※この作品はR-18です。

暴虎は外界を馮る   作:義山硝子

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断章 「静間虎徹という男」

 

はい、なんでしょう

旦那様について、ですか?

 

……えっと、いろいろありますけど、

一言で言うと「狡い人」だと思います。

あれだけ強くて逞しいのに、ちょっと子供みたいなところもあって、可愛らしくて。

 

……本当に狡い人。

 

えっ、それも言わないとダメなんですか!?

ええと、あっちの方も……その……とってもすごくて、男らしくって……

 

もうっ!この話はおしまいです!

 

とにかく、いろんな意味で私に悦びを教えてくれています。

 

はい、もちろん愛してます。

龍一さんの事は今でも悲しいですけど、

旦那様が私たちを救ってくださって本当によかった。

 

お側にいられるだけで、私は幸せです。

 

 

 ◆◆◆

 

 

叔父についてですか?

そうですね、普通の人だと思います。

 

ええ、皆さんは違うと考えているようですけど。

 

例えば、何かとても酷い環境に置かれた時、

大抵の人は簡単に、その"普通"を捨てるんですよ。

"良識"と言い換えても良いかも知れませんね。

普段なら自分自身が眉を顰めて非難していたような行為も、平気でやってのけるようになります。

 

叔父は、その"普通"を捨てられない人なんです。

 

はい、たまに言われます。

ただ、私は生来こうですけど、叔父は生きていくうえで

合理を纏うしかなかったんじゃないですかね。

似てますけど、やっぱり違うと思います。

 

他人の命も自分の命も埃みたいな軽さの世界で生きていて、それでも他人に優しくできる。

 

呆れてしまうくらい、叔父は"普通"の人ですよ。

 

ええ、好きですよ。

どの"好き"かは、ご想像にお任せします。

 

 

 ◆◆◆

 

 

おじさまのこと?

うん、なんでも聞いて!

おじさまはね、すごいんだよ

わるい人に連れてかれたママとお姉ちゃんを助けてくれたし

お城みたいなおうちにすめるようにしてくれたの!

おじさまじゃなくて、おうじさまだね!

 

ん?おじさまのダメなとこ?

うーん、時々ママにおこってるとこかな?

 

ううん、どうしておこられてるかは知らないよ?

たまに夜に目がさめて、おじさまの部屋のちかくを通ると、中からママの泣いてる声がするの

 

そうなの?でも「ゆるして」って言ってたよ

なにか悪いことしたんじゃないの?

 

そうなんだ、よかった!

そういえばママ、おこられてたのに次の日は朝からうれしそうだったもんね!

 

でもお姉ちゃんはちょっとだけ、むーってしてたけどなんでだろ?

 

これからもずっと、おじさまといっしょにいられるといいな!

 

 

 ◆◆◆

 

 

えっ!?静間さんの事ですか?

 

うーん、そうですね。

一言で表すなら"やせ我慢してる人"ですかね。

痛そうだったり、辛そうだったりしてても絶対にそう言わないんですよ。

この前なんて右腕に大怪我したばかりなのに、私の前では何でもないように振舞ってましたからね。

 

周りに気を使ってるっていうよりも、 人に弱音や本音を見せるのが恥ずかしい事だと思ってそうです。

だから本当は人に優しいのに、すごくわかりづらいんですよね。

 

ベッドだと優しくありませんけど。

……あっ、今の無しで!!

 

えっと、私も最初は怖い人だなって思ってましたけど。

話してくうちに、そうじゃないって分かってきました。

 

私、ちゃんと人は見てますよ。

これでも営業なので!

成績はダメダメですけどね……。

 

ああ、静間さん。逢いたいな……。

 

 

 ◆◆◆

 

 

なんだよ。あ?静間について?

 

そうだな、俺は戦友だと思ってる。

まあ、外界で一緒に戦った訳じゃないんだがな。

 

向こうがどう思ってるかなんて知らねえよ。

恩義もあるし、貸しもあるが、お互い明日死ぬかも知れない身でいちいち気にする方が阿呆らしい。

 

え?まあ、そこ聞くよな。

そうだな……これでも俺は、この国で一番実戦に近かった場所にいた事があってな。

だから、なんとなく分かる。

 

はっきり言えば、戦闘技術も生存技術もあいつより優れた人間はいる。技術はな。

あいつにあるのは多分、最悪の状況で最善を掴む力。

もっと言えば“何があっても目的を遂行する能力”ってやつだ。

ややこしい言い方になったが、要はやるべき事をやるべき時にやりきれる、って事だな。

 

簡単だろ。言うだけならな。

 

外界なんて、銃弾が飛び交う戦場みたいなもんでな。

多少ガタイが人より大きかろうが、射撃が上手かろうが、そんなモン生き残るには関係ないんだよ。

あいつは、地獄に落ちても生き延びる力がおそらくこの国の誰よりも優れている。

 

まあ、あくまで俺の考えだけどな。

 

 

 ◆◆◆

 

 

申し訳ないが施設長の立場、および国に仕える身として、個人への所感は差し控えさせていただく。

彼の活動履歴を確認したければ、規定に沿って申請を行うように。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

静間くんですか?ええ、よく存じてますよ。

 

世の外に出でて、十年ひと昔を過ごしてるのは私と彼だけですからね。

 

見たところ、彼も私と同質の業を背負っています。

もっとも、方向性は真逆ですがね。

 

私は獣を(ころ)すことにしか関心が持てず、彼はあちらで生き延びることに純化した。

 

お互い敬意は持っていますよ。

彼もそう思っているでしょう。

 

お互い理解はできなさそうですね。

彼もそう思っているでしょう。

 

願わくば彼の人生にも、何らかの赦しがありますように。

 

 

 

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