異能剣戟ダークファンタジーなエロゲ世界に生まれた者、バッドエンドで妖怪に穢され闇堕ちしたヒロインの生きる希望となり最強の特級剣士として在り続ける 作:三流木青二斎
第二次世界大戦が終戦を迎え十七年目。
大日本帝国陸軍は権威を失い瓦解した。
その後、常盤国を守護する新たな組織が設立。
政府組織〈大国主〉、その管轄下にあるのが祅霊討伐、及び、刀を扱い犯罪を行う妖刀師の取締りを行う抜刀官が担当する。
そして、抜刀官の総本山である帝都・石動京にある対妖局は権威を示す様に国土最大級の対妖局本部〈武御雷〉が建立されていた。
寄宿舎には約六百名の抜刀官が配属され、祅霊の被害や妖刀師の情報が入ると現地へ赴任される仕組みとなっていた。
「す、ぅ……」
銀嶺白乃は奈流芳一以の部屋で静かに寝息を立てている。
昨夜は肉体に流れる呪いを鎮める為に奈流芳一以を求め続けた。
幾度も絶頂と快楽を経験した後に糸が切れた人形の様に熟睡している。
「はぁ……」
奈流芳一以は嫌悪感と罪悪感に苛まれる。
「好きでも無い男に抱かれるのは屈辱だろうな」
彼女の気持ちを反映させる奈流芳一以、あくまでも、彼女の隣に立ち続けただけの男である。
彼女の中に好意は無く、他の男に乱れた様を見られたくないから、恥を見せた奈流芳一以を使い続けているだけの話。
こうして彼女を抱く事は、興奮はしても、後に後悔が遺る。
「何時までも……こんな関係じゃダメだよな」
身体だけの関係など穢れに満ちている。
それを口にすれば、身体だけの関係ですら崩れてしまう。
そう思うだけで、奈流芳一以は容易に言葉に出せなかった。
「……はぁ」
胃痛を感じながら、奈流芳一以は布団から這い出る。
彼女の幼さを感じる寝顔を見据えながら名残り惜しそうに離れた。
身を浄めた後。
全裸から制服に着替えた奈流芳一以は寄宿舎を出る。
彼が向かう先は対妖局本部〈武御雷〉の第十三課である。
特殊な任務を担当する第十三課だが、抜刀官の減少により祅霊討伐に駆り出される事が実質的な任務であった。
「失礼します」
第十三課へと顔を出す奈流芳一以。
「……報告が遅れているぞ、奈流芳一以抜刀官」
第十三課の部署へと足を踏み入れると共に冷酷な声が聞こえて来る。
その声に対して奈流芳一以は頭を下げた。
「申し訳ありません紀将隊長」
紀将武虎。
四十代前半、頭部は丸刈りであり、丸眼鏡を着用している。
抜刀官の制服を着込んでいるが、その肉体は鍛錬を積んでいる為か、雰囲気と相まって一目見た時に硬い印象を受ける。
(ああ……紀将隊長、今日もお早いなぁ)
隊長と言う立場故に、他の誰よりも偉い存在だ。
だが、その立場を笠にせず仕事に徹底している様は厳格故に理想的な上司とも言えよう。
「報告書は、すぐに作成します」
奈流芳一以は早々と報告書の作成を急ぐのだが。
紀将武虎は資料に目を落とした状態で静止の声を掛ける。
「いや、それは後で良い」
珍しいと思った奈流芳一以は振り返ろうとした足を止めた。
そして紀将武虎に視線を改めた向けた後に、紀将武虎の目が奈流芳一以を一瞥した。
「奈流芳特級抜刀官」
その言葉を受けて、奈流芳一以は姿勢を正した。
彼から告げる言葉は、これから仕事に関する内容である。
だが、此処まで畏まる事は滅多に無い為に、緊張が走りつつあった。
「貴様は―――封魔刀を知っているな?」
封魔刀。
名前を聞き奈流芳一以は静かに頷く。
その名前を知らぬわけが無かった。
奈流芳一以は内心、紀将武虎の心中を探る。
(封魔刀、何故、今、此処で名前が出るんだ?)
暫く考えた後に、奈流芳一以は口を開く。
封魔刀と言う道具の情報は知識と体験として頭に入っている。
「……
抜刀官に支給される斬神を宿す刀は祅霊を斃した時に呪詛が刀身に宿る。
膨大に蓄積された呪詛を抜刀官の熱……闘猛火で燃焼を行う事で斬神を顕現させる。
それが炎命炉刃金の、斬神の原理であるのだが。
「左様だ、炎命炉刃金は祅霊の残骸を火種に斬神を熾すが、封魔刀は祅霊そのものを封じ込めた祭祀刀の役割を持つ」
祅霊を刀身に封じ込める事で強制的な調伏を行い祅霊の力を扱う事が可能となる。
だが、あまりにも強い力を宿す祅霊は制御が難しく、実戦では扱われずに辺境の地や魔除けとして祀り上げられていた。
「現在では封魔刀の所持は禁じられている、廃刀令に伴い約八割の封魔刀は回収する事が出来たが、残りの二割は所在が不明、回収する事が出来なくなっている」
本来ならば刀剣類は政府が登録を行い管理していたのだが、第二次世界大戦時の影響で登録を記録していた文書が焼却されてしまい、管理が出来ぬ状態であった。
「が、数日前に書庫の整理を行っていた時、封魔刀の所在が記された〈
焼却された筈の文書が見つかった、その事に奈流芳一以は心の内で首を傾げる。
だが、奈流芳一以の疑問を、早々と紀将武虎は答えてくれる。
「第二次世界大戦時、帝国陸軍が新たな戦力を求め、陸軍の管轄下であった武御雷に情報提供を行った、その際に重要な書類は写しを綴った後に模倣品を帝国陸軍に渡したらしく、帝国陸軍が解体される際に、全ての機密書類は焼却されたが、原本は対妖局の旧本部にある本棚に挟まっていたとの事だ、管理が杜撰な上に、間抜けな話だがな」
そう言えば、と奈流芳一以は旧本部が老朽化の末に建て壊す事に決定した話を思い出した。
(成程、必要なものを整理した時に発見した、と言う事か)
かなり重要な文書である為、発見した時の驚愕は計り知れないだろう。
「そして、今期より突発であるが〈封魔刀〉の蒐集が決定、第十三課が任務の担当に選ばれた為、今回から我々の任務は〈封魔刀〉の調査と蒐集を行う事になった、と言う訳だ」
淡々と説明を行う紀将武虎は机の引き出しから古びた文書を取り出した。
それが、数多くの封魔刀の所在が記された〈封魔剣聞録〉であると、奈流芳一以は即座に察する。
「この任務を奈流芳一以特級抜刀官を筆頭に進めて貰う、これは重要任務であり、第十三課では何よりも優先すべき使命だ」
〈封魔剣聞録〉を奈流芳一以に向けると、差し出された文書を彼は両手でしっかりと受け止める。
「諒解致しました、紀将隊長、奈流芳一以抜刀官が任務を引き受けます」
了承の旨を告げた後に、深く紀将武虎は頷いた。
「では、早々に進めたまえ、……その前に事後報告書の作成を忘れるなよ」
重々たる話だった為に、奈流芳一以は報告書の事などすっかり頭の中から抜けていた。