突然のパニックからどうにか落ち着いたものの、ずぶ濡れで身寄りもわからない少女。このまま海岸線に置いておくわけにもいかず、【シンの発した救難信号を受け、アスランが二人を救助に来た。】
緑色の制服を翻し、崖の上から駆けつけてきたアスラン・ザラは、砂浜にいる面々を見て、その目を大きく見開いた。
「シン! 無事か! ……それに、リン!? なぜ君がここにいるんだ!」
「アスラン……!?」
驚いたのはカガリの元を飛び出したきり消息不明だった彼の姿を見たリン、そして何よりシンの方だった。
「アスラン・ザラ……! あんた、ザフトに戻ってミネルバにいたのかよ!?」
「あ、ああ……話せば長くなる。それより、その子は……」
アスランが戸惑いながらも、ずぶ濡れの少女に視線を向ける。
ひとまず少女を介抱しつつ、【アスランとリンは再会し、少し話していた】。シンが少女の様子を見守るため、少し席を外した隙を狙って、二人は声を潜める。
「リン、君はアークエンジェルと一緒じゃなかったのか? カガリはどうした?」
「カガリならスカンジナビア王国で無事に保護されているわ。キラたちと一緒にね。私は……一人の友人として、世界の情勢をこの目で確かめるために動いているだけよ。それよりアスラン、あんたこそ何のためにザフトに戻ったの?」
「俺は……プラントと議長が、本当に平和を望んでいるのかを確かめたくてな。ミネルバの出航に立ち会うことになったんだ。だけど、まさか君とこんな場所で会うなんてな」
懐かしい戦友との再会に少しだけ表情を和らげる二人。しかし、その静寂は不躾な足音によって破られた。
【そこに現れたスティングらは、身分を隠しステラを引き取る。】
「おいおい、うちの迷子が随分と迷惑をかけちまったみたいだな?」
現れたのは、スティング・オークレーをはじめとする数人の男たちだった。彼らは一見すると一般の旅行者や民間人のような衣服を身にまとっていたが、その身のこなしには隠しきれない軍人の鋭さがあった。
「あんたたちは……?」
シンが警戒して立ち塞がる。
「ただの連れさ。ちょっと目を離した隙に、その子がふらふらと崖の方へ行っちまってね。助けてくれて感謝するよ、ザフトの兵隊さん」
スティングはそれらしい理由を並べて身分を隠すと、まだ怯えの残る少女の腕を強引に引き寄せた。
「あ……、あ……」
少女は男たちに引っ張られながら、何度も何度も後ろを振り返る。その大きな瞳には、先ほど自分を必死に抱きしめてくれたリンと、「守る」と誓ってくれたシンへの強い執着が浮かんでいた。
「いやだ……! はなして、いやぁっ! ……シン! リン!」
男たちに連れて行かれまいと、少女は激しく抵抗する。**【シンとリンの別れを悲しむステラ】**は、大粒の涙を流しながら二人の名前を叫び続けた。
「おい、待てよ! あいつ、あんなに嫌がってるだろ!」
シンが思わず一歩を踏み出し、男たちを止めようとする。だが、アスランがその肩を掴んで制止した。
「待て、シン! 俺たちには、民間人の身内だと言い張る彼らを無理に引き留める権限はない!」
「くそっ……!」
歯痒さに拳を握りしめるシン。連れて行かれる少女の泣き顔が、彼の胸を激しく締め付ける。遠ざかっていく少女の背中に向かって、【シンは、きっとまた会えるから! と叫ぶのだった】。
「心配するな! 俺が絶対に見つける! だから……きっとまた会えるから!!」
その叫びを聞いた少女は、涙に濡れた顔で小さく頷き、男たちの車へと押し込まれていった。、シンはその場から動けずにいた。ただ拳を握りしめ、悔しそうに地面を見つめている。
そんなシンの隣に、リンは静かに歩み寄った。
「……ごめんなさい、シン」
リンは切なげに瞳を伏せ、ぽつりと呟いた。
「私が軍人として……いえ、もっとうまく立ち回れていれば、あの男たちの素性を暴いて、あの少女をあんな風に無理やり連れて行かせずに済んだかもしれないのに。力になれなくて、本当にごめんなさい」
親友としてシンの側にいながら、民間人を装う男たちから少女を引き留める決定的な一手を打てなかったこと。それがリンにはどうしても悔しく、申し訳なかったのだ。
しかし、シンはすぐに顔を上げると、寂しげながらも首を横に振って、無理に笑顔を作ってみせた。
「いや……いいんだ。リンが謝ることじゃないよ。あいつを海から引き揚げられたのも、パニックになったのを落ち着かせられたのも、リンが一緒にいてくれたからだ。だから、大丈夫だよ」
シンの真っ直ぐな言葉に、リンの胸のつかえが少しだけ軽くなる。
「シン……」
「それにさ、俺、あいつに『きっとまた会える』って約束したから。だから落ち込んでる暇なんてないんだ。ザフトの任務をこなしながら、次こそは絶対に俺がアイツを見つけ出してみせるよ」
その瞳には、先ほどの悔しさだけでなく、大切な存在を今度こそ守り抜くという強い決意の炎が宿っていた。
「そうね……。あんたなら、きっとまた会えるわ。その時は、今度こそあの子を笑顔にしてあげてね」
「ああ、約束する!」
これ以上ここに長居すれば、ザフトの軍医や他の兵に見つかり、リンの立場も危うくなってしまう。二人は互いに頷き合うと、それぞれの進むべき道へと歩き出し、**【そして別れる】**のだった。
アスランと共にミネルバへと戻っていくシン。そして、再び世界の裏に潜む真実を追うため、ナラティブガンダムの元へと向かうリン。
翌日、、、ナラティブガンダムにて、ダーダネルス海峡を越える気で、向かうも、、
ディオキアでの切ない別れを経て、次なる戦端が開かれようとしている地――【ダーダネルス海峡へ、向かっているリン】。ナラティブガンダムB装備を駆り、戦況を裏から見極めるべく移動を続けていた彼女のメインモニターに、最悪の警報が鳴り響いた。
連合の謀略に囚われた**【オーブと、プラント両軍はついに激突。】**
かつて共に手を取り合ったはずの者たちが、血で血を洗う不条理な戦火へと突入していく。
ザフト側からは**【シンとアスランが出撃し】、戦場を圧倒的な火力で蹂躙し始めていた。ミネルバの艦首が不気味に開き、【ミネルバの陽電子砲タンホイザーは、オーブの護衛艦群に照準を合わせるが…】**
『タンホイザー、てーーっ!!』
アーサーの絶叫が響き、破壊の光条が放たれようとした、その**【発射寸前に突如現れたフリーダムが、タンホイザーを貫いた。】**
一瞬にして陽電子砲を大破させ、戦場を白色の一閃が駆け抜ける。
「キラ……っ!」
ナラティブのコックピットで、リンは息を呑んだ。
スカンジナビア王国で別れた親友が、ついにその圧倒的な翼を広げて介入してきたのだ。だが、衝撃はそれだけでは終わらない。
連合軍**【の増援として現れたオーブ艦隊】。そこに、【突如戦場へ現れたフリーダム。続いてアークエンジェルから出撃したストライクルージュには、カガリが乗っていた。】**
純白のフリーダムに守られるようにして、桃色のガンダムが戦場の中央へと降下していく。拡声スピーカーから、涙を振り絞るような、しかし紛れもないオーブ最高権力者の声が響き渡った。
『私はオーブ軍極東極地指令、カガリ・ユラ・アスハである! オーブ軍は直ちに戦闘を中止し、速やかに兵を引きなさい! この戦闘は無意味だ!』
【彼女は自らオーブ代表の名乗りを挙げると、戦闘の即時停止をオーブ軍に命じる。】
「カガリ……代表……!?」
「何なんだ、一体何が起きてるんだよ!」
【戦場にいた全員が困惑する中】、オーブの兵士たちも、ザフトのシンやアスランも、あまりの異常事態に引き金を引く指を止めた。
【 そしてリンはソレを見て困惑し】、激しく揺れ動く戦場をメインモニターで凝視していた。
「カガリ……あんた、どうして……」
スカンジナビア王国で、あれほど絶望し、アスランの身を案じて泣いていたカガリ。その彼女が、アークエンジェルと共に再びこの地獄のような戦場に戻り、自らの命を懸けて叫んでいる。
「【なぜ……】」
リンは切なさと、言葉にできない割り切れなさを胸に抱き**【ながら、思いながら視認する】**。
カガリの叫びは、欺瞞に満ちたオーブ軍の指揮官ユウナ・ロマ・セイランによって「偽物だ」と一蹴され、戦場はさらなる混沌へと引きずり込まれていく。
互いを想い合う心が、すれ違い、傷つけ合う、呪われたダーダネルス海峡。
深紅の少女リン・ベルナルは、親友たちの暴走とも言える戦火への介入と、激しく泣き叫ぶカガリの姿を、ただ圧倒的な困惑と共に見つめるしかなかった――。かつて同じ想いを抱いて激戦を生き抜いたはずの、大切な仲間たち。
しかし今、目の前で繰り広げられる光景に、リンの胸は引き裂かれるように痛んでいた。みんな平和を願っているはずなのに、ボタンの掛け違いのように、それぞれの正義が歪み、少しずつすれ違い合っていく。
カガリの必死の制止も虚しく、戦場には再び最悪の砲火が響き渡った。
傷ついたミネルバに牙を剥くファントムペインの不気味な3機のガンダム。それを迎え撃つために、ハイネやルナマリア、レイたちが悲壮な決意を胸に次々と発進していく。
「カガリ、もう大丈夫。あとは僕に任せて」
泣き叫ぶカガリをアークエンジェルへと送り届けたキラは、再びその白い翼を広げ、狂気の戦火へと舞い戻った。
戦場を舞うフリーダムのマルチロックオンサイトが、冷徹に敵味方の姿を捉えていく。
「これ以上、誰も死なせたくない……! だから、やめるんだ!!」
キラの叫びと共に放たれた無数の閃光が、ザフト、地球連合、双方のモビルスーツの武装のみを次々と正確に撃ち抜いていく。ビームライフルが弾け、シールドが砕け散る。
しかし、命懸けで艦を、仲間を護ろうとしているザフトの兵士たちにとって、その圧倒的な力による介入は、戦場をただ掻き乱すだけの「傲慢な妨害」にしか映らなかった。
「キラ! アークエンジェル! 頼むからやめてくれ、これじゃあ戦場がもっと混乱するだけだ!」
セイバーガンダムを駆るアスランが、狂おしいほどの焦燥感に駆られながら、必死に通信を送り続ける。しかし、その声が届く気配は微塵もない。
「キラ! マリューさん! 聞こえてるの!? お願いだから一度武器を収めて!!」
ナラティブガンダムB装備のコックピットで、リンもまた、声を枯らして全周波数チャンネルに叫びかけていた。有線式ドラグーンを構えつつも、親友であるキラに向けてトリガーを引くことなどできるはずがなかった。
「今のあんたたちのやり方は、ただ戦場を引っ掻き回して、みんなの怒りを煽ってるだけよ! これじゃあ何も解決しない、ただ憎しみが深まるだけなのに……っ!」
どれだけ悲痛に叫んでも、乱れ飛ぶ電磁波とアークエンジェル側の頑なな沈黙に阻まれ、リンの伸ばした手は、空虚にダーダネルスの荒波へと吸い込まれていく。
武装を奪われ、怒りに燃えるシンたちの咆哮。
誰もが大切なものを護るために必死なのに、噛み合わない歯車は無情にも軋みを上げ、戦場はさらなる混沌へと突き落とされていくのだった――。
吹き荒れる爆炎の中、冷酷な撤退信号の音を合図に、ファントムペインの黒い機体たちが次々と退き下がっていく。それを見届けるようにして、戦場をさんざん掻き乱したフリーダムとアークエンジェルもまた、何処かへと去っていった。
あまりにも大きな代償だった。
目の前でハイネという尊い命を失ったアスランとシンは、それぞれ拳を血がにじむほど強く握りしめ、去りゆく白い機影をただ歯噛みしながら見つめることしかできなかった。
「……なんで、なんであいつらは……っ!!」
シンの悔しげな咆哮が通信に響く中、ナラティブガンダムB装備のコックピットで、リンもまた激しい憤りに震えていた。
「キラ……マリューさん……。このまま行かせるもんですか……!」
リンはナラティブを急加速させ、密かに海域を離脱しようとしていたアークエンジェルの進路へと回り込んだ。機体のセンサーを最大に開き、強引に回線を開く。
「アークエンジェル! 応答しなさい、ロンド・ベルのリン・ベルナルよ! ううん――一人の『親友』として、あんたたちに聞きたいことがあるの!!」
リンの必死の呼びかけに、ようやくアークエンジェルのハッチが開いた。
艦内へと迎え入れられたリンは、パイロットスーツのヘルメットを脱ぎ捨てるなり、ブリッジへと駆け込んだ。そこにはマリューやバルトフェルド、そして疲れ果てた表情のキラとカガリの姿があった。
「キラ! マリューさん! なぜあんな事をしたの!?」
リンの鋭い声がブリッジに響き渡る。
「あんたたちの介入のせいで、戦場はめちゃくちゃに混乱したわ! 結果として、ザフトは大事な仲間を一人失った……! なぜ、あんな風に力でねじ伏せるような真似をして、戦闘を広げたのよ!?」
詰め寄るリンの前に、カガリが涙を浮かべながら一歩前に進み出た。
「違うんだ、リン……! あれは、ユウナたちが、オーブが地球連合の甘い言葉に騙されて、望まぬ戦いに巻き込まれていたんだ。私は、オーブの理念を、ウズミの遺志を継ぐ兵士たちを……力ずくで止めなきゃならなかった。あのままじゃ、オーブが本当に滅んでしまうから……っ!」
カガリの口から語られる、オーブ国内の危機的状況。セイラン家の暴走と、連合からの強烈な政治的圧力。それを聞き、リンは痛いほどの悔しさを共有するように拳を握りしめた。
「……そう、だったのね。オーブの件に関しては……カガリ、あんたの言い分は分かったわ。あんたが命懸けで国を止めようとしたことは、納得する」
リンは一度目を閉じ、深く息を吐き出した。だが、すぐにその鋭い瞳を開き、今度はキラとマリューを真っ直ぐに見据えた。
「――でも! だからって、あの戦闘拡大のやり方は絶対に納得できない!!」
リンの言葉に、キラがハッとしたように顔を上げる。
「カガリを助けたい、オーブを止めたいっていうのは分かる。でも、キラ! あんたがやったことは、ザフトから見れば『連合に加担して自分たちを襲ってきた謎の武装勢力』でしかないのよ! 敵味方関係なく武器を壊せば平和になるなんて、そんなのただの傲慢よ!」
「リン……でも僕は、誰も死なせたくなくて……」
キラが悲しげに声を絞り出すが、リンはそれをピシャリと撥ね退けた。
「死なせないために、生き残ろうと必死に戦ってる人たちの武器を奪うの!? 武器を壊されたザフトの兵士が、あのあとどれだけファントムペインに怯え、殺されそうになったか、あんたには見えていないの!? あんたたちが綺麗事で割り込んだせいで、ザフトの憎しみはもっと深まったわ! これのどこが、平和への道だって言うのよ!!」
ブリッジに沈黙が降り降りる。マリューもバルトフェルドも、リンの突きつける生々しい現場の現実に、言葉を返すことができなかった。
カガリを救いたいという想いは同じはずなのに、選んだ方法が、守ろうとする立場が、二人の正義を決定的に引き裂いていく。
分かり合えたはずの親友との間にできた深い溝を見つめながら、リンはただ、やり場のない悔しさに唇を噛み締めるしかなかった――。