アークエンジェルを降りた私は、護衛として同行してくれた2名のパイロット(アンクシャとゼータプラスを駆る頼もしい仲間たちだ)を引き連れ、ラクスたちと共にファンデーション王城の中心にある荘厳な議事堂へと足を踏み入れた。
そこで私たちを待っていたのは、豪奢な玉座に腰掛ける幼い少女――ファンデーション王国を統べるアウラ女帝だった。
「よく来てくれましたね、コンパス、そして新生ロンド・ベルの皆さん」
アウラ女帝の隣には、宰相であるオルフェと、その側近であるイングリッドが静かに控えていた。オルフェが一歩前に出て優雅に一礼すると、イングリッドと共に、ファンデーション王国の建国理念や、彼らが築き上げた現在の体制について淀みなく説明を始めた。彼らの統治システムや復興の早さは、外から見ていた以上に洗練されたものだった。
一通りの説明が終わると、アウラ女帝が小さくため息をつき、憂いを帯びた声で切り出した。
「ブルーコスモスの残党……ミケール大佐の件には、わたくしたちファンデーションも大変困っているのです。彼らの野蛮なテロ行為は、平和を愛するこの国にとっても決して看過できるものではありません」
「女帝陛下のおっしゃる通りです。我々も、彼らの暴挙を食い止めるために協力を惜しみません」
オルフェが真摯な表情で同調する。
そこから、ラクスやキラ、そして私を含めたメンバーで、ミケール大佐をどのように包囲し追い詰めるかについて少しの間話し合った。ファンデーションの戦力と情報網が加われば、別働隊として動く私たちネェル・アーガマの挟撃作戦もより確実なものになるはずだ。
ある程度の作戦の方向性がまとまったところで、イングリッドが静かに歩み寄ってきた。
「長旅と会議でお疲れでしょう。よろしければ、王城内の訓練場へご案内いたしましょう」
イングリッドの案内に従い、私たち一行は広大な王城内にある屋内訓練場へと移動した。
そこでは、すでに激しい剣戟の音が響き渡り、白熱した模擬戦が行われていた。
「だあああっ!!」
気合の入った叫び声を上げながら鋭く木剣を振るっているのは、シンだった。
対するは、ファンデーションが誇る精鋭、近衛師団(ブラックナイトスコード)の騎士。シンの猛攻を涼しい顔で捌きつつ、隙を突いて重い反撃を繰り出している。お互い一歩も引かない息もつかせぬ一騎打ちに、私は思わず息を呑んで見入ってしまった。
その時、訓練場にいた別の近衛師団の騎士が、私の背後に控える2名の護衛パイロットに向かって、少し挑発するように笑いかけた。
「どうだ? そちらの護衛の方々も、軽く手合わせでもしてみるかい?」
しかし、2人のパイロットは表情一つ変えることなく、冷たく首を横に振った。
「お誘いは光栄ですが、お断りします」
「我々の最優先任務は、リン司令の護衛ですので。ここで無駄な体力を使うわけにはいきません」
一切の隙を見せずピシャリと撥ね退けた2人の言葉に、騎士は「そうかい、そいつはつまらないな」と肩をすくめて引き下がっていった。
(ふふっ、本当に頼りになるんだから)
私は心の中で彼らに感謝しながら、再びシンと近衛師団の激しい打ち合いへと視線を戻した。
きらびやかなシャンデリアが照らす大広間では、ファンデーション王国主催の豪奢な歓迎の晩餐会が開かれていた。
ふとフロアの中心に目を向けると、ラクスがファンデーションの宰相であるオルフェの手を取り、優雅にステップを踏んでいるのが見えた。まるで絵画のように美しい光景。けれど、その二人の様子を見つめながら、私は心の奥底でチクリとした正体不明の『違和感』を覚えていた。
(何だろう、この感じ……)
オルフェのエスコートは完璧だし、ラクスも微笑んでいる。けれど、どこか噛み合わないような、薄ら寒いような感覚。
私は小さくかぶりを振った。
(でも……相手はこのファンデーション王国の首相みたいなものだし。いくらコンパスの総裁とはいえ、公の場で国賓としてのダンスの誘いを無下に断るわけにはいかないわよね……)
そう自分を納得させ、モヤモヤした思考を打ち切って自分の席へと戻った。
いくら悩んでいてもお腹は減る。私は気を取り直して、壁際にズラリと並んだバイキング形式の豪華な料理の山へと向かった。ファンデーションの料理はどれも絶品で、私は護衛の2人が少し呆れるくらい、お皿いっぱいに料理を盛り付けて次々と平らげていった。
「ふぅ……美味しかった。でも、甘いものは別腹よね」
メイン料理を満喫した私は、食後の楽しみを探してデザートコーナーへと足を運んだ。美しく飾り付けられた色とりどりのケーキやゼリーを前に、どれにしようかと真剣に悩んでいると、隣から「うーん……」という聞き覚えのある唸り声が聞こえた。
見ると、シンが空のお皿を持ったまま、ショーケースの前で眉間にしわを寄せて固まっていた。
「あれ、シン。あなたもデザート選びで迷ってるの?」
「あ、リンさん。そうなんすよ。どれも美味そうで、種類が多すぎて……全部いきたいんですけど、さすがにもうお腹がいっぱいで……」
シンが悔しそうにケーキの山を睨みつけていると、背後からパタパタと足音が近づいてきた。
「もう、シンったら。お肉料理あんなに山盛り食べてたのに、まだそんなに真剣に悩んでるの?」
少し呆れたような、でも優しい声と共に現れたのは、綺麗にドレスアップしたルナマリアだった。彼女は私たちの横に立つと、ふわりと笑ってショーケースの中にある一つのグラススイーツを指差した。
「ほら、迷ってるならこれにしなさいよ。さっき私も食べたんだけど、ベリー系のフルーツの酸味がしっかり効いてて、お肉の食後でもサッパリ食べられるわよ。すっごく美味しかったし」
「マジ? じゃあ俺これにする!」
シンはパッと表情を明るくして、嬉しそうにそのグラススイーツをお皿に乗せた。
ルナマリアはふふっと笑い、私の方にも視線を向ける。
「リンさんもいかがですか? たくさん食べてたみたいですし、お口直しにピッタリですよ」
「うん、美味しそう! じゃあ私もそれにしようかな」
ラクスのダンスを見て感じたあの妙な違和感も、シンとルナマリアのいつもの微笑ましいやり取りを見ているうちに、甘いデザートと共に少しずつ溶けていくような気がした。
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