異能剣戟ダークファンタジーなエロゲ世界に生まれた者、バッドエンドで妖怪に穢され闇堕ちしたヒロインの生きる希望となり最強の特級剣士として在り続ける 作:三流木青二斎
「取り敢えずは近場の方から回収していこう」
奈流芳一以は〈封魔剣聞録〉を開帳し、内容を確認する。
所有者の名前、封魔刀の銘、それ以外にも住所と土地の名前が記されている。
奈流芳一以は頭を掻きながら本棚の方に視線を向ける。
視線を察した銀嶺白乃は本棚から地図帳を取り出した。
それを奈流芳一以に渡すと太腿の上に置き、住所を調べる。
「どこにするの?」
そう言いながら、さりげなく銀嶺白乃が奈流芳一以の隣に座る。
顔をずい、と近付けながら、封魔剣聞録と地図が見やすい位置に顔を向ける。
すると当然、奈流芳一以の顔面に近付く為に、思わず仰け反ってしまう。
「っ……お前の顔は心臓に悪い」
肉体関係を保つ二人だが、その動きは純情を秘める童貞の様な俊敏さだ。
当然、銀嶺白乃にとっては彼の動きは単に自身を拒絶しただけに過ぎない為に不機嫌な顔になる。
「私の事が其処まで嫌いなの?」
冷ややかな視線を向けられ、たじろぐ奈流芳一以は首を左右に振った。
「俺の言った言葉は、お前の顔が良すぎると言う意味だ、誰だって神や仏が目の前に現れれば驚くのは当然だろう」
その言葉は奈流芳一以なりの褒めの言葉であった。
陶器の様に滑らかな肌、雪の様に銀色に輝く細い髪、細い針を乗せる事が出来る程に長い睫毛。
冬の妖精と呼ばれても納得出来る美貌の持ち主だ。
「……そう、死人みたいな肌って言いたいんだ、気にしている事、言うんだ」
神や仏と言う言葉の綾。
銀嶺白乃は死人の様な蒼褪めた肌に対して劣等感を抱く。
物は言いようとは言うが、此処まで負の方面に対して働くのも中々無いだろう。
「だ、誰もそうとは言っていない、言うなればお前は雪の精霊の様で……」
更に誉め言葉を口にする奈流芳一以。
しかし、今の彼女にはどの様な言葉であろうとも逆の方に捉えられてしまう。
「屍の様に冷めているって言いたいんだ、雪女の様に冷たい女だと言いたいんでしょ?」
静謐な声色だが、沸々と怒りの感情が乗せられる。
無表情である彼女の表情も、ほんの少しだけ歪み出していた。
頬を膨らませて、銀嶺白乃は相手を貶す様に客観的事実を告げる。
「私の中は暖かいと、何度も言ってきた癖に」
布団の中で幾度も繰り返し摩擦を繰り返して来た夜伽を思い浮かべる。
瞬時、奈流芳一以は話を切り落すかの様に瞬時に〈封魔剣聞録〉の頁を捲り住所を調べ上げる。
僅か一秒にも満たぬ時間で、即座に奈流芳一以は近場に記された封魔刀を見つけた。
「良し、見つけたぞ、行くぞっ、銀嶺」
そう慌てる様に言いながら、奈流芳一以は立ち上がると共に封魔剣聞録を閉ざす。
そのまま部屋から出ようとする奈流芳一以の後姿に対して、銀嶺白乃は白々しいと言う視線を浮かべながら。
「初心」
決して罵る様な言葉では無い。
だが彼女が口にすれば、それすらも人を貶める罵倒になった。
封魔刀〈綺羅星隕鉄〉。
所有者は藤河勇次。
所在は帝都石動京より七里程離れた森林郊外、星見山。
調べによれば第二次世界大戦前までは封魔刀の特別刀剣類登録証を保有。
年に一度の点検と登録料を支払う事で魔除けとして所有していたらしい。
が、第二次世界大戦時より支払いが停止。
以降、登録料の支払いが滞っている。
奈流芳一以は封魔刀の所在を調べた後に更に追加し、刀剣類委員会にまで調べを行った後に分かった事である。
そのまま現地入りし身辺の調査と実際に所有者の自宅へと引き取りの交渉を行おうとしたのだが。
「はぁ……死亡しているのか」
近辺調査の時点で察していたが、親族がいるかどうか実際に自宅へ訪ねた所、既に家は取り壊されていた。
終戦末期に大量発生した祅霊に襲われた末に絶命したらしく、親族は遺産を相続したが土地は売却。
星見山も同様に売却されているのだが、未だに買い手が付かない。
「瘴気が深い……買う人、居ないんじゃないの」
銀嶺白乃が山奥を見据えながら呟いた。
聞く所によれば、星見山の中から祅霊の目撃情報が多数あり、それが悪評となって買い手がいないとの事だ。
面倒な事に、この十年の間親族は真面に山に入らず、封魔刀の存在すら知らなかったとの事で大量の瘴気は祅霊を引き寄せている可能性があった。
「普通、、祅霊が寄って来ると知ったら封魔刀を野放しなんて出来ないけど」
杜撰な管理に関して銀嶺白乃は不満げに呟く。
伸びた草木によって見難いが山道を発見し、其処から山に入る二人。
「きちんと管理をしていれば、祅霊すら近寄らないんだよ」
封魔刀の役割は魔を封じる事。
丁寧に管理を行えば封魔刀から発生する瘴気は人体には無害となり、逆に他の祅霊を寄せ付けない死骸臭を放ち、周囲一帯から祅霊を寄せ付けない様になっている。
「それでも、遅かれ早かれ、と言う奴だ……封魔刀を管理出来るのは極少数だからね」
奈流芳一以は物思いに耽る様に告げる。
「封魔刀は元々は鞘守一族と呼ばれる人間が鍛錬した武器なんだ、封魔刀の修繕や管理は一子相伝で門外不出、技術や知識が波及されていないのも仕方が無い」
その物言いに対して銀嶺白乃は山道を歩きながら、疑問に思った事を口にした。
「その言い方だと、管理出来る者が居ない、って事にならない?」
単純な疑問に、奈流芳一以は頷きと共に答える。
「第二次世界大戦時、焼夷弾が村落に落ちたらしい、それが切欠で殆どの鞘守一族は灼け死んだ、だから……封魔刀を管理出来る者が居ないんだよ」
悲惨な光景を想像する奈流芳一以。
暴力が嫌いな彼にとっては苦々しく、思わず歯軋りをしてしまう様な悲惨さを思い描いた。
「は、ぁぁ……」
道を上がる度に息を吐く奈流芳一以。
大して銀嶺白乃は呼吸を乱れず真っ直ぐに進み続ける。
「……ぅ」
そんな最中。
暫く山道を歩いた所で異様な雰囲気を抱く銀嶺白乃。
険しい顔をすると共に腰元に携える刀に手を掛ける。
「気持ち悪い程に瘴気が濃い……来る」
銀嶺白乃の言葉の通りに草木が揺れ動くと。
渇いた音と主に出現する、白き生命体の姿を目視する。
「祅霊か」
奈流芳一以は呟くと共に周囲に視線を促す。
一体だけではない、無数の祅霊が彼らを囲っていたのだ。
(瘴気は祅霊を産む、封魔刀から漏れた瘴気で祅霊が発生しているんだ)
奈流芳一以はある程度の分析を済ませた後に敵を見据えた。
祅霊は白骨化した骸に近しい姿である、頭部は馬の様な面をしている。
名称を付けるのならば、馬骨鬼……と言った所だろうか。
「銀嶺」
奈流芳一以が彼女の名前を告げたと同時。
「すぅ……」
銀嶺白乃は静かに酸素を体内へ取り込む。
取り込まれた酸素は体内にある炎子炉に供給され燃焼。
発生する産廃のガスを口から吐く様は紫煙を吹かすかの如く。
体内に流れ出す膨大な熱源……闘猛火は彼女の体質により電気の性質を帯びた力となり全身に駆け巡る。
「雷光刹火」
銀嶺家の人間のみが使役出来る特殊な身体能力の向上。
表皮に迸る紫電の束が弾けながら、彼女は地面を強く蹴り疾走を始める。
彼女の活動が戦闘の合図であった。
「ぐおッ」
声を荒げながら馬骨鬼が腕を持ち上げる。
黒い鋼の板を荒く削った様な刀が奈流芳一以に振るわれる。
「炉心躰火」
奈流芳一以も彼女と同様に体内に闘猛火を循環。
口から灰色の煙を吐き皮膚から湯気が立ち込める。
自身の身体能力を上昇させると共に接近する馬骨鬼に標的を定める。
「試刀流斬術戦法"陸式"―――」
生成される闘猛火を柄に握る刀に流し込み熱を蓄える。
納刀時、密封された刀身は膨大な熱量が蓄積され、爆発に備える。
親指で鍔を弾くと共に、刀身に蓄積された闘猛火が火薬の如く発破。
爆破の威力を操作しながら、発散される炎に方向性を持たす事で推進力を獲得。
「〈鞘辷〉」
抜刀した瞬間、高速で抜き放たれる斬撃が、馬骨鬼の攻撃よりも早くその骨身を切り裂いた。
「ふ、はぁ」
息を吐く奈流芳一以。
紫煙の如く周囲に散る煙の糸。
抜刀した状態で構えながら、他の馬骨鬼に顔を向けながら炎命炉刃金を構える。
(試刀流斬術戦法は十通りの型を持つ斬術)
此方に構える馬骨鬼が幾つの型を披露させる事が出来るか。
そう考えながら、奈流芳一以は刀を構えるのだった。