※この作品はR-18です。

強化人間がSEEDの世界で活躍します   作:ナラティブ

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31話

『やめろッ! リンさん、起きろよ! なんでそんな……ッ!』

シンはディスティニーの片腕でユニコーンの銃口を逸らそうとするが、今のユニコーンはまるで意思を持った殺戮兵器そのものだった。

リンの気絶したコックピット内では、サイコフレームが暴走の極みに達していた。

「あ……あああッ、ぁぁぁぁッ!!」

暗闇の中で、リンは絶叫と共に意識の淵で引き裂かれていた。

強制的に流れ込んでくる無数の記憶、断末魔。自分が手にかけてきた者たちの無念、憎しみ、そして彼らにもあったはずの「生きたい」という叫び。それらがまるで万華鏡のように脳内を駆け巡り、リンの理性を焼き尽くしていく。

リンは発狂したように自分の頭をコックピットのコンソールに何度も叩きつけた。

ガツン、ガツンと鈍い音が響く。その衝撃の中で、リンの瞳の色が激しく揺らぎ――深い黒から、爛々と輝く**『虹色』**へと変貌を遂げた。

(……見えた……みんなの声が……痛い、熱い、怖いよぉぉぉッ!!)

彼女には、過去に奪ったすべての命の『感情』が、今まさに追体験させられている。その罪の重さに、リンはコックピットの中で嗚咽を漏らし、震え続けた。

だが、外側にいるシンに、その凄絶な苦しみを知るよしはない。

ただ、白き機体がリンの意志を無視し、自分を殺そうと動いているという事実だけが、シンの眼前に突きつけられていた。

「……ッ、は、シン……っ、助け……て……」

リンの唇が震え、消え入りそうな声が漏れた。

その言葉を残して、リンは再び意識の奈落へと沈み、完全に沈黙した。

『リンさん!?』

シンの呼びかけに応える者はもういない。

機体は冷徹な機械の殺意のみに支配された。ユニコーンはシンの制止を完全に無視し、暴風のような加速で肉薄する。

『くそっ……! まさか、俺がお前を撃つなんて……!』

NT-Dの制御下にあるユニコーンは、人間離れした機動でディスティニーを翻弄する。

シンがアロンダイトを構えるより早く、ユニコーンは死角へと回り込み、エターナルパックから引き抜いたビームサーベルでディスティニーを執拗に追い詰める。

そして、ユニコーンは容赦なく頭部のバルカンを解放した。

ダダダダダダダッ!!

至近距離から叩き込まれる実弾の弾幕。

ディスティニーの頭部を、肩を、翼を。ユニコーンは殺意を込めた精密射撃で、シンを逃がさず、確実に破壊しようと弾丸を浴びせ続ける。

『うあぁぁっ!? ……リンさん、お願いだ、目を覚ましてくれぇッ!!』

シンの悲痛な叫び声が戦場に虚しく響く。

リンの心は今、かつて殺した無数の死者たちの海に沈み、抜け出せなくなっていた。そして、彼女の乗る純白の魔神は、かつて彼女を守ろうとした少年を、文字通り「亡き者にしよう」と、狂ったように火線を撒き散らしていた。ダダダダダダダッ!!!

ディスティニーの装甲を無慈悲に穿つバルカンの金属音が、昏睡するリンの意識の底にまで響いていた。

(……痛い、やめて……誰か、止めて……っ)

脳内に逆流し続ける、過去に自分が奪ってしまった命たちの絶叫。その激痛と恐怖の中で、リンの心は、激しい自己嫌悪の海へと急速に沈んでいった。

(ああ……そうか。私が悪かったんだ。私が、あの人たちを殺したから……。私が弱いから、こんなシステムに呑まれて……シンを、大切な人を、また殺そうとしている……!)

『全部、私のせいだ。私が、全部悪いんだ……!!!』

その強い罪悪感と、これ以上誰も傷つけたくないという魂の叫びが、限界を超えていたリンの意識を強引に引きずり戻した。

ハッと目を開いたリンの瞳は、まだ禍々しい虹色に狂ったように明滅している。しかし、彼女は血の滲む唇を噛み締め、震える手で暴走するレバーを力一杯に引き戻した。

「止まれ……っ! 止まりなさい、ユニコーン――ッ!!!」

リンの命を削るような悲痛な叫び。

パイロットの明確な拒絶の意志が、機体のニュータイプ・ドライブ(NT-D)のシステムへと叩き込まれる。赤く、禍々しく燃え上がっていたサイコフレームの輝きが、リンの強い意志に押されるようにして、一瞬、激しく明滅した。

ガガガガガガッ……チィィィン……!

ディスティニーの頭部目掛けて放たれ続けていたバルカンの火線が、ピタリと止まった。

ユニコーンはまるで、目に見えない鎖で縛り付けられた獣のように、その場で激しくガタガタと機体を震わせながら制動をかける。メインカメラの冷酷な光が、リンの必死の抵抗によって、辛うじてその動きを凍りつかせた。

コックピットの中で、リンは激しく息を乱しながら、モニターの向こうのディスティニーを見つめる。額からの血が目元を濡らし、視界は真っ赤に染まっていたが、それでも彼女は、自分の罪と向き合いながら、必死に操縦桿を抑え込んでいた。

「はぁ、はぁ……っ、シン……逃げて……っ。私は……私は、ここにいちゃいけない人間だから……っ!!」

自分がすべて悪いと、己を責め苛みながらも、リンは大切な少年を守るため、暴走する白き魔神をその細い腕で必死に止め続けていた。「……っ、う、あぁぁぁぁッ!!」

渾身の力を込めて操縦桿を引く。私の意志に呼応し、暴走していたユニコーンの駆動音が徐々にトーンダウンしていく。禍々しく明滅していたサイコフレームの輝きが、波打つように落ち着きを取り戻し、機体は完全に私の制御下へと戻ってきた。

荒い息を吐きながら、私は通信回線を開き、目の前で動きを止めているディスティニーへと呼びかけた。

「シン……聞いて、お願い……っ」

かすれそうになる声。それでも、これだけは自分の口から伝えたかった。彼が抱える憎悪の根源、その罪から逃げてはいけないと分かっていたから。

「ごめんなさい……。私が、ステラを殺したの。彼女の命を奪って、あなたをあんなに傷つけたのは……私なのよ。全部、私が悪かった……っ!」

涙で霞む視界の向こうで、ディスティニーが微かに揺れた。

私の痛切な謝罪が、シンの怒りに満ちた心を一瞬だけ立ち止まらせたのが、サイコフレーム越しに伝わってくる。

『リン、さん……あんたが……』

シンが何かを言いかけた、まさにその瞬間だった。

――ビキィィィンッ!!!

「え……っ!?」

突如、脳裏を貫く鋭い閃き。

ニュータイプの直感が、これから起こる最悪の未来のビジョンを私の脳内に直接叩き込んできた。

燃え盛る宇宙。メサイアの防衛網を突破しようとしていたピンク色の戦艦――エターナルが、ザフトの集中砲火を浴びてシールドを破られ、艦橋から大爆発を起こして轟沈していく、凄惨な光景。

「ラクスさん……キラ……!? ダメ、エターナルが沈むッ!!」

謝罪の言葉はそこで途切れた。

このままここにいれば、エターナルは完全に沈められ、ラクスもキラも死んでしまう。

「ごめん、シン……私、行かなきゃ!!」

私は涙を拭う暇もなく、フルアーマーユニコーンを反転させた。残されたスラスターを全開にし、ディスティニーに背を向けて、エターナルが位置するメサイアの反対宙域へと爆発的な速度で急行する。

「待ってて、ラクスさん……今、そっちにいくから!!」

取り残された戦域。

煙が晴れていく宇宙空間で、片腕と光の翼の一部を失ったディスティニーだけが、ポツンとその場に漂っていた。

コックピットの中、シンは遠ざかっていく純白の機体の光の尾を、ただ呆然と見つめていた。

『ごめんなさい。私が、ステラを殺したの』

さっきまで自分を殺そうとしていた悪魔のような機体。しかし、そこから聞こえてきたのは、間違いなく自分の知る「リン」の、震えるような謝罪の声だった。ステラを殺した憎い仇。自分を裏切り、オーブ側についた敵。……そのはずなのに。

「なんだよ、あれ……。なんで、あんなに泣きそうな声で……っ」

シンの胸の奥で、黒い怒りの炎が急速に勢いを失っていく。

代わりに湧き上がってきたのは、ステラへの喪失感、リンが生きていたことへの安堵、そして自分を置いて戦場へ駆けていった彼女への、どうしようもない焦燥。

正体のわからない、ドロドロとした感情の渦。

この胸を掻き毟りたくなるような『モヤモヤ』の正体は何なのか。

「俺は……俺は、どうすればいいんだよ……ッ!」

シンは操縦桿を握りしめたまま、行き場のない感情を吐き出すように、誰もいなくなった宙域でただ一人、低く唸り声を上げた。

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