※この作品はR-18です。

強化人間がSEEDの世界で活躍します   作:ナラティブ

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9話

冷たく硬い床の感触と、全身を刺すような痛みが、私を深い闇の中から引きずり戻した。

「……っ、あ……」

重い瞼をこじ開けると、そこは薄暗く無機質な独房のような空間だった。

ぼやける視界の先に、豪奢な衣装を纏ったファンデーションの面々――アウラ女帝を中心に、オルフェやシュラたちが、冷たい目で見下ろしているのが見えた。

「目覚めたようだね、リン」

「あなたたち……私に、何を……する気……?」

掠れた声で睨みつけると、オルフェは優雅な足取りで私に近づき、しゃがみ込んでその顔を覗き込んできた。

「簡単なことだ。君には、我々の剣として働いてもらう」

オルフェの瞳が、妖しいアコードの光を帯びる。再び精神干渉の波が脳内に侵入し、私の意思を強引に書き換え、絶対的な服従を強いてきた。

(また……あの力……! 冗談じゃない……誰が、お前たちの言いなりなんかに……!)

私は歯を食いしばり、必死に自我を保とうと抵抗した。洗脳の波に対し、全身の震えを堪えながら睨み返す。

その強固な抵抗に、オルフェは微かに眉をひそめ、苛立ちを露わにした。

「……なんと頑強な自我だ。だが、無駄な足掻きだよ」

オルフェの声が底冷えするほど冷たくなった瞬間、頭の中に直接、鋭い針を突き立てられたような激痛が走った。

「ああっ……!?」

彼が力づくで引きずり出してきたのは、私が心の奥底に封じ込めていた『トラウマ』だった。

トール、ニコル、ステラ、ナタル、そしてリボンズ。血に塗れ、苦しみに顔を歪めながら死んでいった彼らの最期の声が、何十倍にも増幅されて脳内に響き渡る。

さらに、つい先ほど私の部屋の前で無惨に殺された二人の護衛の骸が、鮮明な映像としてフラッシュバックした。

『リン、どうして助けてくれなかったの?』

『お前のせいで、俺たちは死んだんだ』

「いやぁぁっ! 違う、やめて、もう見せないでぇっ!!」

私は頭を抱え、床を転げ回って絶叫した。呼吸が乱れ、過呼吸で胸が張り裂けそうになる。抵抗する気力など、トラウマの濁流の前では一瞬で消し飛んでしまった。

その無様な姿を冷酷に見下ろしながら、幼き姿のアウラ女帝が鼻で笑った。

「ふん。生意気な小娘が。オルフェよ、洗脳だけで済ませるな。念には念を入れよ」

「と、申しますと」

「反抗的な犬には、相応の『躾(しつけ)』が必要じゃ。体に直接、誰が主人かを教え込んでやれ」

アウラはそれだけを言い捨てると、興味を失ったように冷たい足音を響かせて部屋を出て行った。

時を同じくして、ファンデーションの地下極秘施設では、大破した純白の機体――ユニコーンガンダムが拘束具に繋がれていた。

「各部フレームの解析、順調です。これが……『サイコフレーム』……」

「アウラ陛下からの命令だ。機体のコアデータおよび、パイロットの精神感応波のログをすべて抽出しろ」

モニターには、ユニコーンのブラックボックスから引きずり出された未知のデータが次々と表示されていく。技術者たちはその莫大なデータを暗号化し、ファンデーションの外部にいる**『正体不明の何者か』**が指定した不可視のサーバーへと、密かに送信し続けていた。

そして、薄暗い部屋に残された私への、地獄のような『躾』が始まった。

「がっ……あ……!」

容赦のない暴力が、何度も私の体を打ち据える。

抵抗する気力も奪われたまま、ただ殴られ、蹴られ、床に這いつくばる。口の中を切ったのか、鉄の味が広がっていた。痛みに意識が飛びそうになっても、冷水を浴びせられては再び引き戻される。

だが、肉体への拷問以上に私を壊していったのは、耳元で繰り返される悪魔のような『言葉』だった。

「まだ逆らうつもりか? 愚かだな。君が抵抗すればするほど、君の『大切な仲間』が死ぬことになるんだぞ」

オルフェの声が、トラウマで弱り切った脳の髄まで浸透してくる。

「アークエンジェルに乗っているあの者たち……君がここで首を縦に振らないのなら、今すぐあの艦を沈める命令を出してもいい。君の身勝手な反抗のせいで、また仲間が死ぬことになる」

「や、め……て……」

「君のせいで死ぬんだよ、リン。あの護衛の二人のようにね。仲間を失いたくないのだろう? ならば、誰に従うべきか、その頭でよく考えろ」

(私のせいで、またみんなが……死ぬ……?)

「嫌だ……もう、誰も死なせたくない……私のせいで死ぬのは、もう……!」

ボロボロになった私の心は、その脅しに完全に屈してしまった。

自分への痛みには耐えられても、これ以上自分のせいで誰かが死ぬという絶望には、もう耐えられなかったのだ。

「……従い、ます……」

血と涙でぐしゃぐしゃになった顔を床に擦り付け、私は震える声で服従を口にした。

「……だから、みんなには……手を出さないで……何でも、言う通りに、するから……」

「最初からそうしていれば良かったのだ。よく出来たね、リン」

オルフェは満足そうに微笑み、私の頭を乱暴に撫でた。

その瞬間、彼のアコードの力が再び私の脳を満たし、残っていた僅かな自我の抵抗を完全に塗り潰していく。

過去の記憶も、仲間への想いも、全てはファンデーションへの忠誠を縛り付けるための『鎖』へと変えられた。私はこうして、完全に心を取り上げられ、彼らの言いなりになって引き金を引くためだけの、冷たい『戦闘兵器』へと作り変えられてしまったのだった。「……本当に服従したのか、試させてもらおう」

オルフェの冷たい声が響くと同時、私の首に冷たく重い金属の輪が嵌められた。

カチン、とロックされる乾いた音が、まるで私の人間としての尊厳に鍵をかけられたかのように独房に響く。

「それはお前の脳波と微細な感情の揺れを読み取る**『隷属の首輪』**だ。我々に対する反抗心、あるいは逃亡の意思を少しでも抱けば――こうなる」

オルフェが手元の端末を操作した瞬間、首輪から強烈な高圧電流が私の全身を駆け巡った。

「ああああぁぁっ!!」

内臓が焼け焦げ、筋肉が限界まで硬直するような激痛。私は悲鳴を上げながら床に倒れ伏し、痙攣する体を丸めた。呼吸すらまともにできないほどの痛みに、涙と涎がボロボロと床を汚す。

「……ひぃっ、はぁ、はぁ……っ」

「理解したか? お前の意志など、ここでは何の価値もない」

そこへ、アウラ女帝が静かな足取りで近づいてきた。

彼女は床で喘ぐ私を見下ろすと、しゃがみ込み、その小さな手で私の顎を無理やり掴んで顔を上げさせた。そして、冷たい指先で私の頬から首筋へと、品定めするように撫で下ろす。

(触らないで……っ!)

本能的な嫌悪感と反抗心が心に過った、その瞬間だった。

――ガガガガッ!!

「あがっ、ああぁぁぁっ!!」

首輪が即座に私の拒絶反応を読み取り、容赦のない電撃を叩き込む。脳髄が焼き切れるような苦痛に、目の前が真っ白になった。

「愚かな。我に触れられて拒絶するなど、許されるとでも思っておるのか」

アウラは冷酷に見下ろしながら、再び私の頬に手を伸ばした。

(痛い、もう嫌だ……逆らっちゃ駄目だ、従わないと、また……!)

私は恐怖と痛みに完全に屈服し、ガタガタと震えながらも、自らアウラの手にすり寄るように顔を傾けた。必死に嫌悪感を押し殺し、媚びるように目を伏せて、彼女の冷たい掌に頬を擦り付ける。

「……ふん。痛みを覚えれば、犬のように従順になるものじゃな。よく出来たわ」

アウラは満足そうに口角を上げると、汚い物でも払うように手を離し、立ち上がった。

だが、彼らの『躾』はそれだけでは終わらなかった。

肉体を支配した後は、私の心を根底から破壊するための執拗な調教が続けられた。

「お前は無力だ。誰も守れない。お前が関われば、すべてが壊れる」

シュラや兵士たちによる容赦のない暴力が加えられる中、オルフェの冷酷な声が呪いのように何度も、何度も耳元で囁かれる。殴られ、床に叩きつけられるたびに、私の自我は削り取られていく。

「違う……私は……」

「違わない。お前の弱さが、あの護衛たちを殺したのだ」

私の微かな反論を叩き潰すように、オルフェとシュラがアコードの力を解放した。

精神干渉の波が、私の脳内に強制的に『幻覚』を現出させる。

――気がつくと、私は血塗られた戦場のど真ん中に立っていた。

手には、赤く濡れたビームライフルが握られている。

『リンさん……どうして……』

足元から声がした。見下ろすと、そこには胸を撃ち抜かれて血の海に沈むシンの姿があった。

さらに向こうでは、アークエンジェルが炎に包まれて墜落していく。マリューさんたちが、私を絶望の目で睨みつけながら炎に飲まれていく。

『君が……君のせいで、僕たちは……っ!』

血を吐きながら私にすがりついてきたのは、キラだった。その背中には、私が乗るユニコーンのビームサーベルが深々と突き刺さっている。

(違う! 私じゃない! 私がやったんじゃない!!)

叫ぼうとするが、幻覚の中の私は冷酷に笑い、彼らに向かって再び引き金を引いていた。

『お前のせいで、仲間は皆死ぬ。これが現実だ』

『お前が抗えば抗うほど、彼らは惨たらしい死を迎える』

「あああああぁぁぁぁっ!! やめて!! もう見せないで!! ごめんなさい、ごめんなさい!!」

私は現実の冷たい床の上で頭を掻きむしり、狂ったように叫び続けた。

現実と悪夢の境界線が完全に崩壊し、精神が限界を超えて軋みを上げる。仲間を自分の手で殺すという究極の絶望が、私の心に残っていた最後の「希望」や「抗う意志」を、木っ端微塵に打ち砕いた。

「……私が、悪いです……私が、全部悪いの……」

虚ろな目で宙を見つめ、ただ壊れた人形のように謝罪の言葉を繰り返す。

もはや反抗の意思は微塵も残っていなかった。痛みを避けるため、そして何より、これ以上自分のせいで仲間が死ぬ悪夢を見ないために――。

「……どうか、私に命令を……。皆様の、仰る通りにします……だから、もう……」

涙と血に塗れた顔を床に擦り付け、私は彼らの足元に這いつくばった。

その完璧にひれ伏した姿を見て、オルフェは満足げに目を細め、私の頭に冷たい手を置いた。

「いい子だ、リン。これでお前は、我々ファンデーションの完璧な剣だ」「……了解しました。接近する全ての敵を排除します」

ファンデーションの旗艦へと向かうオルフェの背中を見送り、私はゆっくりと立ち上がった。

先の戦闘の激突と、その後の非道な拷問によって失った感情。そこに無機質な変わった金属の義足を装着し、冷たい床を踏みしめる。接合部から走る神経を焼くような激痛すらも、今の私にとってはただの「異常を知らせる信号」でしかなかった。

格納庫に繋がれていたのは、私と同じようにボロボロになった愛機だった。

右腕と左脚を失い、装甲は無惨に剥がれ落ち、ひしゃげた内部フレームが剥き出しになった半壊状態のユニコーンガンダム。だが、ファンデーションの技術で強引に応急処置が施され、残されたスラスターと武装さえあれば、兵器としての役割は十分に果たせる。

歪んだコックピットに乗り込み、義足でペダルを無機質に踏み込む。

首を締め付ける隷属の首輪の冷たい感触が、私に絶対の服従と殺戮を強いていた。

『……ユニコーン、出る』

痛々しい火花を散らしながら、半壊の白い機体がカタパルトから虚空へと射出される。

眼前に広がっていたのは、かつての仲間であるオーブ軍の艦隊と、前衛を務めるムラサメ改の部隊だった。

「前方に接近する機体あり! 装甲ボロボロですが……あれは、白い一本角!? まさか、ユニコーンか!?」

「嘘だろ!? なんでリン司令が俺たちに銃口を向けてるんだ!」

オープンチャンネルから、オーブ軍のパイロットたちの悲痛な叫びがコックピットに響き渡る。

彼らを率いていたはずの私が、ファンデーションの迎撃機として現れた。その信じがたい現実に、彼らは激しく動揺し、陣形を乱していた。

「リン司令! 応答してください! 俺たちです、オーブ軍です!!」

「どうしてファンデーションなんかと一緒に……くそっ、撃てるわけないだろ!!」

かつての仲間たちの混乱と戸惑い。

だが、洗脳によって感情を完全に殺された私の心には、一切の躊躇いも、情も生まれなかった。

「……目標、排除開始」

私はスラスターを吹かし、半壊した機体とは思えない異常な機動力で、躊躇うムラサメ改の懐へと一直線に潜り込んだ。

驚愕で動きの止まった敵機に対し、私は冷徹にビームサーベルを振るう。

狙うのはコックピットではない。

メインカメラ、武器を持つマニピュレーター、そして脚部の推進器。感情の消え失せた正確無比な太刀筋で、次々とムラサメ改の四肢を切断していく。

「うわぁぁっ!! や、やめ……!」

「腕と脚が……っ! だが、コックピットは無傷だ!? なんで、なんでダルマに……!」

次々と手足を失い、宇宙(そら)のデブリと化していく『ダルマ状態』のムラサメ改。

パイロットを殺さないのは、私の中の『かつての自分』が無意識にブレーキをかけているのか。それとも、生かして絶望と恐怖を植え付けるという、オルフェの歪んだ指示によるものか。自分でも理由は分からない。ただ、工場のライン作業のように精密な解体を繰り返すだけだ。

「ひ、ひぃぃっ! 化け物だ! あれはもう、俺たちの知ってるリン司令じゃない!!」

「逃げろ! 殺される、切り刻まれるぞ!!」

かつて私を慕い、共に戦ってくれていたパイロットたちが、今は私を「化け物」と呼び、恐怖に顔を引きつらせて悲鳴を上げている。

(化け物……そうね。私はもう、ただの兵器)

意識の奥底で、かつての私が血の涙を流して絶叫している感覚があった。だが、首輪から流れる微弱な電流が、その悲鳴を強制的にシャットアウトし、思考を黒く塗り潰す。

私は背後に漂う無数のダルマ状態の機体を振り返ることもなく、虚無の瞳でモニターを見据え、本隊であるオーブ艦隊へと半壊のユニコーンを加速させた。

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