俺のヒーローアカデミア~怪物(ジャイアント)の双璧~ 作:ラベンダーフェアリー
第2話をお読みいただき、ありがとうございます!
ドクター(殻木球大)の手によって裏社会への売却を宣告され、夜の暴風雨へと飛び出した4歳の忍。
今回の第3話では、北からの追っ手を撒き、自身の身体が引かれるままに「南」へ向かう、泥濡れの過酷な放浪行が描かれます。
飢えと疲労に苛まれ、満身創痍の限界を迎えた忍。三重県の田舎道でついに力尽き、ヴィランの回収班に追いつかれたその瞬間――。
現代のヒーロー社会から完全に隔絶された、圧倒的な『理』を持つ、あの「生ける天災」が姿を現します。
怪物の雛が最強の師を呼び覚ます、運命の弟子入り。どうぞ最後までお楽しみください!
追伸:投降遅れてすいませんでした
「明晩、しかるべき回収班を送ろう。個性を根こそぎ奪い、肉体は脳無のベースとして骨の髄まで使い潰す……」
院長室のドアの隙間から漏れ聞こえた殻木球大のその言葉は、俺の頭脳へ鋭い冷水を浴びせるに十分だった。
自室へと音もなく戻った俺は、歯を硬く噛み締め、周囲に浮かぶ手のひらサイズのミニチュア――省エネモードのアサギたち――を見つめた。
「……聞いた通りだ。あの
小さな、しかし重厚な低音の混じる声で事実を告げると、黒髪のポニーテールを揺らすアサギのミニチュアが、毅然とした表情で頷いた。
「猶予はないわね、忍くん。個性を奪われ、実験体にされて死ぬのを待つくらいなら、今すぐここを出ましょう。私たちの本来の力はまだ顕現できないけれど……あなたの『盾』になる覚悟はできているわ」
「ああ、同感だ。あの顔無しの男に、お前たちの力を渡してなるものか。……今夜、この
外は激しい暴風雨。大人たちの油断、そして深夜の嵐という完璧な隠れ蓑を利用し、俺は前世のヒロアカグッズだけをボロリュックに詰めると、雨風が吹き荒れる窓の外へとその小さな身体を躍らせた。
4歳の対魔 忍の、生き残るための反逆がここから始まった。
施設からの脱出を果たした俺は、ただひたすらに走り続けた。
明確な目的地などない。
ただ、前世の地理の記憶か、あるいは範馬の血のなせる本能か、俺の身体は北からの追っ手を引き離すように、ただただ「南」へ、南へと向かってひた走っていた。
「……まだ、安心はできない……ッッ」
道中、公的な交通機関は一切使えない。戸籍を持たない4歳児が一人で切符を買えば、その瞬間に公安や殻木のネットワークに引っかかる。
俺は昼間は鬱蒼とした雑木林や高速道路の高架下に身を潜め、本能的な『気配遮断』を擦り切れるほど使いながら、夜の闇に紛れて国道沿いを歩き続けた。
喉が渇けば泥水をすすり、飢えは雑草を噛みちぎって凌ぐ。
まだ4歳の幼児の肉体だ。
足の裏は破れ、爪は剥がれ、全身は泥と血に塗れていく。
アサギたちも省エネモードのまま、必死に俺の周囲を浮遊し、視界の悪い夜道の索敵をサポートしてくれていた。
そうして、何日、あるいは何週間が経っただろうか。
不眠不休に近い過酷な隠密行軍の果てに、俺の足はようやく、中部地方の端――三重県の土を踏んでいた。
視界を覆うのは、果てしなく続くのどかな田舎道。
だが、俺の限界はとうに越えていた。
範馬の強靭な骨格をもってしても、栄養失調と疲労困責には抗えない。
ガクガクと膝が震え、視界が歪む。
「……ここまで、か……ッッ」
泥の浮いた未舗装の田舎道に、俺はバタリと前のめりに倒れ込んだ。
指一本動かす力すら残っていない。
最悪なことに、背後から無機質な革靴の足音が近づいてくるのが聞こえた。
殻木の放った回収班――プロの裏稼業のヴィランたちだ。
「おい、見つけたぞ。こんなところまで逃げやがって……クソガキが。ドクターの言う通り、化け物じみたスタミナだな」
「おいおい、死んでねえだろうな? 商品価値が下がったら元も子もねえぞ」
下卑た笑い声を上げながら、男たちが俺の髪を掴み上げようと手を伸ばす。
身動きの取れないアサギたちが、実体化の反動を覚悟で前に出ようとした、その瞬間だった。
――風が、止まった。
否、空気が一瞬にして「凍りついた」のだ。
男たちの背後から、不気味なほどの静寂と共に、地を這うような重低音の声が響いた。
「……我が領地に無断で入り込み、得体の知れぬ泥棒猫が、何をしておる……」
振り返った男たちの目が、驚愕に引き攣る。
そこに立っていたのは、現代のヒーロー社会の枠にはおよそ収まらない、身長210センチを超える規格外の老侍だった。
着物を纏うその背中から放たれるのは、個性を超えた『天災』そのものの圧倒的な武人の覇気。
……前世の記憶が警報を鳴らす。
墓守のウェザエモン。
その生ける神話が、今、俺の目の前に現れたのだ。
口数が少なく、全身から発せられるのは、個性の枠を超えた「天災」そのものの圧倒的な武人の威圧感。
「あぁ!? なんだこのジジイ、邪魔するな――」
ヴィランの一人が個性を発動しようとした、その刹那。
侍の腰に携えられた大太刀の鯉口が、わずかに切られた。
『断風』
抜刀から斬撃が通り過ぎるまで、僅か0.016秒。
音すら置き去りにした神速の居合い。
飛ばされた真空の斬撃が、ヴィランたちの足元の地面を深々と両断し、その凄まじい衝撃波だけで男たちは血を吐いて消し飛んだ。
個性を発動する隙すら与えない、文字通りの一瞬での制圧。
男たちが白目を剥いて地面に転がる中、仁左衛門は静かに刀を鞘に収めると、210センチの巨躯を屈め、泥まみれで倒れる俺をじっと見下ろした。
その威風堂々たる姿、因果律を無視した圧倒的な武の理。
薄れゆく意識の中で、俺の直感が叫んでいた。
この男こそが、前世の知識にあるあの最強の侍であり、俺がこの世界で生き残るための「唯一の答え」だと。
俺は最後の力を振り絞り、その白亜の侍を見上げて言い放った。
「……強、い……。俺を……貴方の、弟子にしてくれ……ッッ」
侍は物言わぬまま、ふむ、と短く鼻を鳴らすと、小さな俺の身体をその巨大な剛腕で軽々と抱え上げた。
こうして、国家からも悪の支配者からも恐れられた「天災」の傘下へと、怪物の雛は静かに導かれていくのだった。
力尽き倒れた俺を救ったのは、圧倒的な天災――天津気 仁左衛門。
そしてその傍らで微笑む、超天才発明家の妻・刹那だった。
「強くなりたいと言ったな。ならば、明日から地獄を見てもらう」
拡張空間の中で始まる、星霜の研鑽。
毎日、泥を舐め、血を吐きながら己の肉体を金剛石へと鍛え上げる日々。
そして9年の時が流れ、13歳になった俺を待っていたのは、師の全力を超えるための、神話規模の最終試練だった――!
次回、第4話!【星霜の研鑽、天晴を継ぐ怪物】
「……行くぞ、忍よ。我が……晴天大征にて…………潰え、絶えよ」
師の放つ絶対の即死奥義を、俺の生への執念とオリジナル技で真っ向からねじ伏せてみせる!