オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~ 作:真喜屋五木路
「トールっ! ありがとっ♪」
「うおっ⁉」
その週の金曜夜。歩は玄関へと入るなり、留守番をしていた大型犬のような勢いで徹へと抱き着いてくる。
徹はあまりの勢いに思わずふらつきながらも、なんとか歩を受け止めた。
「ちょっと落ち着けって歩、もう何回もそれは聞いたからさ」
重心を立て直しながら苦笑する徹に、歩は「けど!」と声をさらに大にする。
「だって、こうやって直接言うのは初めてじゃん! この一週間、皆ともゲームの話ができて、本当に楽しくて……だから、本当にありがとうね、トール……!」
歩は全身で感謝の大きさを伝えようとするみたく、徹を抱きしめる手に力を籠め、すりすりと頬どうしを擦りつける。
「いや、俺はあくまでこうしたらいいんじゃないかって提案しただけだし、ちょっと大げさすぎるって」
「大げさじゃないって! まったくトールは……そういうとこ自覚薄いんだからさ……」
歩は一転じとっとした目を徹に向け、けれどすぐに口元をほころばせた。
「ま、そこがトールらしくていいところでもあるんだけどね」
「なんだよそれ……」
褒められているのか呆れられているのか判断に困る徹を、歩はしばらくニマニマとした笑みで見つめ。けれど改めて真剣な表情に切り替える。
「とにかく、ボクがすっごく感謝してるってことは変わらないからさ。今回の件についてのお礼、何かしてあげたいんだけど……トールから何か希望とかある?」
「いや、そんなこと言われてもなぁ……」
徹としては、あんな寂しそうな歩の顔を見ていられなかったから勝手にやっただけで、楽しそうな歩の姿が見れたことで満足してしまっていた。
とはいえ、歩のことだから何か適当なところで手を打たないといつまでも「アンフェアだって!」と開放してくれなさそうでもある。
だから適当にいい感じのお願いを――と徹が考えていると、抱き着いていた歩があっさりと離れた。
「ん、そっか。じゃあまたなにか思いついたら言ってね? ボク、トールのお願いならなんでも……は流石に無理なこともあるかもだけど、できることならやったげるからさ」
「お、おう、分かった」
意外にも素直に引き下がった歩に徹は困惑しながらも、内心安堵する。流石に玄関先でいつまでも女の子に抱きしめられているというのは、ご近所さんに見られてしまうかもとちょっとドキドキものだったのだ。
――尤も後から考えれば、フェアなことに拘る歩があっさりと引き下がった時点で違和感を覚えるべきだったのだろう。
だが、徹の意識は歩から手渡されたスーパーの袋にあっさりと上書きされてしまった。
「あ、それからコレ。今週の食材買ってきたから」
「お、サンキュー。牛肉に玉ねぎ人参……ご所望は肉じゃが……いや、カレーだろ」
「ふふ、正解っ♪ トールのカレーは美味しいからね、お祝い……っていうのはちょっと大げさだけど、食べたくなっちゃって」
「オッケー、それじゃあ週末はカレーづくしだな」
ここのところ、歩は週末徹の家に入り浸ることがすっかり常となっていた。
金曜日、学校が終わると一度家に戻って着替えを持ってきて徹の家に泊まり、日曜日の夜に帰る。その間はゲームしたり、だべったり……まあ、そういうことをしたり。
だから歩が家に来るときはこうやって夕飯の食材を持ってくるのがお約束になっていた。
「それじゃあ食材冷蔵庫にしまってくるから先部屋上がっててくれ……いや、カレーなんだしさっさと作って置いておいた方が馴染むか。というわけでちょっと待ってて貰ってもいいか?」
「うんうん、是非そうしてくれるとボクとしてもやりやすいかな」
「……ん?」
「ああいや、トールのカレー楽しみだから早く作ってくれるのは嬉しいなーって」
なんだか一瞬、歩の顔に悪い笑みが浮かんだような気が……?
「そ、それじゃあボクは先に部屋上がってるから! トールは怪我とかしないよう、気を付けてゆっくり料理しててね!」
パタパタと階段を駆け上がっていく歩に、徹は首を傾げながらもキッチンへと向かう。
「そんじゃあんまり待たせてもなんだし、さっさと作っちゃいますか」
とは言ったものの、実は自動調理機があるのでカレーはさして手間のかからない料理だ。
肉と野菜を一口大に切り、後はカレー粉と水を一緒に機械へ入れてスイッチを押すだけ。
ただもちろん、これだけなら普通のカレーと変わらない。歩が絶賛するのには理由がある。
一つは水の代わりにトマト缶かトマトジュース(無塩)を使うこと。もう一つは、隠し味としてインスタントコーヒーとさっと炒めたクミンシードを入れることである。
本当にちょっとした手間であるが、これだけでカレーに酸味と苦み、そして香り高さが加わって、我が家特製の重層的で味わい深いカレーが生まれるのだ。
「……まあ、ほとんどお袋の受け売りなんだけどな」
それでも我が家の味を歩も気に入ってくれているというのはなんとなく嬉しいもので。
徹は慣れた手つきで食材を切り、自動調理機のスイッチを入れると、鼻歌を歌いながら片づけを済ませた。後は一時間ほど放置すれば完成である。
コンロを使うのと違って火の番も必要ないので、徹は早々にキッチンを後にして自室へと向かい――
「歩ー、あと一時間もすればカレーできるけど、それまでどう、す、る……?」
――何の気なしにドアを開けて、部屋の中の光景に徹は凍り付いた。
そこにはいつも通りにベッドの端に腰掛け、脚をプラプラさせる歩の姿。本を読んでいるというのは珍しいが、そこまではまだよかった。
問題は読んでいる本だ。
やたら薄い本の表紙には、ビリビリに服が破かれた泣き顔の女の子のイラストと、R18のロゴがありありと刻まれている。
タイトルも『クラスの女子がオナニーしている光景を撮ったので、脅してレイプ!』というド直球すぎるもの。
そして何より問題なのは、その本は徹がベッドの下に隠していたものの一冊ということで。
(ああぁあああぁッ! 完ッ全に忘れてたっ! もしかしていつの間にかベッドの下からはみ出てたのか……⁉)
だくだくと、滝のような冷や汗が背中を流れる。
「あ、カレーありがとね、トール」
「お、おう……」
本から視線を上げた歩にニコリと微笑まれ、徹は肩を跳ねさせた。
(い、いつも通りの口調が逆にすっごい怖いんですけど⁉)
徹はどうするべきか判断に窮し、体を凍り付かせたまま必死に脳をフル回転させる。だが、必死さに反してただただ焦りだけが募り、ろくな案が出てこない。
歩はそんな徹に気付いていないのか、或いは意図的に無視しているのか、パラリパラリと同人誌を表情の読めない目でめくり――ついに審判の時が訪れた。
「……なるほどね。って、トールってばなんでそんなところに突っ立てるのさ、こっち来て座ったら?」
歩が同人誌を閉じた瞬間、徹はスライディング土下座ので歩の足元に滑り込んだ。
「すいませんっしたああぁぁぁああぁぁぁ!」
「えっ、えっ、ええっ⁉ ど、どうしたのさトール⁉」
「いや本当にごめんなさい、これはですねその決して俺にこういう趣味があるというわけではなくてですね、ただその……そう、イラストがすっごい好みでそれに惹かれて買っただけでして、決して女の子に対してこう無理やりしたいとか思っているわけではなくてですね……なので歩に対しても乱暴なことをしたいとか考えたことがあるわけではないのでどうか何卒お慈悲を……お慈悲を……ッ!」
「あれ、そうなの? でも、これは違う作者さんのだよね? これもまた別の人のだし」
「……え、や、あの……それは……」
証拠物件を両手に小首を傾げた歩は、ベッドから降りると徹の前に屈みこんだ。
にっこりとした満面の笑みを浮かべながらも、その視線は鋭く徹を射抜いている。まるで心の底まで見透かそうとするよう真っすぐ見つめてくる目に、徹はぶるりと身震いする。
「……ね、トール? ボク、怒ってるわけじゃないんだ。ただ、正直に言って欲しいだけで。トールはさ、この本みたいに女の子と無理やりえっちしてみたいって思ってるんだよね?」
「それは……その、否定はしないけれど、リアルと二次元は別と言いますか……」
「ふーん。じゃあ、ボクでこういう想像はしたことないんだ?」
「っぐ、それ、は……」
言葉に詰まって小さく頷くことしかできなかった徹に、歩はすぅっ、と目を細める。
「ふーん……そういえば話は変わるんだけどさ。トールって嘘つくとき、右の唇端が引くつくんだよね」
「っ⁉」
徹は反射的に口元を手で覆い――その行為自体が墓穴だったと気付いた時には手遅れだった。
「ふーん…………そっか。トールはいっつもボクに対して優しいなって思ってたけど、本当はこういうことがしたかったんだ」
「その、いや、そういうわけで……「正直に言って欲しいな?」
先ほどと変わらないはずなのに静かな圧を湛えた歩の笑みに、徹は再び額を床に擦りつけた。
「……その、何回かは魔が差して、想像したことは……」
「どういう想像したの?」
「それは……嫌がる歩を押さえつけて、その……無理やり
「……そういうこと、ボクにしたいって思ってたんだ」
「うっ……け、けど、でもそれは想像だけで……」
言い訳してみたところで、友達でそんな想像をしてしまったことに変わりはなく。
後悔と気まずさに消え入ってしまった徹の声を最後に恐ろしいほどの静寂が部屋を包み――
「――もう、トールってば! だったらなんで今まで言ってくれなかったのさ!」
「……え、あれ⁉ そっち⁉」
困惑に顔を上げた徹の視界に映ったのは、頬を膨らませた歩の顔だった。
やっぱり引かれたのではないか、あるいは嫌われてしまっただろうか。そんな心配は一瞬でひっくり返る。
「もう、言ったじゃん! ボクはトールのセフレなんだから、やりたいことはなんでもやってあげるって!」
「や、それはそうだけど流石にこれは引かれるかなって……それに歩、男のこと苦手みたいな感じだったし……」
「トールは男とか女とかじゃなくて親友なんだから別枠に決まってるじゃん! ……それとも、ボクってそんなに信頼ない?」
「いや、そんなことはないけれど……」
「でも、ボクがこれ見つけなかったら絶対に言わなかったでしょ」
「まあ、それは……」
歩の目を直視できなくて顔を逸らした徹だったが、彼女はその頬を優しく両手で包む。
「……トール。ボクはさ、今回のことすっごく感謝してるんだ。ううん、今回のことだけじゃなくて、トールが友達になってくれた中学のあの日からずっと」
歩の目は微笑むように細められていたが、その奥にはうっすらと寂しそうな色が滲んでいて。
「だからさ、ボクにも少しぐらい恩返しさせてよ。そうじゃないと……アンフェアじゃん」
「歩……」
そんなこと気にしなくていい、という言葉は喉の途中で掻き消えてしまう。
歩が求めているのは気遣うような遠慮ではないことは、もう徹にも分かっていた。
「だから、さ。トールがこういうことしたいなら、本に載ってるみたいに……その、ボクのこと、れ、レイプして……性奴隷にしても、いい、よ?」
流石の歩も今の台詞は恥ずかしかったのか、視線を落ち着かなく彷徨わせる。
それでも自分のためにはっきりと紡がれた言葉に、徹の股間は一気に熱を帯びた。
(そうだ、どうせここで遠慮なんかしても、そっちの方が歩はきっと気に病む。だったら……)
それが言い訳なのは分かっている。だが、今まで抑え込んでいたからこそ、一度解き放たれた欲望は制御が利かなくなっていて。
徹は土下座の体勢からゆらりと幽鬼のように両手をあげ、歩の両肩を捕まえる。
「っ、トール……?」
徹の雰囲気が変わったのを察した歩は、びくりと肩を跳ねさせた。けれどその顔に浮かぶのは、恐怖ではなく嬉しそうな表情で。
「じゃあ、その……ほんとに歩のこと、さっきの本みたいにレイプしてもいいんだな?」
「……ふふっ、確認なんてしちゃったらレイプにならないじゃん」
「……それもそうか。じゃあ、服汚れたら困るし、シャワー浴びたら……その、か、覚悟しろよ?」
「うん。トールはシャワー浴びなくていいから。ボクが部屋に入って来たら、遠慮とかしなくていいからね?」
緊張か興奮か、頬を染めて部屋を出ていく歩を見送って、徹はベッドにどっかりと腰掛ける。
心臓と股間は、早くも期待にドクドクと激しく脈動していた。
Q.どうして徹くんは同人誌を移動させなかったんですか?
A.最近は歩とのばっかりで一切使っておらず、記憶からも消えていたからです。
次回:やべーぞレイプ(ごっこ)だ
……元ネタは知らない、ネットの海に浸っているとよくある話