オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~ 作:真喜屋五木路
「いやー、楽しかったねー」
「そう、だな……」
映画終わりの遅めの昼食。テーブルの向かいでニマニマとハンバーガーにかぶりつく歩からの言葉に、徹は気まずく視線を逸らした。
「えー、トールってばノリ悪いなー、映画あんなに面白かったのに。特にクライマックスで主人公が――」
「あー! 聞きたくない聞きたくないっ!」
陰湿なネタバレ攻撃にとうとう耐えかねた徹は、耳を塞いでテーブルに突っ伏した。
歩は謝罪のつもりなのか、子供をあやすようによしよしと頭を撫でてくる。
「あはは、ごめんごめん。……でも、元を正せばトールが悪いんだよ? 自分から映画に誘ってきたくせに早々に寝ちゃうんだもん」
「ぐっ……それに関しては全く申し開きのしようもなく……」
そう、寝不足の中で映画館という環境はあまりにも致命的だった。
ゆったりとした座席、少し肌寒い温度、そして薄暗い室内。
おかげで記憶に残っているストーリーは、洋画によくある冴えない中年主人公によるうだつの上がらない日常風景だけだ。
「まったく、これじゃあなに言ってもネタバレになるじゃんか」
「いやほんとに悪い……というか、もうこの際ネタバレは気にしないことにするので、普通に感想を言って頂ければ……」
「えー、そう言われると逆に秘密にしておきたくなっちゃうなー♪ ……というか、感想は言い合ってこそ楽しいんだから」
歩はわざとらしく怒ったように頬を膨らませた。
もちろん本気で怒っているわけではないことは分かるが、それでも気まずさが晴れるわけではない。
それに、失敗は映画館のことだけではなかった。
「あと、その……昼飯もこんなところになって悪い。目星つけてた店がまさか定休日だとは」
代わりに今いるのは一般的な有名バーガーチェーンで、落ち着いて話すにはいささか騒々しすぎる。
「や、そっちは別にいいって、ボク結構ここのバーガー好きだし。まあ一番はピザなんだけどね?」
「いやまあ、それならいいんだが……」
けれど本音を言えば、これに関しては徹の方が都合が悪かった。
元々の予定では、ちょっとオシャレなカフェで感想会をした後、それとなく本題である告白を切り出すつもりだったのだ。
しかしこの衆人環視の中でなど、とてもそんな雰囲気にはなれない。
(なんというか、今日は何もかもうまくいかなすぎる……)
「はぁ……って悪い! 今のは違って……!」
あまりの不甲斐なさから思わず零れてしまったため息に、慌てて言い訳を重ねる徹に対し、歩は少し困ったような笑みで小首を傾げた。
「……あのさ、トールってば今日はちょっと無理しすぎだよ」
「っ、そんなことは……」
「ない、とは言わせないよ? だっていつものトールじゃないもん、今日」
心配そうに顔を覗き込んでくる歩に、徹はそれ以上反論できなかった。
歩はやっぱりね、とでも言うように小さく息を吐きだす。
「それで、トールがそうなってる原因だけど、なんとなく予想がついてるんだ。……多分、ボクに告白でもしようとしたんじゃない?」
図星を突かれて、徹の背中にじわりと汗がにじむ。
「っ……その、いつから?」
「まあ……遊びに誘われた時、大事な話があるって書かれてたからなんとなくね」
目論みを見透かされていた恥ずかしさと、先手を取られた情けなさに、顔が熱くなるのを感じる。
だが、こうなってしまった以上、最早なかったことにするわけにもいかない。
徹は覚悟を決めて深呼吸を一つ、口を開いて――
「――むぐっ⁉」
その口にポテトが詰め込まれた。
「もごっ……ごくん、ちょっとあゆ……もがっ⁉」
何とか咀嚼して呑み込んだ瞬間、次のポテトが突っ込まれる。
「ほら大丈夫、ポテトはまだまだあるからね……」
「いや、だから……っ、ふごっ……! ――いやマジでわんこそばじゃないんだぞ⁉」
なんとか無限ポテト地獄から脱出し、パッサパサになった喉へウーロン茶を流し込む徹。
歩に人を揶揄うきらいがあるのは分かっている。だが、人が真剣に告白しようとしているのを妨害するのには、流石に文句の一つでもつけてやろうと口を開きかけて。
歩が酷く寂しそうな目で、縋るように徹の手を握りしめてきた。
「……トールはさ、約束してくれたよね。最初にキスした時、ボクとはずっと親友でいてくれるって」
「っあ、それは……そう、だけど……」
「お願いトール。僕はトールとずっと親友でいたいんだ。だから、それ以上先は言わないでほしい」
「っ……」
頭が真っ白になる。
告白しないでくれというのは、実質的に答えが決まっているということで。
てっきり、歩は自分と同じ気持ちだと思っていた。
思い込んでいたからこそ、その衝撃は大きかった。
すっかり店内の音は遠くへと掻き消えてしまい、歩の声だけがいやに大きく頭の中に響く。
「その、ごめん。多分トールのことだから、告白しようとしてくれたのも、自分のためじゃなくてボクのことを考えてなんだろうな、ってのは分かるんだ」
「……そんなことは」
「ほんとに? トールのことだから付き合ってもないのにえっちなことするなんて、って悩んでるんだと思ったんだけど」
「ぐっ……」
考えを読まれたように言い当てられて息を詰まらせる徹に、歩は「やっぱりそうなんじゃん」と小さく微笑む。
「ボクも恋愛とかには疎いけど、流石にそこは分かってるよ。普通の友達はこんなことなんてしないんだって。だからさ、トール――」
歩はそこで口を徹の耳元へ寄せて、悪魔の契約みたいな誘惑を囁いた。
「――ボクと、セックスフレンドになろ?」
「っ⁉」
鼓膜をくすぐるあまりにあまりな提案に、朝からの眠気も、今日のやらかしも、受け入れられなかったショックも、まとめてどこかへ吹き飛んでしまう。
「ね、ダメ……かな?」
「だ、駄目っていうか……歩、それ意味わかって言ってんのかよ……!」
このまま耳元で囁かれていては、外なのに妙な気分になりかねない。徹は慌てて歩の肩を押しのける。
「言葉のままなんだから当たり前じゃん。恋愛感情はないけど、えっちなことをする友達のこと、だよね? まさにボクたちにピッタリな言葉だと思うんだけど」
「それは、その……」
実際現状だけ見ればその通りだ。
歩の誘いを断れないのは、歩が感じているのを見るのが愉しいから、歩が与えてくれる快感の虜になっているからで。
(けど、でも、俺は……)
そんな刹那的な欲求だけで彼女を求めているわけではないと否定したくて、徹は歩へ抱いている感情を考えてみる。
歩が大事な存在だというのは変わらない。
それは絶対だ。
だが、それが友達としての友情なのか、異性としての愛情なのかは、断言できるほど明確ではなくて。
揺らぎかけた徹の心に、歩は笑顔で追撃を放った。
「それにさ、セフレの方が彼女なんかにはできないえっちなこともしちゃえるって読んだよ? だったらさ、そっちの方がお得じゃない? ね、ねね?」
こんな時だというのに、頭の中に今まで思い描いてきた妄想が駆け巡り、徹は理性で無理やり本能を抑え込む。
けれどそれは少しばかり手遅れだった。
思春期の肉体は鋭敏に滾りを反映し、分かりやすい変化となって現れてしまう。
そして狭いファーストフード店のテーブルの下では、それがバレるまでに時間はそう必要なかった。
「っ、くあ……」
完全に勃起してしまった肉竿が歩の膝にぶつかり、甘やかな刺激を腰に響かせる。
「あ、トールってば……ふふ、もしかしてボクとしたいこと、早速想像してくれたんだ」
普通なら嫌悪されてもおかしくない状況。なのに、歩は心底嬉しそうにテーブルの下へと手を伸ばし、ズボンの上から愛し気に肉竿を撫でた。
すっかり弱点を知りつくされてしまっているせいで、布越しにも関わらずあっという間に喜悦が海綿体に満ちていく。
「そういえば、セフレとしたいことランキングの中にさ、お外でえっちするってあったんだけど……トールも、してみたい?」
「っ……!」
一度ならず妄想したシチュエーションに徹は咄嗟に否定できず。その間に肉竿がびくびくと震えて賛成を示してしまった。
「ふふっ、したいんだ。それじゃあここだと流石にバレちゃうから……トイレ、行こっか?」
淫魔のような、けれど男友達のようでもある歩の楽しげな微笑みに、抗う為の理性はあっという間に焼き溶かされてしまった。
ようやくタイトル回収。
前回で察した方もいるかも知れませんが、プロローグで若干不穏(?)だったのはこういう経緯だったというお話。