覚えたらどうだ?」

「何だよレイ! 俺はいつでも落ち着いてるって! リンだってそう思うだろ?」

「ふふ、そうね。でも、シンはそのままで十分に元気があって素敵だと思うわ」

リンが優しく微笑むと、シンは「へへ、だろ?」とますます嬉しそうに胸を張り、レイもまた、リンの裏表のない言葉に、さらに表情を穏やかなものへと変えていった。

「お茶、素敵ね。今度、美味しい茶葉が見つかったら差し入れしたいくらい。私はね、みんなで食べる温かいスープが好きなの」

「スープか、それも美味そうだな! 今度ミネルバの食堂にも来てよ、美味いもん奢るからさ! もっと色んな話しようぜ!」

「ええ、ありがとう。シンは本当に優しいのね。レイも、色々と教えてくれてありがとう」

初めて交わす言葉、そして自販機の前でたくさん喋り合って、お互いに心の距離を縮めていくリンとシン、そしてレイ。だが、そんな穏やかで愛おしい時間をも無慈悲に侵食するように、世界の戦火の足音は、このオーブのドックにまで確実に近づきつつあった――。ピピッ――。

シンとレイ、そしてリンが自販機の前で楽しげにスープや辛いものの会話を続けていると、シンの胸元にある軍用インカムから、静かだが厳格な女性の声が響き渡った。

『シン、レイ。聞こえる? ミネルバ艦長のタリア・グラディスよ』

「――っ、艦長!」

シンがハッとしてインカムのスイッチを押し、レイも即座に表情を引き締める。

『カガリ代表首長との会談、および今後の補給についてのミーティングが始まるわ。パイロットたちにも招集がかかっているの。二人とも、今すぐ第一会議室へ向かいなさい』

「あ……了解しました、今すぐ戻ります!」

シンはそう応じると、名残惜しそうに手にしたジュースの缶を見つめ、それからすぐにリンの方へと向き直った。

短時間とはいえ、お互いの正体を知らないまま、自販機の前で好きな食べ物の話までしてすっかり打ち解けた深紅の髪の少女。戦火に身を投じるシンにとって、リンの裏表のない温かな雰囲気は、驚くほど心地よいものだったのだ。

「レイ、先に行っててくれ!」

「……早くしろよ、シン」

レイはリンへと一瞥をくれ、ジャケットの隙間のロンド・ベルの制服に再度目をやった。警戒は解いていたが、複雑な世界情勢を憂うように、少しだけ名残惜しそうな視線をリンに残し、一足先にドックの通路へと歩き出した。

一人その場に残り、リンの一歩前に踏み出したシンは、彼女の目を真っ直ぐに見つめてニカッと無邪気に笑った。

「リン! 俺、もう行かなきゃならないけど……さっき言ったミネルバの食堂の話、マジだからな! また絶対に会おう! 約束だぞ!」

「ええ……。ええ、約束ね、シン。お仕事、頑張ってね」

リンは少し驚き、それから胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、鈴が鳴るような優しい声でしっかりと頷き返した。

「おう! じゃあな、リン!」

シンは元気よく手を振り返すと、レイの背中を追うようにして、ドックの奥へと**【去っていった】**。

一人残された自動販売機の前。

リンはシンが自販機の中から取ってくれた冷たい炭酸飲料をそっと両手で包み込み、彼らが消えていった暗い通路の先を静かに見つめていた。

ザフトの、ミネルバのパイロット。そして自分は、どの国にも属さず世界の均衡を護る独立艦隊ロンド・ベルの最高指揮官――。

お互いの本当の立場を隠したまま、オーブの片隅で交わしたあまりにも純粋で、温かい約束。

「また、会えるかしら……」

ぽつりと呟いたリンの言葉は、慌ただしく稼働するモルゲンレーテの重低音にかき消されていく。

カガリがオーブの立ち位置を迫られ、世界が再び狂気の戦火へと突き進もうとする中で、少年と少女が交わした小さな約束が、これからの激動の運命にどのような光をもたらすのか。リンは祈るような想いを胸に、自らの愛機、ナラティブガンダムB装備が待つハンガーへとゆっくりと歩き出すのだった――。

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