オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~ 作:真喜屋五木路
まさかの相談内容
『ごめん! 今週末の約束だけど変更してもらえない?』
歩からそんな連絡が入ってきたのは金曜日の昼休みだった。
人気の少ない中庭の一角で弁当を食べていた徹は、手を止めて返信を打つ。
『いいけど、どうした? もしかして友達と遊びに行く予定でも入った?』
『違うって!』
間髪入れずに返事が飛んできた。
『確かにみんなのことも大事だけど、先に入ってたトールとの約束の方が優先度高いから!』
怒りのスタンプマークまで続き、ちょっと嬉しくなってしまう徹。
(ああ、ちゃんと友人として扱ってくれてるんだな……)
徹はニヤニヤしそうな口元を引き締めて、手早く返信を送る。
『それじゃあ家の用事が入ったとかか?』
『や、そういうわけじゃなくて。遊ぶ予定はそのままというか……ただ、遊ぶわけじゃなくて……』
直接的でズバっとした表現を好む歩にしては珍しく、歯切れの悪い文面だった。
『ということは、何か俺に頼みたい用事でもできたのか?』
一分ほどの躊躇があって、着信音が鳴る。
『うん、実は。遊ぶ代わりにちょっと相談に乗って欲しいことがあって』
『そういうことなら了解。じゃあ時間は同じでいいんだな?』
『うん、ごめんね。今回の件はちょっとトールにしか頼れそうになくて……遊ぶって約束だったのにごめん!』
なるほど、と徹は納得する。
歩としては多分、一緒に楽しく遊ぶのと、一方的に相談するのは大きな隔たりがあるのだろう。
(まあアンフェアなのは嫌だっていつも言ってるしな)
それにしても、相談ぐらい遊んでいる最中にそれとなく切り出せばいいものを。
なんというか生真面目なところのある歩に徹は表情を和らげながら、手早く返信を送る。
『いいって、俺たち友達なんだしさ。そうやって頼ってくれると俺としても嬉しいし』
『うう、ありがとうねトール。今回の借りは急な予定変更分も含めてちゃんと返すから、明日はよろしくお願いします!』
徹は了解のスタンプを送り、スマホをポケットにしまう。
歩は借りのつもりのようだが、徹としては少しワクワクしていた。
友達から相談を持ち掛けられるという青春イベントに、自然と鼻歌を歌ってしまうぐらいには。
「……明日、楽しみだな」
それがまさかあんな内容だとは思いもせずに。
――――――
「おじゃましまーす」
「ど、どうぞ……!」
心臓がバクバクとうるさくてたまらない徹とは対照的に、歩は気楽な様子で吉永家の玄関をくぐる。
「おー……なんか結構和のテイストめな感じ?」
「あ、ああ……お袋の趣味でな……」
「そうなんだ。いないってことはお母さんも共働き?」
「いや、親父の赴任先にお袋がついて行って、今は一人暮らしみたいな感じで……」
「え、マジ⁉ じゃあボクと一緒じゃん! えへへ、一人暮らし仲間だ」
歩はくるくると興味深そうに部屋を見渡して笑うが、徹は気が気ではなかった。
(一人暮らしの男子の家に上がりこんで、そんな無防備な顔するなよな……! いや、俺は変なことはしないけど……)
歩に続いて家に入り、扉を閉める徹。鍵をかけるカチャリという音が、やけに大きく聞こえてしまう。
まさか歩が家にくるなんて昨日まで思ってもいなかった。
元々はまたゲーセンで遊ぶ予定だったし、相談にしたって駅前のハンバーガー店あたりで話を聞くものだと思っていた。
だが、今朝になって歩が「できれば他の人には聞かれたくないから」ということで急遽家へ来ることになったのだ。
「それで、話すのはリビングでいいよな?」
「あー……その、できればトールの部屋がいいなー、なんて。……ダメかな?」
「……いや、歩がいいならそうするけど」
徹は平静を装いながらも、手の平にじわりと汗が浮くのを感じる。
(あっぶねぇ! 部屋の掃除しておいてよかった……!)
待ち合わせ場所をゲーセンの駅から家の最寄り駅に変更したいと言われた時に、部屋を片付けておいてよかった。これが虫の知らせというやつか。
尤も、掃除自体は定期的にやっているのでそこまで時間はかからなかった。問題は、電子版がなくて実物で購入するしかなかった薄い本の処遇である。
なにせ自室にはあんまり家具がないので隠す場所も少なく、結局ファイルに纏めてベッドの下に放り込んだだけだ。
歩の性格からしてわざわざ隠しているものを暴こうとするとは思えないが、どうしても気にはなる。
そして気になると言えばもう一つ。
(うう、なんというか家に女の子がいる感がヤバいんだが……⁉)
道中立ち寄ったコンビニの袋を手に、自室がある二階への階段を先に登る歩を見上げながら、徹はアウェー感に悶える。
歩はこの間と同じパンツスタイルだが、今日は体の線を浮かせるタイトなジーンズで、階段を上るごとに引き締まったお尻の形が浮き上がるのだ。
それに、通った後へなんとなく甘いような女の子の香りがふんわりと漂っていて、まるで別の家に来たかのように錯覚してしまう。
というか二回目の遊びに行くで男の部屋に上がるとか、人によっては勘違いされても仕方がないのではないか。
(……いや、俺はそういう勘違いはしないけど? というか歩はあくまで友達だし……そう、友達、友達……)
声に出さないようにしながら自分に言い聞かせる徹。
もちろん完全にそういう期待がゼロになるわけではない。だが、それ以上に一時の衝動で歩と友達ではなくなってしまうことを想像すれば、邪な期待も自然としぼんでいった。
徹がガチャリと自室のドアを開けると、歩は興味深そうにあちこち見回す。
なんだかテストの採点を目の前でされているみたいに、そわそわと落ち着かない。
「へぇー、これがトールの部屋かぁ……」
「いや、そんなに面白いものはないだろ」
実際、徹の部屋はかなりシンプルだ。机の上にゲーム用のモニターとパソコン、後は服をかけるラックと教科書とかの入った本棚、ベッドの上にタブレットが一つ。
「……割とシンプルだね?」
「まあ、ゲーム以外にこれといった趣味もないからな」
「え、じゃあずっとゲーム漬け?」
「いや、アニメぐらいは見るけど……まあ、それ以外は確かにそんな感じか……」
改めて指摘されると、ちょっと依存症気味で不味いんじゃないかという危機感が湧いてくる。
ちょっと別の趣味でも探すか? いや、勉強とかに影響は出てないんだし……などと徹が悩んでいる間に、歩は何の気なしにベッドの端へと腰を下ろした。
「ちょ……っ、そこベッドだぞ?」
「? そうだけど?」
動揺する徹に対して、歩は小首を傾げるだけ。
(も、もしかして男友達のベッドに腰掛けるぐらい普通なのか? わ、わからん……!)
薄い本の余計な知識が、ベッドに並んで座った男女の続きを想像させてくる。
だが歩はまるで気にした風もなく、脚をプラプラと揺らすばかり。
これは友達だと信頼されているからなのか、それとも男として意識されていないからなのか……。
「と、とにかくこっち座れって」
徹は自分の椅子を勧めるも、歩はそちらの方が駄目だと首を振る。
「自分の机って要は自分の城みたいなものじゃん。ならその椅子は玉座と同じだよ。そんなところに座るわけにはいかないって」
どうやら歩には歩で独特の拘りがあるらしい。
「……それに、こっちの方が今日の相談事には都合がいいし」
そうだ、あくまで自分の部屋に来たのは秘密で相談したいことがあるからだ。
徹は友達のためと色ボケ思考を頭から追い出し、コンビニの袋からジュースを取り出して歩に渡す。
「それで、人前では相談しにくいことってなんだよ? できる限り協力はするけど、俺もただの高校生だし、やれることは限られるぞ?」
「ああ、うん。そこは問題ないかな。トールだったら多分大丈夫……ってもしかしてトール、実は女の子だったりしないよね?」
「いやどこのラブコメだよ!」
「じゃあもしかして衆道とか嗜んでたり?」
「いや戦国武将でもないんだけど!」
徹は突っ込みながら自分のジュースとポテチの袋を引っ張り出し、空になったビニール袋を適当に縛ろうとして。
(あれ? 買ったのはこれだけだったはずだけど)
首をひねりながら袋の中身を取り出し――出てきたのは0.01mmと書かれた箱だった。
……どう言い訳もできないほど、しっかりコンドームの箱である。
徹は予想外の状況に無言で固まり、けれど歩の視線がじっと箱に向いているのに気付いた瞬間、顔が一気に熱を帯びる。
「ご、ごめん! これは間違って入ってたみたいで!」
箱を袋へと叩き込み、部屋の隅へと全力投球する。
「決して意図して買ったとか歩とそういうことを期待してたとかそういうわけじゃなくてだな!」
早口でまくし立てながら、徹の頭の中は混乱の極みであった。
なぜいつの間にこんなものが。
どうしよう、引かれただろうか。
いきなり性行為を期待していると、直結厨みたいだと思われただろうか。
というかこんなことで歩に嫌われたくない。
際限なく不安が湧き上がり――けれど歩の反応は予想外のものだった。
恥ずかしそうに頬を染めて、指先どうしをこね合わせる。
「あー、ごめん。実はそれ入れたのボクなんだ」
「は?」
「その……実は相談事っていうのは……ボクに初めてのえっちを教えてほしいんだ!」
からかわれている……様子はない。
歩の目は落ち着かなげに揺れながらもじっと徹を見上げており、握りしめた両こぶしには確かな決意が宿っている。
突然の展開についていけず、徹は頭を押さえた。
「ちょ、ちょっと待った……その……え……あれ?」
何故そんなことを自分に頼んでくるのか。
というか歩には確か大学生の彼氏がいたはず……はっ、もしや彼氏が寝取られ趣味でこんなことを……⁉
いや、そういえばそれは告白除けの嘘なんだったっけ。
でもそれならなぜこんなことを頼む必要が……。
駆け巡る思考に難しい表情を浮かべる徹に、歩は困ったように小首を傾げて苦笑する。
「あはは、まあそうだよね……いきなりこんなこと頼むとか、その……ボクもどうかなって思ったんだけど――」
歩はことの経緯を話し始めた。
曰く、友達のひとりが今度彼氏とお泊りをすることになるらしい。そこで初めてを前に、経験者の歩から注意事項やどんな感じなのかを参考のために聞きたいと、熱烈にお願いされたということで。
「――いや、だからってその……本当にするのは、ちょっとやりすぎなんじゃ? 体験談とか適当に調べて纏めれば……」
「ううん、それはしたくないんだ」
歩はふるふると首を振る。
「だって、今でも彼氏がいるって嘘ついてるのに、その上更に嘘をつくのはちょっと心苦しいし……それに、せっかく友達が頼ってくれたんだから、どうしても力になってあげたいんだ」
そう口にする歩の目には強い意思の光が宿っている。自分がなにを言ってもきっと揺らぐことはないのだろうと徹は察した。
(そうか、歩にとってはそんなに大事な友達なんだな……)
少しだけ心の奥が妬けるような気分に、徹は胸を押さえる。
けれどそれはそれとして。
「……でも、なんで俺なんだよ。歩なら、もっとカッコいいやつとか、その……女の子慣れしてるやつとか、相応しい相手なんて他にいるんじゃ……」
言っているうちに自信がなくなり徹は視線を逸らしかけ、けれど歩にがっしりと肩を捕まえられた。
「やだ。ボク、トール以外とそんなことしたくない」
なぜそこまでして自分を選ぶのか、という徹の言葉は、見つめてくる歩のなまなざしに喉の奥へと押し戻される。
真剣な、けれどどこか余裕なさげに、すがるような目。
「……無理言ってるのはわかってるんだ。原因だってボクが嘘ついてることだし、トールにはなんの関係もないことだし。だけど、トールにしかこんなこと頼れなくて……ダメ、かな?」
いまだ疑問は尽きない。けれどそんなに不安そうな顔をされて、断れるわけがなかった。
「いや……駄目ではないけど」
「ほんと⁉ ありがとう!」
ぎゅうっ、と歩が全身で抱き着いてくる。
柔らかな二の腕が、お腹が、胸が押し付けられ、否応なしにこれからのことが期待されて。
友達とこんなことをしていいのだろうかという躊躇が心のどこかに引っかかりつつも、徹はゴクリと喉を鳴らすのだった。
明日からいよいよえっちなシーンです。
導入が長い……_(:3」∠)_