むき出しになったコックピット。
宇宙空間の暗闇の中、デスティニーから身を乗り出して差し出されたシンの手。
その手を前にして、私の頭の中では、オルフェの植え付けた冷酷な命令と、過去のトラウマのフラッシュバック、そして目の前にある確かな温もりがぐちゃぐちゃに混ざり合い、ぐるぐると渦を巻いていた。
(ダメだ……私が行けば、またみんなが……)
首輪からの電流がバチバチと火花を散らし、私を再び絶望の底へと引きずり込もうとする。
だが、私を真っ直ぐに見つめるシンの瞳は、どこまでも真剣で、痛いほどに優しかった。
その真っ直ぐな想いに呼応するように――ユニコーンから放たれていた禍々しく狂気的なサイコフレームの輝きが、ふっと、まるで陽だまりのような温かく穏やかな緑色の光へと変わった。
「……あ……」
ユニコーンから発せられる急な温かい光が、私の全身を包み込む。
その光は、オルフェが私に掛けた洗脳の呪縛と、心にこびりついていた恐怖を、まるで春の雪を溶かすように優しく洗い流していった。
パキンッ……。
脳内で私を縛り付けていた真っ黒な鎖が、完全に砕け散る音がした。
「リンさん……! さあ!」
「……シン……」
正気と、私自身の本当の意志を取り戻した私は、ボロボロになった両腕をゆっくりと前に伸ばし――シンのその温かい手を、しっかりと握り返した。
その瞬間だった。
閉ざされていた通信回線が一気に開かれ、懐かしい声が次々とコックピットに飛び込んできた。
『リン! 無事か!?』
アスランの焦燥と、深い安堵が入り混じった声。
それに続くように、コンパスの仲間たちからの声が次々と響き渡る。
『リンさん! よかった……本当によかった……!』
『リン司令! ご無事で何よりです!』
『まったく、無茶ばっかりして!……でも、生きててくれてよかったわ』
『リンさん! 帰ったらゆっくり休んでくださいね!』
マリューさん、ヒルダ、ルナマリア、そしてミレニアムのブリッジのみんな……。
私がどれだけ酷いことをしても、誰一人として私を見捨てず、無事を喜んでくれる温かい声、声、声。
「あ……ぁ……」
気がつけば、私の目からは熱く、温かいものがとめどなく溢れ落ちていた。
視界が涙で滲み、声にならない嗚愚(おあ)が漏れる。
「ごめん……なさい……みんな……私、私……っ!」
泣き崩れる私を、シンはそっとデスティニーのコックピットへと引き寄せてくれた。
「もう謝らなくていいから。……帰ろう、リンさん」
シンは優しく微笑むと、パイロットスーツのポケットから少しだけくしゃくしゃになったハンカチを取り出し、私の手にそっと握らせてくれた。
その不器用な優しさに、私はハンカチに顔を埋め、子供のように声を上げて泣き続けた。
ふと遠くの宙域を見つめると、激しい閃光の後に、オルフェの駆るブラックナイトスコード・カルラが完全に爆散していくのが見えた。アウラ女帝の乗るファンデーションの旗艦も、レクイエムの中継点も、キラたちの手によって既にすべてが撃破されていた。
戦場を支配していた激しい硝煙の匂いと轟音は静かに消え去り、ファンデーションという脅威は完全に潰えたのだ。戦闘は終わった。
その後、戦闘宙域へ急行してきたミレニアムの部隊によって、機体の回収作業が迅速に行われた。
真の覚醒を終え、不思議な結晶体に覆われたまま静かに眠りについた半壊のユニコーンガンダム。そして、オーロラの光を浴びてジェネレーターを分解されてしまったルナマリアのソードインパルスが、次々とミレニアムのハンガーへと収容されていく。
私たちは戦い傷ついた機体たちを抱え、勝利の余韻に浸ることもなく、アルテミス要塞の宙域から静かにミレニアムへと帰還(撤退)を開始した。
暗く冷たい悪夢は完全に終わりを告げ、私たちはようやく、自分たちの居場所へと帰るのだった。