楽しい時間はあっという間に過ぎ、時計の針が夜の11時を回る頃には、居酒屋のテーブルは大変なことになっていた。
「アスランの……ばかやろぅ……うう……」
「カガリさん、元気出してぇ……ふふ、アスランくんもお仕事頑張ってるのよぉ……」
カガリだけでなく、あのしっかり者のマリューさんまで完全に酔いつぶれてしまい、二人して机に突っ伏してふにゃふにゃになっている。
「あーあ、二人とも完全に出来上がっちゃったな」
ムウさんが苦笑しながら立ち上がり、伝票を手に取った。
「よし、約束通りここは俺がスマートに支払っとくわ。マリューは俺が連れて帰るから、リン、お前はカガリ代表を頼んだぜ?」
「はーい! ムウさん、ごちそうさまでした!」
お店の前でムウさんたちと解散し、私はぐったりとして動かないカガリをなんとか背負いあげた。
お酒が入っているせいかいつもより重く感じるカガリを、バイクのタンデムシートに乗せ、私の体に上着を使ってしっかりと固定する。
「カガリ、落ちないようにしっかり掴まっててね?」
「う、うみゅ……」
力のない返事を確認し、私は慎重にバイクを発進させた。夜の静かなオーブの街を、心地よい夜風を浴びながらカガリの家(首長邸)へと走らせる。
門前の待ち人と、小さなお説教
カガリの邸宅の前に到着すると、門灯の明かりの下で、腕を組んでせわしなく行き来している人影が見えた。
「あれ……アスラン?」
バイクのライトが照らし出したのは、やはりアスランだった。私たちの姿を見つけるなり、彼は目を見開いて大慌てで駆け寄ってきた。
「リン! カガリ! ……カガリ、一体どうしたんだその姿は!?」
「あはは、心配しなくてもただの飲みすぎだよ。はい、カガリをパス!」
バイクを止め、アスランに酔いつぶれたカガリをそっと手渡す。アスランは手慣れた様子で、愛おしそうにカガリをしっかりと抱きとめた。カガリはアスランの胸の中に収まると、「んぅ……アスラン……?」と小さく寝言を呟いて安心したように頬を埋めている。
私はヘルメットを脱ぎ、事の顛末をアスランに伝えることにした。
「さっきね、居酒屋でマリューさんたちと偶然会ったんだ。それで、カガリがずーっと『アスランが最近全然構ってくれない!』って大荒れで愚痴をこぼしてたよ」
「なっ……!?」
アスランが目を見張る。
「マリューさんにね、『意地を張らないで、寂しいからもっと声が聞きたいって素直に甘えなさい』ってアドバイスされてたわ。カガリ、顔を真っ赤にしながら『帰ったら絶対に言ってやる!』って息巻いてたんだから。……通信の途中でメイリンからのデータを優先して切っちゃったの、相当ショックだったみたいよ?」
私の言葉を聞くにつれ、アスランの顔がみるみるうちに、ザフトの赤服よりも真っ赤に染まっていくのが分かった。
「カガリが……そんなことを気にしていたのか……。いや、あの時は緊急の任務のデータが届いて、つい……」
「言い訳は私じゃなくてカガリにね。カガリ、寂しかったんだよ。代表としての顔だけじゃなくて、普通の女の子としてアスランに構ってほしいんだから。ちゃんと大切にしてあげてね、表の隊長さん?」
ニヤニヤしながら人差し指を立ててお説教すると、アスランは完全に形無しといった様子で、決まり悪そうに視線を泳がせた。けれど、腕の中の恋人をもう一度愛おしそうにぎゅっと抱きしめ直すと、私に向かって真摯に頭を下げた。
「……すまない、リン。俺の不徳の致すところだ。カガリをここまで無事に届けてくれて、本当に感謝する」
「いいってことよ。じゃあね、お幸せに!」
久しぶりの我が家へ
私はヘルメットを被り直し、二人に向かって軽く手を振った。
アクセルを回し、バイクのエンジン音を夜の静寂に響かせながら、今度こそ自分の家へと向かう。
ここ最近はずっとモユラン島の基地に泊まり込みで、新型機の整備やグレイズのAI調整ばかりやっていたから、自分の家に帰るのは本当に久しぶりだった。
夜風が火照った身体を心地よく冷ましてくれる。
シンとルナマリアの幸せそうな姿、キラとラクスの穏やかな笑顔、そしてカガリとアスランの不器用だけど温かい絆。みんながそれぞれの幸せを守るために生きている。
「私も、明日からまた頑張らなきゃね」
ヘルメットの中で小さく呟きながら、私は愛車を走らせ、懐かしい我が家の明かりを目指して夜の道を駆け抜けた。