メサイアの司令室。巨大なメインモニター越しに、戦場を駆ける純白の機体――ユニコーンの姿を捉えたギルバート・デュランダル議長の瞳が、微かに見開かれた。
「あれが、未知の機体……白き一角獣か。なんという、美しくも恐ろしい光だ」
暴走から覚め、自らの意志で宙を舞うその姿に、デュランダルの心は確かに一瞬、揺らされた。だが、彼の冷徹な決断が鈍ることはなかった。
「だが、世界を導くデスティニープランを阻むというのなら、消え去ってもらうしかない。……ネオ・ジェネシス、照準レクイエム上空。撃て」
非情なる決断。放たれたネオ・ジェネシスの凶悪なガンマ線レーザーは、レクイエム上空で混戦を繰り広げていたザフトの味方艦隊ごと、すべてを光の奔流で一掃した。
「嘘でしょ……!? 味方ごと撃ったっていうの!?」
私は思わず息を呑み、血の気を引かせた。だが、驚愕している暇はない。デュランダルは間髪入れず、本命であるレクイエムの起動シークエンスに入っていたのだ。
「撃たせるもんかぁぁぁッ!!」
私はスラスターを全開にし、レクイエムの砲口へと猛スピードで突っ込む。その射線上、巨大な防衛システムの前で苦戦している2機の機影を見つけた。
ネオのオオワシアカツキと、アスランのインフィニットジャスティスだ!
「ネオ! アスラン!!」
私の叫びと呼応するように、ユニコーンの装甲の隙間から漏れるサイコフレームの光が、赤から、透き通るような美しい『青』へと変化した。それは怒りでも絶望でもない、仲間を想う祈りの光。
ユニコーンは両腕を伸ばし、そのマニピュレーターでアカツキとジャスティスの機体をそっと握りしめた。
『おっと……!? なんだい、こりゃあ。機体が……いや、心が、ひどく暖かい……』
『リン……君なのか? これは……!』
ネオとアスランの声が、共鳴する意識の中に響く。青い光の波動が3機を包み込み、ユニコーンのサイコフレームの影響を受けた彼らの機体のジェネレーター出力が、限界を超えて跳ね上がった。
『行くぞ、ネオ!』
『ああ、見せてもらおうじゃないの、君の奇跡ってやつをね!』
青いオーラを纏い、出力を底上げされた2機の驚異的な突進と連携攻撃が、レクイエムの強固な防衛線を完全に突破。急所を的確に貫かれたレクイエムは、発射寸前で内部から大爆発を起こし、宇宙空間に巨大な火柱を上げて崩壊した。
「……やった……! 最悪の事態は、防げた……!」
残るは、デュランダルの座乗する巨大要塞メサイアのみ。
『覚悟はある。僕は戦う……!』
キラの決意の声と共に、ミーティアを装備したストライクフリーダムが圧倒的なビームの乱舞を放ち、ついにメサイアの強固なシールドシステムを完全に破壊し去った。
「今だ! 全機、メサイアへ一斉攻撃!」
激戦を生き残ったロンド・ベルのジェダ24機が一斉に陣形を組む。
『残弾全部ぶち込んでやる!! ロンド・ベルの意地を見せろぉっ!』
ジェダ部隊が余らせていた対艦大型ミサイル、そして3連装肩部ミサイルポッドの全弾が、宇宙を埋め尽くすほどの弾幕となって放たれた。オーブ残存艦隊の砲火、そして、私が構えるユニコーンのビームガトリングガンの火線がそれに続く。
「これで……これで、終わらせるんだァァァッ!!」
無数のミサイルとビームの嵐が、丸裸になったメサイアの装甲を次々と打ち砕き、内部へと致命的なダメージを与えていく。
連鎖的な大爆発に包まれ、運命を強要しようとした巨大な要塞は、ついにその沈黙の時を迎えたのだった。激戦が終わり、私はフルアーマーユニコーンをロンド・ベルの旗艦『ラー・カイラム』の格納庫へと帰還させた。
機体を降りて、鉛のように重い足取りで艦のブリーフィング・ルームへと向かう。そこで端末に表示された帰還報告のリストを見て、私は思わず息を呑んだ。
ジェダ部隊、そして艦の直掩を務めていた守備隊を含めても……生き残ったパイロットは、わずか『17名』。
「嘘……」
出撃前には、あんなにたくさんの声が響いていたのに。
私がもっと早く戦線を押し上げていれば。私がもっとうまく機体を制御して、敵の波を食い止めていれば、失われずに済んだ命があったんじゃないか。
ズシリと重い後悔が胸に押し寄せ、私はモニターの前で俯き、ギリッと唇を噛み締めた。自分が不甲斐ないせいだと、また思い詰める暗い思考に引きずり込まれそうになった、その時だった。
「……ほらよ」
不意に、視界の端からコツンと温かい缶が押し付けられた。
ハッとして顔を上げると、そこには疲労の色を濃く滲ませながらも、鋭く力強い瞳をした副艦長が立っていた。彼がぶっきらぼうに差し出してきたのは、部隊でよく配給される、甘くて温かい気休めのドリンクだった。
「副艦長……」
「お前一人が背負い込むことじゃない。生き残った17名は、お前が前を切り拓いてくれたから帰ってこれたんだ。……気休め程度だが、少しは飲んで一息つけ」
荒っぽい口調の裏にある、確かな労わりの言葉。
私は手渡されたドリンクを受け取り、その温もりを両手で包み込んだ。張り詰めていた心が、ほんの少しだけ解けていくのがわかる。
「……ありがとうございます、副艦長」
小さく感謝の言葉を口にして、私はドリンクを一口だけ喉に流し込んだ。甘い味が、疲弊しきった身体と脳に染み渡っていく。
いつまでも思い詰めて、立ち止まっている時間はない。宇宙(そら)にはまだ、助けを待っている人たちがいるのだ。
私は空になった缶を握りしめ、顔を上げた。
「副艦長。これより、私は宙域に取り残されている負傷兵と、機体を失ったパイロットの回収作業を急ぎます。まだ、やれることはありますから」
そう報告し、私は涙を拭って踵を返した。
失われた命に報いるためにも、今はただ、一人でも多くの命を救うために。私は再び、ユニコーンの待つ格納庫へと走り出した。
通信越しにメサイア内部からの緊急回線が繋がった時、私は自分の目を疑った。
燃え上がる司令室の中で、キラとデュランダル議長が対峙している。そこへ駆けつけたタリア艦長が、静かにその最期を見守っていた。
レイの銃口がキラを捉えていた。だが、キラの真っ直ぐな言葉が、レイの凍りついていた心を溶かしていくのが通信越しにも分かった。
刹那、乾いた銃声が響く。撃たれたのは、キラではなく、デュランダル議長だった。
「…っ、議長…!」
タリア艦長が瀕死のデュランダルへ駆け寄る。
彼女の目は、裏切りや憎しみではなく、ただ愛する人への慈愛に満ちていた。キラを見つめ、静かに「逃げなさい」と告げるその声は、驚くほど穏やかだった。
彼女はレイを傍らに呼び寄せ、まるで本当の家族のように、3人で身を寄せ合った。
「…あ…」
次の瞬間、巨大な炎が司令室を飲み込み、映像が途切れる。
メサイアが、その存在ごと宇宙の塵へと帰していく。私はラー・カイラムの艦橋で、ただその光の跡を見つめることしかできなかった。
戦いは終わった。でも、これで本当にすべてが解決したのか?
巨大な要塞が消えた後の宇宙には、冷たい静寂だけが漂っている。
これから私たちが歩んでいく未来は、決して平坦な道じゃない。混迷を極める明日に向けて、私たちは何を背負い、どう生きていくべきなのか。
月面に残されたシンやルナマリアのこと、生き残った17名の仲間たちのこと、そしてここで命を落とした彼らのこと。
その全てを胸に刻み、私は静かに窓の外の宇宙を見つめた。終わりのない問いと、それでも続いていく命の重さを感じながら――。