俺のヒーローアカデミア~怪物(ジャイアント)の双璧~ 作:ラベンダーフェアリー
第1話をお読みいただき、ありがとうございます!
不条理なボッシュート(転生)の果てに、ジャック・ハンマーの顔立ちと対魔忍の召喚術を授かった主人公・忍。
今回の第2話では、超人社会の登竜門である「個性診断」に挑みます。
しかし、忍を診察室で待ち受けていたのは、原作における最悪の黒幕のひとり、あのマッドサイエンティストでした。
暴かれる規格外の肉体データ、そして裏社会の支配者
ここから、天津気 忍(あまつき しのぶ)の血塗られた復讐の旅路の原点となる、決死の逃亡劇が幕を開けます!
どうぞ最後までお楽しみください。
超人社会において、4歳という年齢は人生の最初の分岐点だ。総人口の8割が何らかの超常能力――【個性】を発現するこの世界では、満4歳を迎えた子供を対象に、公的な『個性診断』が義務付けられている。
孤児院のホールには、一列に並べられたパイプ椅子。
周囲の子供たちは「どんなカッコいい個性が発現するかな!」「オールマイトみたいなヒーローになれるかな!」と無邪気にはしゃぎ回っていた。
だが、その列の最後尾で、ジャック・ハンマーの面影を持つ幼児――俺だけは、静かに背中に冷や汗を流していた。
(マズい。あまりにもマズすぎる……ッッ)
俺の周囲には、今も実体を持たないシルバニアサイズのアサギたちがぷかぷかと浮いている。
この召喚術の異常性と、内に秘めた範馬の肉体ポテンシャル。
これが公的なデータベースに登録されれば、国の『兵器』として公安に目をつけられるのは確実だった。
「次、対魔 忍(ツシマ シノブ)くん。診察室へどうぞ」
白衣の看護師に呼ばれ、俺は重い足取りでドアをくぐった。
診察室の奥、レントゲン写真や遺伝子データのモニターを前に座っていたのは、妙に小柄で、丸い色付き眼鏡をかけた、頭の禿げ上がった老人だった。
「ふむ……彼が対魔くんかね」
老人の名札には、こう刻まれていた。
――『蛇腔総合病院・院長 殻木 球大』――
前世の記憶が、脳裏で警報を鳴り響かせる。
殻木球大。
表の顔は地域医療に貢献する名医。
だがその正体は、裏社会の支配者オール・フォー・ワンの狂信的な右腕であり、脳無(のうむ)の開発者。
最悪だ、神のボッシュートが行き着いた先は、この世界で最も出遭ってはならない邪悪の実験室だった。
「ほほう……これは、これは……」
殻木は、俺の足の小指のレントゲンと、遺伝子配列のモニターを凝視したまま、ぶつぶつと奇妙な笑い声を漏らした。
眼鏡の奥の細い目が、獲物を見つけた蛇のように爛々と輝いている。
「身体能力に関わる遺伝子が、既存の人類のどれとも一致せん。それに、君の周囲に浮かぶそのミニチュア……実体はないようだが、内包しているエネルギーの『密度』が常軌を逸しておる。個性の枠に収まる代物ではないな」
「……」
「安心しなさい。公的な書類には、分かりやすく『自律型ミニチュアの召喚術』とだけ処理しておこう。体に気をつけるんじゃよ、シノブくん」
殻木はいつもの慈愛に満ちた老医者の微笑みを浮かべ、俺を診察室から送り出した。
だが、俺の警戒心は解けなかった。
あの男が、これほどのイレギュラーをただ見逃すはずがない。
その予感は、その日の深夜、最悪の形で的中することになった。
寝静まった孤児院の廊下。
俺は本能的な『気配遮断』の初期衝動を使い、足音を消して院長室のドアの隙間に耳を澄ませていた。
中から聞こえてきたのは、孤児院の職員と、殻木とおぼしき男の、ひどく濁った密談の声だった。
『――間違いない。あれは「特異点」のさらに先を行く最高級の素体だ。あのお方に、裏社会の偉大なる支配者
『殻木先生……本当に、あのガキがあんな大金に?』
『ああ。孤児院が一生遊んで暮らせる以上の額を、あのお方は一括で支払ってくださる。明晩、しかるべき回収班を送ろう。個性を根こそぎ奪い、肉体は脳無のベースとして骨の髄まで使い潰す……ヒィ、ヒヒッ!』
ドクン、と心臓が跳ね上がった。公安の兵器どころではない。
俺のデータを見た殻木の手によって、俺は裏社会の市場で「AFOへの最高値の貢ぎ物」として売り飛ばされることが決定したのだ。
個性を奪われ、肉体を弄ばれ、化け物に改造されて死ぬ未来。
それは、4歳の俺に突きつけられた、確定した『死刑宣告』だった。
「……待ってなどいられるか……ッッ」
自分の部屋に戻った俺は、静かに、しかし激しく奥歯を噛み締めた。
猶予は明日の夜まで。
だが、そんなギリギリまでこの檻に留まる趣味はない。
大人たちが油断している今、この瞬間しか生き残る道はなかった。
俺は頼りない小さな拳を固く握りしめ、必要最低限の荷物をまとめた。
クソ神にボッシュートされた際、なぜか奇跡的に手元に残っていた、血のついていない前世のヒロアカのグッズ。
母の形見のようになるはずだった、大好きな世界の名残。それをボロいリュックに詰め込む。
ガラリと、窓を開け放つ。外は皮肉にも、俺の心情を写したかのような激しい暴風雨だった。
叩きつける雨と、遠くで轟く雷鳴。
「忍くん、行きましょう。私たちがついているわ」
省エネモードのアサギたちのミニチュアが、心配そうに、しかし確かな戦友の眼差しで俺の周囲を浮遊する。
実体化して戦う体力は、4歳の今の俺にはまだない。だが、逃げることならできる。
「……ああ。ここでおめおめと、あの顔無しの化け物に、彼女たちの力を渡してなるものか……ッッ」
歯を噛み締め、俺は激しい雨が吹き荒れる夜の闇へと、その小さな身体を投げ出した。
窓枠を蹴り、地面に着地すると同時に、振り返ることなく全速力で走り出す。
冷たい雨が肌を刺し、泥が視界を遮る。
だが、4歳の対魔 忍の瞳には、絶望ではなく、濁ったヒーロー社会の裏側に対する激しい激昂の炎が宿っていた。国家からも、悪の支配者からも逃げ続ける、過酷な逃亡劇の幕が、今、完全に上がった。
4歳の俺に突きつけられた、AFOへの売却という『死刑宣告』。
生きるために全てを捨て、俺は激しい暴風雨が吹き荒れる夜の闇へと飛び出した。
泥水をすすり、雑草を噛みちぎる、満身創痍の過酷な逃亡劇。
その果てに辿り着いた三重県の田舎道で、力尽きた俺の前に現れたのは、現代のヒーロー社会の枠にはおよそ収まらない、圧倒的な威容を誇る210センチの巨躯の老人だった――。
次回、第3話!【南への逃避行、三重の田舎道で交わす師弟の誓い】
「……強、い……。俺を……貴方の、弟子にしてくれ……ッッ」
個性の概念をへし折る、最強の師弟の因縁が今、幕を開ける!