オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~ 作:真喜屋五木路
「また今日もやってしまった……っ」
歩を駅まで見送った後、リビングのソファへうつ伏せに飛び込んだ徹は罪悪感に浸っていた。
本当はベッドの方がいいのだが、例によって例のごとく、いろんな汁でぐっしょり濡れているので絶賛洗濯中なのである。
「というか洗濯してもしばらくは歩の匂いが残ったままだから、なんかドキドキするんだよな……じゃなくて!」
無意識に股間へと手が伸びてしまっていたことに気付き、徹はソファのアームレストに頭をぶつけて邪な考えを追い払う。
「というかやっぱ、付き合ってもないのにセックスとか……よくないよな」
確かに切っ掛けこそ歩の『相談』からであるが、その後も流され続けているのは自分の責任なわけで。
いや、今日だって歩の方から誘惑してきたようなものだし、自分だけの責任とも……。
「……っ、けど、それでも結局俺がきっぱり断ってればよかっただけの話だし」
徹はぐっと目の前で拳を握る。
歩とはあくまで友達なのだ、それ相応の健全な関係を築きたい。
とはいえ、歩のお誘いに抗えるだけの意志力があるかどうかはまた別問題だ。
一緒にいても気を遣う必要がなく、楽しくて、可愛くて、それなのにエロくて――そんな相手がちょっと油断した格好で迫ってきて、耐えられるのか……。
「……無理なんだよなぁ!」
徹は自棄だとばかりにソファの上で、釣り上げられた魚のように暴れまわる。
何度頭の中でシミュレートしたところで、歩に「えっち、しよ?」なんて笑顔で言われたら、その時点で投了確定だ。後はその日一日、「あと一ターン……」をずるずるくり返す、爛れた週末の完成である。
自分の理性の脆弱さにため息が出るが、できないことはできないと認識することこそが、解決への第一歩だ。
そう、我慢ができないのならセックスしても問題ない関係になってしまえばいい。
徹は仰向けになってぼんやりと天井を眺めながら口を開く。
「……するか、告白」
ここ最近うっすらと考えていたことではあったが、改めて口に出すと、全身が緊張を帯びるのが分かった。
「思い上がりじゃなければ、多分、大丈夫……だよな?」
歩の自分に対する言動を思い返す。
向けられる表情や態度は少なくとも友人以上のもので、その上性的なことまで嬉々として受け入れてくれる。実態としては、既に恋人と言っても差し支えない距離感ではないだろうか。
だから、きっと大丈夫。
告白は賭けというよりちょっとした通過儀礼のようなもので、ほんの少しの勇気があれば、もうこんな風に中途半端な関係で悶々と悩む必要もなくなるはずで。
「……よし」
しばらく天井とにらめっこをしていた徹は、意を決してスマホをズボンから引っ張り出すと、歩へとチャットを飛ばす。
『なあ歩、来週の土曜、空いてるか?』
『えー、トールってば気が早いよw さっき別れたばっかじゃん』
『いや、それはそうなんだが……』
『それに心配しないでも、週末はトールのために空けてあるからさ。またそっちの家に行くんでよかったよね?』
『ああいや、それなんだが久しぶりに外へ出かけないか? そのついでに、ちょっと大事な話がしたいし』
そこまで間髪入れずに続いていた返信が一分ほど止まり、スマホが再びペポッと鳴った。
『うん、分かった。じゃあどこ行く?』
『あー、それはまた決まったら連絡する』
「ふぅ……」
これで賽は投げられた。
徹は早くも鼓動がうるさい心臓を押さえながら、近所のデートスポットなどについて調べ始めるのだった。
「くぁ……流石にちょっと早すぎたか……」
翌週の土曜日。沿線で一番の繁華街の駅前で、徹は陽の光にしぱしぱとする目を擦る。
とはいっても時刻は既に九時を回っていて、普段なら土曜日とはいえしっかりと目が覚めている時間帯だ。
だが、昨日は緊張で一睡もできなかったため、眠気が泥のように纏わりついている。
かといって朝方から仮眠をとって約束の時間に起きられる自信もなく。手持ちぶさたが極まった結果、こうして待ち合わせ時間に対して一時間も前から待つなんてことをやらかしているのだが。
徹は時間を潰すために入れているスマホのリズムゲームをプレイしながら、あくびを噛み殺す。
案の定というか、睡眠不足なせいでコンディションはガタガタだ。普段ならJUST判定が余裕なやり込んだ曲なのに、タイミングが微妙にずれ、GOODを連発する事態になっている。
普段容易にできていることができないというのは予想以上にもどかしい。徹はムキになってゲームにのめり込み、どんどん視野が狭くなる。
更に悪いことに、昨日の夜更かしの際、スマホの充電を忘れていたのも重なって。
「っ⁉ あ、やべっ、バッテリー……!」
無常にシャットダウンの文字が表示されたきり、スマホは真っ暗な画面のまま動かなくなった。
「まずった……! 時間は……ってこっちもギリギリか!」
駅舎に備え付けられた時計を見ると、もう約束寸前の時刻である。
余裕がない状況下でのやらかしに、不安が連鎖する。
「そういえば……待ち合わせ場所って、西口東口、ちゃんと指定したっけ……?」
いつもならこんなことがあやふやになるなんてありえない。これも寝不足で頭が回らないせいか。
「もし歩が東口の方に行ってたら待ちぼうけ喰らわせるし……ああくそッ!」
この場を離れて入れ違いになることも考えたが、それでも一度気になってしまった以上、確かめずにはいられない。徹は足早に東口へのロータリーへ向かう。
「いない……よな?」
ぐるりと駅前を一周し、歩の姿が見えないことに焦りを募らせながら西口へと戻って。
「あ、トール! こっちこっち!」
歩がぶんぶんと手を振っているのが見えて、徹は徒労にため息をついた。
「ああ、やっぱり西口で待ち合わせでよかったか……」
「んー? トールが言ったんじゃんか、西口でって。それに遅刻するなんて珍しいね、何かあった?」
歩は本気で心配してくれているのか、覗き込むようにして徹を見つめてくる。
何もなかったと誤魔化すには少しばかりまっすぐ過ぎる瞳に、徹はしばし考え込み――
「――あははっ! なんだなんだ、昨日眠れなかったとか、どんだけ今日楽しみにしてたのさ!」
「うるせっ! そうじゃなくてたまたま寝つけなかっただけだし!」
お腹を抱えて笑う歩に、徹はふん、と羞恥交じりに鼻を鳴らす。
「というか直接探しに行くぐらいなら、そこにコンビニあるんだから充電器買えばよかったのに……ふふっ」
「あ。……あーもう、笑いすぎだろ」
だが歩の提案はしごく尤もであり、言われればなぜそれを思いつかなかったか不思議なほどで。
徹は気恥ずかしさに自分の髪をわしゃわしゃとかき回すと、ぶっきらぼうに映画館の方へと足を向ける。
「いいから行こうぜ、外にいても暑いだけだし」
「えー? 今からでも充電器は買っておいた方がいいと思うけどー?」
「くっ……」
ニヤニヤとする歩に肩を組まれ、コンビニの方に誘導される。
朝一番からこの調子で、徹は早くも何だか先行きが不安になるのだった。
あと一ターン……週末を潰す魔法の言葉です。