オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~ 作:真喜屋五木路
徹が我妻に連行されたのは、当初遊ぶ予定であったゲームセンターだった。
今まで無言で引きずられていた徹は、予想外の目的地に思わず彼女に聞いてしまう。
「その、証明ってなにを……?」
「そんなの決まってるじゃん」
店内に入り、しばらくきょろきょろしていた我妻に引っ張られていった先にあったのは、ガンシューティングの筐体だった。
「あんたがトールだって言うなら、これプレイしてみてよ」
「……いいけど、そんなんで証明になるのか?」
「だって前言ってたでしょ、シューティングならガンシューも得意だって」
徹は記憶をひっくり返し、そういえばリアルでどんなゲームで遊ぶかという雑談をしたとき、話題にあげたことを思い出す。
「あー、そういえばそんな話もしたなぁ……」
「……怪しい。適当に誤魔化してるだけなんじゃないの、やっぱり」
「いや違うって! そうじゃなくて、確かその話中学の時に一度しただけだったからさ。よく覚えてたなって」
「……『トール』は、親友だからね。それぐらい覚えてて当然じゃん」
我妻はふん、とぶっきらぼうに吐き捨てる。
まるで『トールはそうだけどお前は違う』というような態度に、けれど自分のことを覚えてくれているのが嬉しいと思ってしまうのは、ぼっちの悲しき性ゆえか。
なんにせよこれで証明できるならばと徹は百円玉を投入し、銃を構える。
オープニングデモを眺めながら、久しぶりの感覚を取り戻すためにトリガーを何度か引き――そこで突然画面に『Player2 Entry』の文字が表示された。
振り向くと、彼女が隣で銃を構えている。
「え、我妻さんもするの?」
「……悪い?」
「いや、てっきり証明しろって言うから、ただ見てるだけなのかと……」
「ただ見てるだけっていうのも暇じゃん、私、ゲームは見てるよりやる方が好きだし」
「……いやまあ我妻さんがいいならいいんだけど」
どちらにせよもうオープニングが終わってゲームが始まる。
自分がトールであると証明するためにも、本気を出さないといけないだろう。徹は髪型が崩れるのも構わず、前髪を後ろに撫でつけた。
深呼吸をすると視界の端から我妻歩の姿が消えて、ゲーム画面だけが世界の全てになる。
「よしッ――!」
徹は両手で銃を構えると、一体目のゾンビの頭を打ち抜いた。
(少し不安だったけど、やれば思い出せるな。窓から四体、通路曲がったら右から三連続で――その次は上から不意打ち、と)
久しぶりのプレイだったが、伊達に一度ノーダメを達成するまで遊んだわけではない。ゲーム画面を見れば自然と敵の出現パターンが頭に浮かんでくる。
流石にヘッドショットを連続できるほど全盛とはいえないが、おかげで出てきた端からゾンビ共は次々打ち抜かれて倒れていく。
(よし、順調順調――)
徹が思わずニヤリとした笑みを浮かべた瞬間だった。
「――ずるい」
我妻の声にドキリと心臓が跳ね、徹は意識を現実へと引き戻された。
「ず、ずるいって……なにが?」
「……だって、さっきからあんたしか銃撃ってないじゃん」
指摘されて、徹は先ほどから彼女のスコアが振るわないことに気付く。
(ポーンの反射神経なら、俺より先に撃ててもおかしくはないはずなんだけど……いや、もしかして)
半ば確信しながら、徹は彼女に尋ねる。
「我妻さんって、もしかしてこのゲーム初めて?」
「……ん」
認めるのが悔しいのか、彼女は小さく首肯する。
なるほど、確かにガンシューは対戦型FPSと違って覚えゲーの要素が強い。
このまま知識差のせいで、一方的に全部ターゲットを奪われるのも楽しくはないだろう。
「なら、どの方向から出てくるか大体だけど教えるから、その方向に注意してみて」
「……分かった」
「じゃあ次は下から五体出てくるから――」
とはいえ徹が教えられるのはあくまで大体の方向のみ。
経験の差によるハンデはその程度で覆せないだろうと、そう思っていたのだが。
「――ちょっと、マジでこのゲーム初めてなのかよ⁉ あ、次左三、その後奥から六」
「うん、マジで初めてだけど、楽しいねコレ!」
徹が来る方向を教え始めた途端、彼女は反射神経の暴力でゾンビを薙ぎ倒し始めた。
大体の出現場所こそ共有しているとはいえ、正確な場所については徹の方が知識があるはずなのに、次々ヘッドショットが決められていく。
「くッ、また取られた!」
「いいじゃん一体ぐらい! ねね、それより次は?」
「ああもう、次は上から降ってきて、その後右から!」
「オッケー! っていうかすごいね、さっきから全部間違いなしなんだけど!」
「当り前だろ、一応はこれでもノーダメクリア経験者だからな!」
だからこそ負けてなるものか、と若干ムキになりながら指示を出しつつ銃を操るうち、あっという間にラスボスまで辿り着く。
「うわなにコイツ、撃ってもダメージ入ってないんだけど⁉」
「それでいいんだよ! コイツはとにかく撃って足止めして、そしたら中から小型の本体が出てきて飛び回るから、それ狙って初めてダメージが通るヤツだ!」
と、口では簡単に言ったものの、実際はなかなか厄介なボスである。
ボス本体がテニスボール程度の大きさしかない上、動きも早く、そのくせ飛行パターンが複数あるのだ。
追いかけて撃つのは難しいため、置きエイムで根気よく削っていくのが定石――なはずだったのだが。
「あはは、このボスが一番楽しいかも!」
彼女は初めて見るはずの敵のパターンに追いついて、確実に体力を削っていく。
「嘘だろ⁉ 初見でここまで削れるとか相変わらずバグった反射神経してんな」
「ははは、褒めるな褒めるな!」
一人だとかなりの時間がかかるボスの体力が、二倍以上の速度であっという間にすり減っていき――二分も経たないうちに、ラスボスは哀れな断末魔をあげて倒れ込んだ。
画面に表示される『Perfect Clear』の文字を見た彼女は、不敵な笑みを浮かべて徹の方へと振り返ると、手をあげてみせる。
「やったねトール!」
「さすがだな、ポーン」
徹は無意識にその手へとハイタッチを交わし――柔らかな手の平の感触で、我妻に触れてしまったことに気付いた。
「あ、悪い。つい無意識で……」
慌てて手を引っ込める徹に、彼女は不機嫌な表情を浮かべる。
「もう、トールってばなんで謝るのさ」
「や、それは……その、ポーンに触れちゃって?」
「ボクがハイタッチしようって手を伸ばしたんだからそこは謝るところじゃないじゃん!」
「それは……悪い」
「あ、ほら! また謝ってる! というかトールとボクの仲なんだから謝るの禁止!」
そこで徹は、今更ながら彼女にトールと呼ばれていることに気付いた。
「……ということは、俺のことトールだって認めてくれたのか?」
「当たり前じゃん!」
満面の笑みで我妻は――いや、ポーンは笑う。
それは学校で女友達に見せる少し大人びた笑みとは違う、通話している時に「きっとこんな感じで笑うんだろうな」と思っていた、どことなく少年のような悪戯っぽい笑顔で。
「だってゲームしてる時の感じがそうだもん。すっごく知識があって頼りになって……だからさ、トールもいつもみたいに絡んできてよ。せっかくこうやって一緒にリアルで遊べるんだからさ、ボクだけ楽しいってのはアンフェアじゃん?」
その言葉で、今度こそ目の間の相手がポーンなんだという安心感が湧いてきて、徹の顔に自然と笑みが浮かんだ。
「ふっ……だな。じゃあどうする? ひとまず一戦目はスコアで俺の方が勝ってるわけだが」
露骨な挑発に、ポーンがニヤリと笑う。
「なるほど、そういう感じね。じゃあ次はボクが得意なレースゲームで相手してもらおうかな!」
ちなみに二人のハンドルネームはそれぞれ
徹「トオルだからなんか音似てるし北欧神話のトールにするか!(黒歴史」
歩「ハンドルネーム? うーん、何も思いつかないから本名から連想して……そうだ、チェスの歩にあたるポーンにしよ!」
だいたいこんなノリで決めてそう