※この作品はR-18です。

強化人間がSEEDの世界で活躍します   作:ナラティブ

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30話

「ステーション・ワンはアークエンジェルとエターナル、そしてジェダ隊に任せる! 私はこのまま、デュランダルのいる場所へ行くッ!」

ステーション・ワンの破壊は仲間に託された。リンのフルアーマーユニコーンは、崩壊したザフト艦隊の防備を完全にすり抜け、標的をさらにその奥――ザフトの巨大機動要塞『メサイア』へと定めた。

ゴォォォォォォォッ!!!

背部に接続された戦艦用の巨大ブースターロケットが、青白い業火を爆発的に吹き荒れさせる。ユニコーンの五体をバラバラに引き千切らんばかりの、常識外れの超加速。

「(まだ撃たない……ここで武装を使うわけにはいかないのよ!)」

リンは操縦桿を固く握り締め、溢れそうになるトリガーへの衝動を必死に抑え込んでいた。

両腕のビーム・ガトリングガン、脚部のハンド・グレネード、肩のミサイル・ポッド。全身にこれでもかと満載した圧倒的な大火力。しかし、これから突入するメサイアの要塞防衛網、そしてその先に待つであろうシンやレイとの決戦を考えれば、道中で弾薬を1発たりとも無駄にするわけにはいかなかった。

ビキィィィン……ッ!

加速のGに耐えるリンの脳裏に、サイコフレームを通じてザフト兵たちの焦燥と驚愕の思念が流れ込んでくる。

『な、なんだあの白い奴は!? 速すぎるッ!』

『迎撃しろ! ミサイルを放て!』

要塞周辺から、無数の対空レーザーと誘導ミサイルの網がユニコーン目掛けて放たれた。空間を埋め尽くすような光の嵐。

普通なら、腕のガトリングガンやバルカンで迎撃しながら突破する局面。だが、リンは引き金にかけた指を動かさない。

「当たってたまるもんですかぁぁぁッ!!」

リンは機械の義足をペダルに深く踏み込み、スロットルレバーを限界まで押し込んだ。

戦艦用ブースターの圧倒的な推力に力任せに身を委ね、襲い来るミサイル群のわずかな隙間を、ジグザグに、肉眼では捉えきれないほどの超高速の機動で乱舞する。

ドガガガガガンッ!

ユニコーンのすぐ側でミサイルが爆発し、爆風が純白の装甲を激しく叩くが、厚い追加装甲がそれを強固に弾き返した。

一発も撃たない。ビームの一条すら放たない。

ただひたすらに、純粋な質量と圧倒的な速度の塊となって、ユニコーンは防御陣形を文字通り「置き去り」にしていった。

迎撃に現れたザクウォーリアの群れがビームライフルを構えるが、ユニコーンはその銃口が自分を捉えるよりも早く、ただの閃光となってその真横を駆け抜ける。あまりの風圧(衝撃波)に、ザクの巨体が宇宙空間で激しく翻弄された。

「……見えたッ!」

爆炎と光の網を完全に突き抜けた先。

リンの黒い瞳の前に、ついにその禍々しくも巨大な姿を現した――ザフトの最終要塞、メサイア。

ここまで、装備した武器をただの一つも使っていない。弾薬はすべて完全に満タンのまま。

無数の敵陣をただその「速度」と「操縦技術」だけで蹂躙し、一発の銃声も鳴らすことなく、フルアーマーユニコーンはついにデュランダルの待つ絶対防衛圏、メサイアの目と鼻の先へと到達した。アークエンジェルとエターナルの猛攻は、メサイアの堅牢なシールドに完全に阻まれていた。ビームが火花を散らすたび、無情にも陽電子リフレクターの輝きがそれを無効化する。

そして最悪なことに、背後の月面ではレクイエムの砲身が刻一刻とオーブへの照準を完了させようとしていた。

「オーブが……あんな場所から撃たれるなんて!」

キラとラクスの焦燥が通信越しに伝わる。これ以上レクイエムを放置すれば、オーブは完全に焼き払われる。キラとラクスがメサイアの足止めを全力で引き受け、アスランとアークエンジェルは一刻の猶予もなくレクイエムの中継拠点へと反転し、針路を取った。

混戦を極めるザフトとオーブ残存艦隊の真っ只中を斬り込んでいくアスランたち。しかし、その行く手を遮るように赤い機影が戦場を横切る。ミネルバ、そしてインパルスガンダムだ。

『アスランッ!!』

怒りと悲しみに満ちたルナマリアのインパルスの猛攻に、アスランは苦渋の表情で応戦を余儀なくされる。戦火は泥沼化し、混乱の極致にあった。

その喧騒の中、リンの通信帯に味方からの悲痛な叫びが次々と飛び込んでくる。

『こちら前衛のジェダ隊! ザフトの波状攻撃が止まらない! 第2小隊、右舷に被弾……ぐあぁぁッ!!』

『敵の数が多すぎる! 7番機、9番機がロスト! くそっ、陣形を立て直せ! 司令の道を塞がせるな!』

『ダメです、防衛線が……うわぁぁぁっ!』

「みんな……っ!」

ロンド・ベルの仲間たちが次々と火球となって散っていく。彼らが命を賭して作ってくれた道を無駄にはできない。リンは悲しみを押し殺し、反対方面から死角を突くようにメサイアへと急接近した。

――だが、そこに悪鬼のごとき速度で迫る赤い影があった。

シン・アスカの駆る、ディスティニーガンダム。

『――ッ!! あの白い機体……ッ!!』

メサイアの防衛線で哨戒していたシンは、センサーに捉えた機体に思わず目を疑った。

かつて共に戦い、そして自分の目の前で消えたはずの少女。その面影が、今のユニコーンの挙動に――その、狂気じみたまでの機動の「クセ」に、あまりにも鮮明に重なったのだ。

『なんだあの動きは……。リン……さん? いや、違う! あいつは俺の目の前で死んだんだ! なら、誰が乗ってるんだ!?』

シンの胸の内で、激しい怒りと、言いようのない喪失感が混ざり合う。

死んだはずのリンの姿を重ねる、この忌々しい純白の機体。その存在自体が、今のシンにとって「忘れるべき過去」を無理やり抉り出す呪いのように見えた。

『ふざけるなッ! 俺の、俺たちの世界を邪魔する奴は……誰だろうと排除するッ!!』

ディスティニーの背中の光の翼が最大出力で輝き、シンは凄まじい速度でフルアーマーユニコーンへ肉薄する。両手からパルマフィオキーナの破壊の光を放ちながら、白い魔神へ向かって突撃してきた。

『出てこい……ッ! 正体を見せろォォォッ!!』

「シン……!」

リンの心臓が早鐘を打つ。

かつてないほどの鋭い殺気を放つシンのディスティニー。ここで全身の重武装を使えば、シンの機体を破壊してしまうかもしれない。

リンは引き金から指を離し、フルアーマーユニコーンの背部――改修・継承された**『エターナルパック』**の機構を瞬時に展開させた。

エターナルパックから直接ビームサーベルが伸び、ユニコーンのマニピュレーターがそれを抜刀。ディスティニーのパルマフィオキーナの光輪を、ピンク色の光刃で正面から受け止める。

――ガギィィィィィンッ!!!

宇宙空間で激しい火花が散り、二機の機体が圧倒的な推力で拮抗する。

仲間が命を散らしていく中で、ついに交わってしまった二つの運命。戦場に響くのは、シンの慟哭に近い叫びと、それを必死に受け止めるユニコーンの駆動音だけだった。「シン……ッ! お願い、止まって!」

エターナルパックから形成されたビームサーベルと、シンのディスティニーのパルマフィオキーナが至近距離で激突する。火花が飛び散り、ユニコーンのコックピットには強烈な警報音が鳴り響いた。

シンの殺気は、以前とは比べ物にならないほど鋭く、冷たい。私の中のサイコフレームが、彼の深い絶望と、過去を否定しようとする狂気をダイレクトに伝えてくる。

『うるさいッ! リンさんは死んだんだ! お前は……お前だけは、俺が破壊するッ!!』

慟哭に近い叫びとともに、ディスティニーのアロンダイトが引き抜かれる。このままでは押し潰される。

「くそっ……!」

私は機械の義足をペダルに叩きつけ、脚部にマウントされていた3連装ハンド・グレネード・ユニット――追加ミサイルポッドの全弾発射トリガーを引いた。

至近距離で放たれた無数のミサイルが爆発し、ディスティニーの眼前で巨大な爆炎と煙幕を作り出す。

視界が遮られた一瞬。シンのメインカメラが眩惑(目眩まし)に陥ったその隙を見逃さず、私はフルアーマーユニコーンを最速で機動させ、煙幕の中からディスティニーの腕部を狙ってビームサーベルで斬りかかった。

――が、ザシュッという嫌な手応えが伝わる。

『舐めるなァッ!!』

シンの野生的な勘か、あるいはSEEDの発動か。ディスティニーは煙幕の中から、アロンダイトと左腕のフラッシュエッジを盾代わりにして、私のサーベルを完全に受け止めていた。

それどころか、その反撃の余波で、ユニコーンが(補給物資としてジェダ隊から受け取り)マニピュレーターに持っていた予備のビームライフルが根元から両断される。

「っ……!」

私は即座に、空になった脚部のミサイルポッドをパージした。デッドウェイトを捨て、フルアーマーの重装甲のまま、メサイア宙域での大规模な高速機動戦へと突入する。

ディスティニーの光の翼が、私の背後を執拗に追いかけてくる。

「これでもッ!」

私は頭部バルカンをディスティニーのメインカメラ目掛けて掃射した。

実弾の弾幕がディスティニーの顔面を襲うが、シンは超人的な反応で機体をわずかに逸らし、それを回避する。

接近を許せば、シンの剣技の餌食になる。

私は意を決し、エターナルパックの下部に接続されていた巨大なブースターロケットの1本を、強引に切り離した(パージ)。

「下がって、シンッ!!」

切り離されたブースターの接続プラグに向かって、私は腕部のロケットランチャーを撃ち込んだ。

――ドゴォォォォォンッ!!!

戦艦用の燃料が満載されたブースターが、ユニコーンとディスティニーの間で大爆発を起こす。

凄まじい衝撃波と爆炎が空間を支配した。私はその爆発を盾にし、ブースターの爆破の衝撃を逆に利用して、ディスティニーとの距離を一気に取った。

「ハァ……ハァ……っ!」

Gに耐えながら、私は(補給用のライフルは失ったが、まだ腕部のシールドにガトリングガンがある)残った武装で、距離を保ちつつディスティニーへビームを撃ちまくる。牽制の弾幕。

しかし、シンの執念は爆炎をも切り裂いた。

爆煙の中から、ディスティニーの背部から高エネルギー長射程ビーム砲が展開されるのが見えた。

『そこだァッ!!』

凄まじい大出力のビームが、宇宙を切り裂いて私に襲いかかる。

「しまったッ!」

私は全スラスターを吹かして回避しようとしたが、フルアーマーの重さはそのコンマ数秒を奪った。

――バキィィィンッ!

強烈な衝撃。

ビームはユニコーンの直撃こそ免れたが、右腕の追加装甲をかすめた。その瞬間、腕部に接続されていたロケットランチャーの片方が、誘爆を起こして粉々に砕け散った。

腕部に火花が走り、Gで義足が悲鳴を上げる。

『これで終わりだッ!』

勝利を確信したシンのディスティニーが、ブースターで加速し、アロンダイトを振りかぶって突撃してくる。

「……まだッ!!」

私は被弾の衝撃で機体が揺らぐのを、サイコフレームで強引に制御した。

右腕のロケットランチャーは失った。けれど、私には――左腕のロケットランチャーがまだ残っている!

ディスティニーがアロンダイトで私のコクピットを貫こうとした、まさにその刹那。

私は残った左腕のロケットランチャーを、ディスティニーの剥き出しになった頭部メインカメラへと向け、全弾を至近距離で叩き込んだ。

――ドォォンッ!

「……っ!」

ロケット弾の直撃。

ディスティニーの頭部を激しい爆発と炎が包む。

『う、うわああぁっ!? カメラが……ッ!!』

頭部に直撃を受けたディスティニーは、メインカメラからの視界を完全に奪われ、突撃の勢いを失って宇宙空間で激しく怯んだ。

アロンダイトの切っ先が、私のユニコーンの装甲をかすめる。

「ハァ……ッ、ハァ……!」

私は震える手で操縦桿を握り直し、怯むディスティニーの姿を見つめた。

片方の腕部ランチャーを犠牲にし、仲間から託されたブースターを爆破し……それでも、私はまだ、シンを止められていない。

「シン……どうして、あなたと戦わなきゃいけないの……っ」

私の黒い瞳に、悲しみと、それでも退けない覚悟が入り混じった涙が滲んだ。

ユニコーンのサイコフレームは、私たちのぶつかり合う魂に呼応するように、より一層禍々しい光を放ち始めていた。『カメラをやられたくらいで、俺が止まるかァァァッ!!』

爆炎の中から、メインカメラのバイザーを強制復旧させたディスティニーが、悪鬼のごとき形相で飛び出してきた。

「なっ……!?」

頭部が焼け焦げているにも関わらず、シンの動きに一切の迷いはなかった。

フルアーマーの重量でわずかに回避が遅れた私のユニコーンの腹部に、ディスティニーの鋭い蹴りがまともに突き刺さる。

「がはっ……!!」

凄まじい衝撃がコックピットを揺らし、私はシートに何度も身体を打ち付けた。警告音がけたたましく鳴り響き、肺から空気が弾き出される。

息をつく暇すら与えず、シンは巨大な対艦刀アロンダイトを力任せに振り下ろしてきた。

『消えろォッ! 過去の亡霊がァッ!!』

「くぅぅっ……!!」

私は咄嗟にシールドで受け流そうとするが、フルアーマーの重装備とシンの尋常ではないパワーに押され、防戦一方になる。

義足の付け根がミシミシと悲鳴を上げ、アロンダイトの凶悪な刃が少しずつユニコーンの装甲を削り始めていた。

(このままじゃ……押し切られる……っ!)

その時だった。

『司令! 持ち堪えてください!』

『俺たちが相手だ、化け物めッ!』

通信とともに、左舷の宙域から2機のジェダが猛スピードで滑り込んできた。

彼らは完璧なフォーメーションを組みながら、ディスティニーの死角を突いてビームライフルを連射する。正確な援護射撃の雨が、ディスティニーの装甲をかすめた。

『チィッ……! 雑魚が、邪魔をするなァッ!!』

シンが忌々しげに舌打ちをし、アロンダイトの狙いを一瞬だけジェダ隊へと逸らした。

(今よッ!!)

私はジェダ隊が作ってくれたこの一瞬の隙を逃さなかった。

エターナルパックからビームサーベルを引き抜き、スラスターを全開にしてディスティニーの懐へと飛び込む。

「ハアアアアッ!!」

私のピンク色のビーム刃と、シンのアロンダイトが正面から激突する。

宇宙空間に凄まじい閃光が走り、二機のガンダムが文字通りの『鍔迫り合い』に持ち込まれた。

『なぜだ……! なぜお前は、俺たちの邪魔をするッ!!』

「あなたたちがやろうとしていることは、ただの支配よ! 誰もそんなこと望んでないッ!!」

ギリギリと火花を散らしながら、互いの機体が悲鳴を上げる。

だが、純粋な機体の推力とパワーでは、最新鋭のディスティニーに分があった。私のユニコーンが少しずつ、後ろへと押し込まれていく。コンソールの出力ゲージが限界を報せ、サイコフレームが明滅する。

(力が、足りない……! このままじゃ、ジェダ隊も、みんなも……!)

私の脳裏に、シロッコに屈しかけた自分を引っ張り上げてくれた仲間たちの顔がよぎった。

みんなが繋いでくれた命。私だけが、ここで負けるわけにはいかない。

「私だって……負けるわけには、いかないのよォォォォッ!!」

私が心の底から叫んだその瞬間。

コックピットのコンソールが、突如として警告の赤から、禍々しくも神々しい光へと反転した。

『システム・推移:NT-D(ニュータイプ・デストロイヤー)――起動(スタンバイ)』

「え……っ?」

ガション、ガションッ!!

ユニコーンの全身の装甲が、けたたましい駆動音とともにスライド展開を始める。

重装甲の隙間から露出したサイコフレームが、私の高ぶる感情と決意に呼応し、血のような赤、いや、すべてを焼き尽くすような強烈な輝きを放ち始めた。

リミッターが強制解除され、機体のジェネレーター出力が常識外れの数値を叩き出す。

『な、なんだ!? 機体が、変形……!?』

シンが驚愕の声を上げる。

NT-Dが起動したユニコーンは、もはや先程までの動きとは完全に別物だった。

私自身の脳波と機体が完全に直結し、思考するよりも早く、機体が私の「押し返せ」という意志に反応する。

「おおおおおおおッ!!」

『ば、馬鹿なッ! ディスティニーが、パワーで……押し負ける!?』

ユニコーンの凄まじい出力が、アロンダイトごとディスティニーを強引に弾き飛ばした。

「いくわよ、シンッ!!」

私は弾き飛ばされて体勢を崩したディスティニーに食らいつく。

ここからは、純粋な反応速度と剣技のぶつかり合い。シンの光の翼と、私のNT-Dの赤い残光が、宇宙空間で複雑な幾何学模様を描きながら何度も交差する。

『くそォォォッ!!』

シンが焦りを剥き出しにし、大振りの一撃を放ってきた。

――見えた。サイコフレームが、シンの殺気の軌道を完全に私に教えてくれている。

「そこッ!!」

私はディスティニーの懐へ紙一重で潜り込み、下から上へと、ビームサーベルを一閃させた。

ザシュゥゥゥゥンッ!!!

『がぁぁぁっ!?』

閃光が走り、ディスティニーの左腕が、肩の関節から綺麗に切断されて宇宙空間を舞った。

火花と冷却ガスを吹き出しながら、片腕を失ったディスティニーが大きくバランスを崩し、後方へと後退していく。片腕を斬り落とされたディスティニーは、後退するどころか、その瞳孔から一切の感情を消し去っていた。

シンの頭の中で、何かが弾ける音がした。

――種割れ(SEED)の覚醒。

『おおおおおぉぉぉッ!!』

ディスティニーの背部に残された光の翼が、異常なまでの出力を放ち、片腕であることを補って余りあるほどの爆発的な推力を叩き出す。

「なっ……速っ――!」

押し返される。NT-Dを発動したユニコーンのパワーをもってしても、完全に理性を飛ばしたシンの野生的な一撃は重すぎた。

アロンダイトの凶刃が閃き、フルアーマーユニコーンの右脚を無慈悲に斬り裂いた。

「ああっ!」

分厚い装甲が弾け飛び、右脚が膝から下ごと宇宙空間へパージされる。機体との過剰な同調が、失われた右脚――義足の切断の痛みを錯覚させ、私は激痛に顔を歪めた。

それでも、私は退かずに近接戦を仕掛けようと機体を前へ出した。だが、その瞬間。

ズキィィィンッ!!

「がっ、あ……!?」

突然、頭蓋骨を内側から割られるような、激しい頭痛が襲ってきた。NT-Dが限界を超えてサイコフレームを共鳴させ、戦場に散った無数の死者たちの思念を、私の脳内に直接流し込んでくる。

『殺せ』『シン・アスカを殺せ』『そいつは敵だ』『お前を殺そうとしている』

どす黒い怨嗟の声が、呪いのように耳元で囁く。

「違う……ッ! 私は、彼を殺したいわけじゃ……黙って、お願いだからッ!」

私は割れそうな頭を振って死者たちの声に必死に抵抗し、襲い来るディスティニーの猛攻と刃を交える。だが、激痛と幻聴に意識が乱れた一瞬の隙を突かれ、ディスティニーの強烈な回し蹴りがユニコーンの手首を打ち据えた。

「しまっ……!」

手首が弾かれ、握っていた1本目のビームサーベルが宇宙の闇へと蹴り飛ばされてしまう。

『死ねェェェッ!!』

丸腰になった私へ、アロンダイトが迫る。私は歯を食いしばり、残されたエターナルパックから咄嗟に2本目のビームサーベルを引き抜いた。

「させないッ!!」

すれ違いざまにサーベルを振り抜き、ディスティニーの背部から広がる光の翼の一部を斬り落とす。さらに機体を沈み込ませ、下段からの斬り上げで、ディスティニーの足首をスパッと切断した。

『ぐああっ!?』

推進の要である翼を削がれ、足場を失ったディスティニーの動きが大きく鈍る。

(今なら……制圧できる!)

私は2本目のビームサーベルを構え直し、トドメではなく、機体を完全に無力化しようとディスティニーを見据えた。

だが、そのボロボロになった機体と、シンが向けてくる強烈な憎悪の思念をサイコフレーム越しに感じ取った瞬間――私の脳裏に、ある光景がフラッシュバックした。

『ステラァァァァッ!!』

デストロイの残骸の中で慟哭するシンの声。私がその手で奪ってしまった、ステラの命。忘れることのできない、あの血の感触。

「あ……、っ……は……!」

突如として、激しい過呼吸が私の喉を塞いだ。

息が、吸えない。視界が真っ暗に明滅し、操縦桿を握る手がカタカタと激しく痙攣し始める。ステラへの罪悪感とトラウマが、限界を越えていた私の精神を完全にへし折った。

「いや、だ……ちが……っ、は、ハァ……ッ」

ユニコーンの動きが、完全に止まった。

その致命的な硬直を、覚醒状態のシンが見逃すはずがなかった。

『これで、終わりだァァァァッ!!!』

狂乱の叫びと共に、ディスティニーが残った全スラスターを吹かし、凄まじい速度で突進してくる。

過呼吸で動けない私の目の前で、巨大なアロンダイトの切っ先が、コックピットのド真ん中へと一直線に迫ってきていた。、『死ねェェェッ!!!』

咆哮とともに、シンのアロンダイトがユニコーンのコックピットへと真っ直ぐに突き刺さる――その、刹那だった。

ビキィィィン……ッ!!!

シンの脳裏に、かつてないほど強烈な「ニュータイプの閃き」が走った。未知の機体であるはずの白いモビルスーツの奥に、はっきりと見えたのだ。過呼吸に苦しみ、涙を流しながら必死に自分を見つめる、リンの姿が。

(――リン、さん……!?)

かつてナラティブガンダムを落とした時とは違った。あの時の後悔と、今度こそ大切な人を失いたくないというシンの本能が、激突の直前でアロンダイトの軌道を強引に捻じ曲げさせた。

ギギギガガガガガッ!!!

凄まじい金属音を立てて、対艦刀はコックピットを外れ、ユニコーンの腰部を激しくかすめ飛び去った。サイドスカートの装甲が火花を散らして弾け飛ぶが、致命傷には至らない。

ディスティニーはそのままユニコーンの胸ぐらを掴むように肉薄し、シンは全回線を開いて怒鳴り散らした。

『なんで……なんでリンさんが生きているんだよッ!? だったら、なんで今まで俺の前に現れなかったんだ!? なんで……なんでそっち側(オーブやロンド・ベル)について、俺たちの邪魔をするんだよぉぉぉッ!!』

シンの叫びは、怒りと、それ以上の困惑と悲痛に満ちていた。

「シ、ン……、ぁ……っ、は、あ……っ」

しかし、リンにはまともに応える余裕すら残されていなかった。

激しい過呼吸に加え、限界まで赤く輝くユニコーンのサイコフレームが、恐ろしい弊害を引き起こし始めていた。メサイア宙域、レクイエム周辺――この広大な戦場に渦巻く、何千、何万という兵士たちの「生々しい殺意」と「剥き出しの憎悪」を、サイコフレームがすべて受信し、リンの脳内へ強制的に叩き込んできたのだ。

『殺せ』『死ね』『オーブを滅ぼせ』『プラントの仇を』

宇宙を埋め尽くすドス黒い感情の津波。それはリンの精神を内側から粉々に壊そうと、容赦なく襲いかかる。

「う、あ、あああああああッッ!!! 違う、私は……みんなを、守りたくて……っ!!」

リンは頭が狂いそうになるほどの精神汚染に、歯を食いしばって必死に耐えた。精神の核だけは、絶対に闇に染まるまいと抵抗し続けた。

だが、心は耐えても、少女の肉体はとっくに限界を迎えていた。鼻からは再び鮮血が溢れ、心臓が爆発しそうなほどに跳ね上がる。

「シン……私は……、あなたと……戦いたくなんて……っ……」

モニターに映るシンの顔を見つめながら、リンの視界は急激に真っ暗へと染まっていく。

カクリ、と。リンの首が力なく傾き、彼女は操縦桿を握ったまま意識を失い、完全に気絶した。

『リンさん!? おい、しっかりしろ、リンさん!!』

シンの焦燥の声が響く。だが、パイロットの意識が消失したその瞬間――

フルアーマーユニコーンのシステムが、不気味な電子音を鳴り響かせた。

『――システム、パイロットの意識喪失を確認。オートマチック・モードへ移行。……プログラム:NT-D、完全駆動』

ガチチチチチッ!!!

ユニコーンの全身のサイコフレームが、リンの意志を離れ、血のような赤から、より一層禍々しい暗赤色へと輝きを変えた。

機体を動かすのは、リンの心ではない。ニュータイプを完全に駆逐するためだけに作られた、非情なる殺戮システム「NT-D」そのもの。

システムは、目の前にいる『種割れ(SEED)』を起こした強大な脳波の主――シン・アスカを、排除すべき最高危険度の「ニュータイプ」としてロックオンした。

ギロリ、とユニコーンの頭部メインカメラが、冷徹な光を放ってディスティニーを捉える。

『な、んだ……これ……!?』

シンが本能的な戦慄を覚えた瞬間、ユニコーンはシンのディスティニーの手を力任せに振り払い、残された左腕のビームガトリングガンをゼロ距離で突きつけてきた。

意思を失った純白の魔神が、シンを殺すためだけに、狂暴な獣となって牙を剥いた。『やめろッ! リンさん、起きろよ! なんでそんな……ッ!』

シンはディスティニーの片腕でユニコーンの銃口を逸らそうとするが、今のユニコーンはまるで意思を持った殺戮兵器そのものだった。

リンの気絶したコックピット内では、サイコフレームが暴走の極みに達していた。

「あ……あああッ、ぁぁぁぁッ!!」

暗闇の中で、リンは絶叫と共に意識の淵で引き裂かれていた。

強制的に流れ込んでくる無数の記憶、断末魔。自分が手にかけてきた者たちの無念、憎しみ、そして彼らにもあったはずの「生きたい」という叫び。それらがまるで万華鏡のように脳内を駆け巡り、リンの理性を焼き尽くしていく。

リンは発狂したように自分の頭をコックピットのコンソールに何度も叩きつけた。

ガツン、ガツンと鈍い音が響く。その衝撃の中で、リンの瞳の色が激しく揺らぎ――深い黒から、爛々と輝く**『虹色』**へと変貌を遂げた。

(……見えた……みんなの声が……痛い、熱い、怖いよぉぉぉッ!!)

彼女には、過去に奪ったすべての命の『感情』が、今まさに追体験させられている。その罪の重さに、リンはコックピットの中で嗚咽を漏らし、震え続けた。

だが、外側にいるシンに、その凄絶な苦しみを知るよしはない。

ただ、白き機体がリンの意志を無視し、自分を殺そうと動いているという事実だけが、シンの眼前に突きつけられていた。

「……ッ、は、シン……っ、助け……て……」

リンの唇が震え、消え入りそうな声が漏れた。

その言葉を残して、リンは再び意識の奈落へと沈み、完全に沈黙した。

『リンさん!?』

シンの呼びかけに応える者はもういない。

機体は冷徹な機械の殺意のみに支配された。ユニコーンはシンの制止を完全に無視し、暴風のような加速で肉薄する。

『くそっ……! まさか、俺がお前を撃つなんて……!』

NT-Dの制御下にあるユニコーンは、人間離れした機動でディスティニーを翻弄する。

シンがアロンダイトを構えるより早く、ユニコーンは死角へと回り込み、エターナルパックから引き抜いたビームサーベルでディスティニーを執拗に追い詰める。

そして、ユニコーンは容赦なく頭部のバルカンを解放した。

ダダダダダダダッ!!

至近距離から叩き込まれる実弾の弾幕。

ディスティニーの頭部を、肩を、翼を。ユニコーンは殺意を込めた精密射撃で、シンを逃がさず、確実に破壊しようと弾丸を浴びせ続ける。

『うあぁぁっ!? ……リンさん、お願いだ、目を覚ましてくれぇッ!!』

シンの悲痛な叫び声が戦場に虚しく響く。

リンの心は今、かつて殺した無数の死者たちの海に沈み、抜け出せなくなっていた。そして、彼女の乗る純白の魔神は、かつて彼女を守ろうとした少年を、文字通り「亡き者にしよう」と、狂ったように火線を撒き散らしていた。

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