オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~ 作:真喜屋五木路
「――『フリーズ』」
泣きそうな顔でトールがそう言った瞬間、本当にボクの心は凍り付いた。
「なん、で……」
だってそれはトールが決めてくれた、ボクに無理をさせないためのお守りで。
「なんで……」
トールがボクのことを大事に思ってくれているという、大切な証で。
「それ、つかっちゃうのさ……」
だからこそ、それを言われてしまったら。
「……それつかわれたら……やめなくちゃ、いけないじゃんかぁ……っ!」
目からこみ上げてくる熱いものが止められなくて、そんな顔を見られたくなくて、ボクは徹の胸元に顔を埋める。
けれど、一度堰を切った思いはもう止まらなかった。
「そんなにボクと子供作りたくないの?」
「……」
「そんなにボクと一緒にいたくないの?」
「…………」
「約束したじゃん! キスした時、ずっと親友でいてくれるって言ったじゃん!」
「…………悪い」
やっと口を開いたトールの答えに、頭がカッと熱くなる。
「謝るなっ! 謝るってことは、約束守らないってことじゃんかッ!」
滲んだ視界でも、トールの噛んだ唇から血が溢れるのが見えた。
「……ごめん歩、その通りで」
「っ……はは、は」
心のどこかにあった否定してくれるのではないかという期待すら打ち砕かれて、ボクはガクリと徹の上に崩れ落ちた。
(肯定、されちゃった……)
いつもなら温かくて愛しいはずのトールの体温は、まるで壁の向こうにあるようで。ただただ思いだしたくないあの孤独感が冷たく心を覆っていく。
息苦しいほどの静寂があたりを包んで、トールが震える声をゆっくりと言葉にする。
「……本当にごめん、歩。俺が弱いせいで。けど、今のまま歩と一緒にいたら、きっと我慢できなくなってしまうと思うんだ」
「……我慢って?」
「……歩を俺のものにしたくなってしまうと思うんだ。俺だけのものに」
絶望にぼんやりとした頭はしばらくその意味を解さず、けれど分かった瞬間にボクはトールの顔面へと肉迫した。
「そんなの、我慢しなくていいじゃん! トールが望むならボク、なってあげるよ! トールだけのモノに! トールといられるなら、他の全部はいらないッ! だから――」
「――いい加減にしろよッ!」
激昂するトールに思わずビクリと全身が跳ねてしまう。
いつも優しそうなトールが初めて見せた、感情を叩きつけるような声に、『怖い』と思ってしまった。
けれどこれは同時に、トールが怒っている理由を知るための機会でもあり。
「っぁ……悪い」
気まずそうに目を逸らしたトールの頬を捕まえて、ボクはしっかりと目を合わせる。
「ねえ、お願いトール、教えてよ。ボク、トールになにをしちゃったのかな」
優しいはずのトールに絶交とまで言わせたのだ。自分が何をしてしまったのか、正直知るのが怖い。
だけど、それ以上にトールと離れないといけないことの方がもっと怖かった。
「本当はこんなこと聞くこと自体ダメだって分かってる。自分で気づかなくちゃいけないって。だけど、どうしても分からないんだ……! だから、お願い……お願いだよ、トール……」
トールは更に苦しげに表情をを歪ませ、だけどなんとか伝えようとはしてくれているのだろう。金魚のように口を開けては閉じてをくり返すこと数度。
「……その、だって……彼氏が、できただろ? だから……」
予想外の返答にボクはしばし固まってしまう。
彼氏? どうして? いつ? 誰に?
――いや、この場に主語となる人物はボクとトールしかいない。つまり……。
「トールは、彼氏ができたからボクとは会えないってこと……?」
「……ああ、身勝手で悪い」
「……本当だよ、彼氏優先なのは仕方ないとしても、それ以外の時間だけでも、ダメなの?」
「……? いや、彼氏がいるのにこういう……セックスとかするのは流石に、な」
「……そっか。ボクはてっきりトールは女の子が好きなんだと思ってたんだけどな」
「…………いや待った。ちょっと落ち着こう。何かおかしい」
トールはコホンと咳払いをして仕切り直し、眉をひそめて口を開く。
「確認したいんだが、歩は誰に彼氏がいると思ってるんだ?」
「へ? トールに彼氏ができたんじゃないの?」
何とも言えない沈黙がトールとの間に広がり。
「いや違うわ! なんでそうなるんだよ! 歩に彼氏ができたっていう話に決まってるだろ⁉」
「え? え、ボク? ええっ……いつボクに彼氏が……っ⁉」
予想もしていなかったトールの反応に、ボクはわたわたと困惑することしかできない。
トールもボクの様子にねめつけるようだった視線を困惑気味に彷徨わせ、自信なさげに口を開く。
「え、や……だって、あれって……歩の彼氏じゃない、のか?」
「あ、あれって言われてもどれか分かんないんだけど!」
「いやほら、その、金曜の夜会ってた若い男だよ」
そんな人に会った覚えがなくてボクはしばらく首を傾げ――まさか、と思い至る。
「もしかして、パパのこと?」
途端にトールの顔が悲しそうなものになった。
「パパって……いや、流石に言い訳にしても無理があるだろ。あんな大学生ぐらいの見た目なのに」
「いや、確かにそうだけど! そうなんだけど! あーもう、これ!」
ボクは部屋の隅に脱ぎ散らかしていた制服からスマホを引っ張り出してアルバムを開く。
トールに見せつけるのは高校の入学式の時の写真。
「……そうか、この時からもう知り合いだったのか……」
……まだ誤解はとけていないらしい。ならばと今度は中学校の時の入学写真。
「歩この時はまだ黒髪で……っていうかそんなに古い仲だったのか……」
なんだか誤解が加速した⁉
正直恥ずかしいのだが、もうそんなこと言っていられない。ボクは最終手段として、小学校の時の入学式の写真を出す。
「うわ、小学生の頃の歩、マジで男の子じゃん……いや、というかおかしくないか? この写真、合成とかじゃないんだよな……?」
「……うん、ボクも正直たまに怪しくなるけど、本物」
トールが疑うのも無理はない。
三枚の写真でボクの姿は変われども、パパの姿は微塵も変わってないのだから。
「え、じゃあマジでお父さんなのか……?」
ようやく信じてくれたらしいトールにボクはほう、と息をつく。
これ以上となると、幼稚園とか赤ちゃんの写真が必要だ。家まで取りに戻らなくてはならないし、流石にまだ恥ずかしい。……ではなくて!
「うん、何か知らないけど昔から外見変わんないんだよね、パパ」
「……もしかしてお父さん、吸血鬼との世代を超えて一族で戦う漫画とか描かれてらっしゃる……?」
「いや普通の会社員だから!」
割と本気で聞いてそうなトールに突っ込みを入れると、盛大なため息と共にガクリと項垂れる。
「マジかよ、じゃあ俺はお父さんを彼氏と勘違いして勝手に……」
流石にボクにも、なんとなく流れが読めてきた。
きっとトールはボクに彼氏ができたと勘違いして、それで身を引こうとしていたのだろう。
「それはその、ボクもごめん、あの時正直に言ってれば……! トールにこんな勘違いさせるなんて思ってなくて……」
急に「時間ができたから」とこっちに来たパパと出かけたのが、まさかこんなことになるとは。
でも、友達はこの年でパパと仲良く出かけるのは変だと言っていたし……いやでもトールがそんなこと気にするわけがないのだから、やっぱり素直に言わなかったボクのせいだ。
「いや歩が謝ることじゃないって、俺が変なこと考えずにその場でちゃんと聞けてたら良かったんだし。……けど、じゃあなんで髪型とか服装、いきなり変えたりしたんだ?」
「なんでって……トールの好みにあわせようと思って」
「へ?」
トールは鳩が豆鉄砲を喰らったように口をぽかんと開く。
「え、だってトール、清楚な感じの女の子が好きなんでしょ?」
「な、なぜそれを……っ⁉」
「なぜって……この間の本、全部そんな感じの女の子ばっかだったじゃん?」
瞬間、トールはピタリと固まり、
「……こ」
「こ?」
「殺してくれ……」
死んだ魚の目でぐにゃりと脱力した。
「え、そ、そんなに似合ってなかった?」
「いや! 似合ってる、すっごい可愛いし……ってそうじゃなくて、なんで急に変えたかって話だよ! サイドテール、ノワ子に合わせてたのに変えてよかったのかよ」
「それはそうなんだけど……でも、それ以上にトールにいいなって思って欲しくて……」
「……っ」
トールは顔を赤くして、けれど誤魔化すようにぶっきらぼうな口調で言う。
「あー……あれか? 友達が好きなのは好きになりたいってやつか?」
「まあ、大体そういう感じ……いや――」
肯定しかけて、ボクは迷う。
変えようと思ったきっかけは確かにそのつもりだった。けれど、改めて言葉にされると少し違う気がしたのだ。
それよりも、もっと――
「――ああ、そっか。ボク、トールに好きだって思って欲しかったんだ」
口から言葉が零れた瞬間、パズルのピースがパチリと嵌ったような気がした。
感情が溢れ出し、心臓がドキドキと早鐘を打つ。
いきなりトールの顔が見れなくなって、思わず俯いてしまって。
「ご、ごめんいきなり変なこと……その、そう、あれ! 好きっていっても友達の好きであって……」
「……歩」
いつになく真剣なトールの声に、ボクは背筋を伸ばした。
まっすぐなトールの視線がボクを射抜いて、表情筋がひりつく。
「な、なに?」
「俺は歩が好きだ」
「っ」
感情がぐちゃぐちゃと渦巻いた。
嬉しさで熱くなっているのに、同時に恐怖で冷たくなる。
「そ、そう、なんだ……それはやっぱり、友達としてじゃない方……なんだよね?」
そうであることを願いながら、そうであったら今の関係が終わってしまうのではないかという二律背反。
だが、トールの答えは予想外のものだった。
「……それなんだけど、どっちもっていうのはダメなのか?」
「え、ど、どっちもって……それって、いい、の?」
ボクは思わず呆気にとられる。
友達と恋人は両立しないものではなかったのか。
実際かつて中学時代に友人だと思っていた相手は皆、自分が恋人にならないと分かった瞬間他人になったように離れていった。
だから異性として好きになるということは、友達ではなくなってしまうと、友達を終わらせてしまうと、そう思っていたのに。
「その、俺にとってやっぱり歩は大事な友達なんだよ。気を遣わなくていいし、一緒にゲームして楽しいし、そうじゃなくて普通に話したり、隣にいてくれるだけでも楽しいし」
「……っ」
トールが自分と同じように感じてくれていることに、胸の奥がジンと痺れる。
「だけど同時に、歩を独占したいって思ってしまってもいるんだ。他の人のところに行ってほしくないって、自分が一番だと思って欲しいって……それに、その、セックスも俺以外とはしてほしくないっていうか」
「あ……」
切なそうに紡がれるトールの言葉は、決して他人事ではなかった。
(あれ……? ボクも、トールに同じこと思ってる……?)
もしもトールが他の女の子と仲良さげに歩いていたら、もしもその子とえっちしていたら――そう考えただけで、胸の奥が締め付けられるような苦しさを感じてしまう。
そしてそれに反比例するようにトールのことが愛しく思えて。
「……あれ? ボクも、トールのこと『好き』なのかな」
「いや、別に無理する必要はないんだぞ。恋人とか、苦手なんだろ?」
「ううん、無理じゃなくて……苦手なのは本当だけど……」
恋愛が怖いものだという思いがなくなったわけではない。
「彼氏とケンカした」、「浮気されてしまった」、「なんとなく冷めてしまった」、「破局した」――話を聞いている限り、恋愛は「いつか終わってしまう」関係だ。
そんな散ることが分かっている花のような関係は嫌だ。だけど、トールとなら――親友となら。
「……トールはさ、ボクが彼女になっても親友でいてくれる?」
トールは一瞬目を見開き、けれどすぐに真剣なまなざしでボクの目を見つめた。
「ああ、今度こそ約束する。何があってもこの先ずっと歩の友達――いや、『親友』だって」
真っすぐな瞳は光となって、ボクの心の底まで差しこむ。
「だから改めて、歩。俺の親友兼恋人になってくれないか」
「っ……」
とうとう幸福感が恐怖を上回った。
オセロがひっくり返るように、不安が安心へと裏返っていく。
その感覚には覚えがあった。
(ああ、そっか――)
中学生の頃、友達が欲しくてオンラインゲームに頼り、けれどそこでも絶望しかけた時のこと。
トールと出会った時のこと。
――――
「あー、やられちまったか。けどまあ次頑張りましょう」
「え、次って……でも、ボク全然うまく動けてなくて迷惑かけてますし……」
「いやいや、はじめてまだ三日目なんですよね? なら全然動けてますって、というかむしろ伸びしろすごいですし」
「え、そう……ですか?」
「ですです。それにポーンさんと一緒にプレイするの、楽しいですから……ってすいません、流石に馴れ馴れしかったですよね」
「っ、全然そんなこと……! その、ボクこそもっとトールさんと遊びたいっていうか」
「……なら、フレンド登録します?」
「っ! ぜひ、お願いします……!」
――――
(――友達としての好きも、恋人としての好きも、根本にあるのは同じものなんだ)
もっと相手と一緒にいたい。
同じ時間を共有したい。
楽しいという思いを分かち合いたい。
だったら、答えは決まっている。
ボクは吸い込まれるようにトールの顔へと近づいて――ちゅっ、と柔らかで幸福な感触が唇に広がった。
セックスの一環としての興奮するためのものとは違う、まったりとした安心感が広がるようなキス。
「……その、歩、これって」
「うん、今後は恋人としてもよろしくね、徹」
徹が感極まったように全身をふるりと震わせた。こちらに向かって起きあがろうとする。
「歩、俺こそ……」
ボクはその先を期待して静かに目を瞑り。
けれど、やってきたのは柔らかさでなく、申し訳なさそうな声だった。
「……あ、あの、歩。すっごい締まらなくて悪いんだけど、ロープ外してもらっていいかな……?」
「え? あ! うわそうだった! ごめん徹! っていうか手が変色してるっ⁉」
バタバタと慌てながら教えてもらったハサミを持ってきて。
「うう、ごめんね徹」
「いや、感覚もちゃんとあるから大丈夫だって」
自由になった手をさする徹を見ていると、自分のやらかしが芋づる式に思い浮かんでしまう。
「その、デートの時徹が告白しようとしたの邪魔したのもごめん。徹の好きなもの知るために勝手にベッドの下漁っちゃってごめん。それに、今日だって窓から勝手に入ったのもごめん。それからこんな風に縛って――」
「ああもう、だから大丈夫だって」
徹がボクを抱きしめて、唇を寄せてくる。
「わーっ⁉ その、ちょっとストップ! さっきおしっこ飲んだから今汚い――んんんっ⁉」
躊躇なく唇が押し付けられ、まるで綺麗にしようとするみたいに徹の舌が口腔を舐めまわした。
「ちゅぢゅっ、ぷは――さっき自分からキスしといて今更だろ。それに……歩に汚いところとか、ないから」
「あ、うぅ……」
徹の顔は電気ヒーターのように真っ赤だが、きっとボクも同じぐらい真っ赤なんだろう。
全身がむずむずするかのように落ち着かなくて、けれど嫌な感じではなく。むしろもっと触れあいたいという気持ちが風船のように膨らんで。
「その、徹……もっと、したい」
徹がごくりとつばを飲み込み、けれどブンブンと首を横に振る。
「いや、それは俺もそうだけど……! でも、先にその、中に出してしまったんだし、避妊とか……」
「あ、それなんだけど実は……」
ボクは一応念のために貰っておいた薬のパッケージを徹に見せる。
「……それってもしかして、避妊薬か?」
「うん、だから心配しなくて大丈夫」
「ああ、よかった……もし歩が妊娠したらどうしようかと……」
徹は安堵したかのように肩から大きく息を吐きだし……けれどすぐに両手を振って弁解しはじめる。
「いや! その、歩との子どもが欲しくないわけではないぞ!? ただ、流石にちょっとそれは早いっていうか、せめて高校というかできれば大学卒業して責任取れるようになってからっていうか――」
「……ふふっ」
その慌てようが面白くて思わずくすりと笑ってしまうと、徹は気まずそうに押し黙ってしまう。
「大丈夫だよ、ボクも同じ気持ちだから。いつかはって思うけど、その……しばらくは、徹のこと独占したいから」
その想いのままに全身で徹に抱き着くと、反り返った肉竿がビクンと跳ねた。お腹の上から子宮が押し込まれ、甘美な期待が全身に広がる。
もうこれ以上は、ボクも徹も我慢なんてできそうにもなかった。
「だから徹、ボクと恋人セックス、しよ?」