オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~ 作:真喜屋五木路
翌日、待ち合わせ場所の駅へニ十分前についた徹は、駅前にある銅像の足元で通話アプリを開き、ポーンからのメッセージを待っていた。
「……格好とか、変じゃないよな?」
自分の服装を確認し、カメラのインカメで髪を整える。
ヘアワックスなんて買ったのその日に使って以来なので、今朝見た解説動画の見よう見まねだ。本当にこれでいいのか自信がなくて、ついつい時間があるといじってしまう。
相手はポーンなのだから変に格好つけるのも……とも思いはしたのだが、考えてみれば女子と遊びに行くなど初めてである。せめて最低限、清潔感とやらぐらいは纏っておきたい。
そうやって落ち着かなく身だしなみを整えたり、周囲にそれっぽい人がいないかきょろきょろと見回している時だった。
「……げ」
徹の視界に駅から出てくる我妻歩の姿が映る。
キャップに淡色のシャツと黒のジャケット、オリーブドラブのカーゴパンツというボーイッシュな格好は、学校でのイメージとはだいぶ違う。
だがそれでも目立つピンクの髪色と、同じぐらい周囲の目を惹く顔の良さが、強制的に視線を引き寄せるのだ。
徹だけでなくすれ違った人が、男女問わずつい振り返って「脚長い」とか「すっげー美人」と呟くぐらいには目立っていて、気付くなという方が難しい。
(もしかして我妻さんも友達とここら辺で遊ぶ予定だったりするのか?)
何にせよ昨日の冷たい視線を思いだせば、学外でまで顔を合わせたくはない。
徹は彼女へ「どこか別の方角へ行ってくれ」と念を送り――だがそんな願いも虚しく、彼女はまっすぐ徹の方へと歩いてくる。
「……っ」
彼女の視線がぴたりと自分へ向けられたのに気付いて、徹は肩を跳ねさせた。
一方の我妻も僅かに目を見開いて、それから訝しげな目で徹を眺める。
「……おはよう」
挨拶にしては無感情で冷たい声。
一瞬それが自分に向けられたものだと気づかず、徹は反応に遅れる。
「あ、お、おはよう、我妻さん……」
「一応訊くんだけど、まさか休日まで私の後をつけてきたとか、そういうことじゃないよね?」
(やっぱり昨日の一件で変態だと思われてるんじゃないか、俺⁉)
徹は首が取れそうな勢いでブンブンと頭を横に振った。
「ち、違うって! 俺もここで友達と待ち合わせしてて……!」
「……俺、『も』?」
「ああ、いや違っ――我妻さんいっつも友達といっしょにいるし、だから今日もそうなのかなって思っただけで!」
「…………ふーん、まあいいけど」
彼女は興味を失ったかのように、視線を徹から自分のスマホへと落とす。
だが、最後に徹を見ていたときの目にはありありと強い警戒の色が滲んでいて。
(や、やらかしたああああぁッ!)
焦るあまり、彼女が友達と待ち合わせしている前提で話してしまった。それが事実であろうとなかろうと、彼女のプライベートを探ろうとする不審者だと思われたのではないか。
我妻歩の中での評価が『変態』から『変態不審者』にランクアップしたことを確信し、徹はがっくりと項垂れる。
(来週からますます学校に行きづらい……なんて声かければいいんだ……)
このままではその内ストレスで胃に穴が開く日も遠くない。
(い、いやでも今日はポーンと遊ぶんだ。多分通ってる高校も同じだし、学校でも一緒に話せるようになれれば、少しは楽しくなるはず……っ)
徹が最後の希望にぐっ、と拳を握った時だった。マナーモードにしていたスマホが小さく震える。
画面をつけるとポーンから『今像の前に着いたよ! トールどこ?』というメッセージが届いていた。
もしやさっきのやりとりの間に見過ごしたのだろうか。徹は慌てて周囲を見渡すも、像の近くに立っているのは自分と我妻だけだ。
もしやこれ以外にも駅前に像があるのだろうかと首をひねりながら、徹はメッセージを打ち込む。
『俺も今像の前だけど……像ってあれだよね、中央口の腕組んでるオッサンの像』
徹は送信ボタンをタップし――その瞬間、我妻のスマホから聞き馴染んだ『ペポッ』という音が聞こえた。
ぎくりと彼女の方へ振り向く徹。まさか。
彼女も小首を傾げると、自分と同じように周囲をきょろきょろと見回して――その視線が、徹の方へと固定される。
「……もしかして、あんたがトール?」
「そういう我妻さんこそ、もしかしてポーン?」
確定だった。
……言われてみれば、確かに声質は似ているかもしれない。今までポーンの声はマイク越しのこもった感じがあったので気付かなかったが。
けれどそれ以上に、あまりにもキャラというか声に籠った感情が違いすぎて、今でもポーンと我妻さんがイコールで結びつかない。
(いや、嘘だろ……我妻さんがポーン……?)
そして彼女も同じ心情であることは、睨みつけるような顰め面で口を押さえていることから、嫌というほどと分かった。
人の行き交うがやがやとしたざわめきが消えて、自分たち二人だけになってしまったかのような気まずい沈黙が場を支配する。
「……悪いけど、あんたがトールだって言われても、正直信じられない」
「そ、そうだよね……ごめん」
「その自信なさげなところとか、全然トールっぽくないし」
そう言われたって困る。昨日やさっきのことで気まずいままだし、そうでなくとも彼女のような美人を前に普段ぼっちの男が緊張するなという方が無理な話だ。
徹は内心ため息をつく。
(ああ……やっぱりこんなことになるなら、オフで遊ぼうとなんてするんじゃなかった……)
先ほどまで抱いていた、学校でも楽しく過ごせるかも、という希望がガラガラと崩れていく。
いや、学校での関係だけならまだいい。このまま帰って、以前と同じようなノリでポーンと遊べるだろうか。いや、無理だ。
徹は絶望感に引き攣りそうな表情筋をなんとかぎこちない笑みに貼り付けて、彼女に向かって手を上げる。
「あー、その……なんというか、期待に添えなくてごめん。じゃあ、俺はこれで……」
はははと乾いた笑い声と共に、徹はそのままさりげなく立ち去ろうとして。
がしりとその肩を捕まえられた。
「ちょっと、何逃げようとしてるの」
振り返ると、我妻の目には冷たい怒りが静かに燃えている。
「え、で、でも、我妻さんが信じられないって……」
「そうだね、信じられない。けど、だからって逃げるのは違うんじゃない?」
「な、ならどうすれば……」
「だからあんたがトールだって証明してよ」
これから一体何をさせられるというのか。
しかし我妻歩の剣呑な表情に、徹はコクコクと頷くほかなかった。
顔が整ってる人の静かな怒りor無表情は男女問わず本当に怖い(実話