の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
自傷行為を肯定・助長する意図はありませんのでご安心ください。
前半と後半にはありませんが、心の準備をお願いします。
7月12日午前2時30分
拝郷さんと風雅さんが、ようやくゆうちゃんの家の前に辿り着いた。
2人とも、不自然に停められていた藍斗の純白のSUVを見て怯えていた。
「やっぱり……!あいつ……漆黒のSUVだけじゃなく、純白のSUVも持っていたのか……。どっちも20億円する超高級車なのに……!」
風雅さんは、純白のSUVにやや羨望の眼差しを向けていた。
「あいつ……いくら私たちの目を欺くためとはいえ、そんな馬鹿なこと普通しないわよ……」
それに対し、拝郷さんは、藍斗の極悪非道な偽装工作に呆れ果てていた。
とはいえ、ゆうちゃんの家に入らなくては何も始まらない。
純白のSUVから数m離れたところに停められていた涼介さんの白い軽自動車には目もくれず、拝郷さんと風雅さんは『特急案件』と言いたげな足取りでゆうちゃんの部屋へと向かおうとした。
だが、完全に取り乱した涼介さんの姿に足を止められてしまったのだ。
「僕は淘汰されるべき怪物なんだ!滅びるべきは僕だ!神様!タイムマシンを僕にください!」
涼介さんは、カサブランカの花束に向かって絶対に叶わない願い事をした。
藤田さん、浅川さん、そして下田さんたちは、4人がかりで涼介さんを押さえつけた。
だが、4人の力も虚しく、涼介さんはとうとうゆうちゃんの部屋へと走っていってしまった。
「ちょっと!待ちなさい!止まりなさい!」
6人の大声は、涼介さんにはもう届かなかった。
午前2時35分
「はぁ、はぁ……」
息を切らした涼介さんは、ゆうちゃんの部屋の鍵を閉めた。
椅子か何かでドアを塞ごうと考えたが、汚れた死体と悲惨な遺体がそれを許してくれない。
「あああ……。副店長……本当に……本当にすみませんでした……」
涼介さんは、ゆうちゃんのお母さんの遺体に向かって謝った。
さらに、藍斗の死体に蹴りを入れ、ゆうちゃんのお母さんの遺体にカサブランカの花束をそっと持たせた。
涼介さんは、ゆうちゃんのお母さんの心臓から包丁をゆっくりと抜いた。
ドンドン!ドンドン!
拝郷さん、風雅さん、浅川さん、藤田さん、そして下田さんたちがドアをノックする音など気にも留めず……
「醜い怪物め……!桃松さん、副店長、蒼森さんを傷つけるなんて許せない!」
悲しみ、怒り、憎しみ、そして絶望。涼介さんは、これらの感情に支配され、希望を完全に失ってしまった。
そして、世界一大嫌いな男の胸元に何度も何度も包丁を突き刺した。
床やベッドがどんなに真っ赤に染まろうと、涼介さんにはこれっぽっちも関係なかった。
強行突破した拝郷さん、風雅さん、浅川さん、藤田さん、そして下田さんたちに身体を強く押さえつけられても、包丁を振り回して必死に抵抗し続けたのだ。
「ああああああああああああああ!!!」
誰も理性を失った涼介さんを止めることはできなかった。
「許せない……許せ……ない……」
やや疲れきった涼介さんは、胸元だけでは飽き足らず、とうとう首元にも包丁を突き刺してしまった。
「地獄……に……落ち……ろ……」
それが最期の言葉だった。
一方その頃、美由利さんと孝行さんの自宅では……
「眠れないの……」
ベッドの上にいた美由利さんは、涙目で孝行さんに抱きついた。だが、どうしても指先が小刻みに震えてしまうのだ。
「分かるよ……」
それしか言えない孝行さんは、美由利さんの背中をゆっくりと撫でた。孝行さんの目も同じように涙で濡れていたのだ。
寝室の壁には、ゆうちゃんが8年前に描いた絵が飾られていた。
左から順に、裕香さん、百乃さん、ゆうちゃん、みうさん、美由利さんがニコニコしながら手を繋いでいる絵だ。
裕香さんは赤ずきん、百乃さんは白雪姫、ゆうちゃんはシンデレラ、みうさんは人魚姫、美由利さんはアリス。それぞれが1番好きな童話の衣装を着ていた。
だが、この可愛い絵さえも、美由利さんと孝行さんの心を抉ってしまうのだ。
「ゆうちゃん……。根ノ江駅のランチ楽しみだっただろうな……」
その時だった。
プルルルルル
「あ、みうちゃんからだ……。もしもし……?」
「美由利ちゃん、Aの新曲聞いた?裕香ちゃんと百乃ちゃんが教えてくれたんだけど……」
「まだ……」
「そっか。私ね、Aのおかげでゆうちゃんの分まで生きようって思えたんだ」
「そうなんだ……。あ、孝行と一緒に選んだ靴、ゆうちゃん気に入ってくれたかな……」
「え、そうだったの?ありがとう……!ゆうちゃん絶対喜んでるよ」
「こちらこそありがとう。みうちゃんが電話してくれたから楽になれたよ……。あ、新曲聞きたいから切るね」
みうさんからの電話を切った美由利さんは、孝行さんの隣に座り、早速Star MovieでAの新曲を再生した。