の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午前9時30分
潤んだ目の黄ノ山さんは、今日も茜ちゃんをベビーカーに乗せていた。
「桃松さんにもう会えないのは嫌……。ああ……青山さんも可哀想だな……」
黄ノ山さんは涙を堪えながらおひさまモールに入った。
今までだったら、最初に茜ちゃんをおひさま託児所に預けるのだが、そんな気にはなれなかったのだ。
「バブー♪」
茜ちゃんはいつもと全く変わらなかった。
「あはは……今日はママと一緒にお買い物に行くんだよ……」
黄ノ山さんはおひさまスーパーに立ち寄った。
日曜日だからか、野菜コーナーには朝からたくさんのお客さんがいた。さらに、今日は夏野菜が全品2割引になる日なのだ。
「……っ!泣いてたら売り切れちゃう。買わなきゃ……」
緑のカゴを手に持った黄ノ山さんは、キュウリとミニトマトがある売り場へと向かった。
その時、新鮮な野菜に目を輝かせている他のお客さんとは全く違った表情をしていたのだ。
「そういえば桃松さん、キュウリとミニトマト一生懸命品出ししてたな……。いつだったっけ?もしかしたら、青山さんも同じことしてたのかな……」
一方その頃、めるへん♡らんどでは……
レジ裏のバックヤードにいた彩音さんは、やや疲れきった表情でマネキンの服選びをしていた。
「はぁ……これ難しいな……。ゆうちゃんみたいになるピンク系は全滅したうえに、根ノ江南高校の制服っぽいものもないしな……」
乙女のセーラーワンピシリーズ 水色、夢見るシンデレラのための水色のフリフリワンピース、そして、王子様のハートを射止めるサックスのフリフリジャンスカ。
彩音さんは、溜息をつきながらこの3つを何度も見比べていた。
今日の最高気温は37度とかなり高い。それゆえ、涼しげな水色系なら確実に売れると予想したのだ。
「セーラーワンピの色違いなら確実に売れ……あ、でもちょっとありきたりすぎるかな?だったら、メルヘン全開なものがいいか、ちょっと透け感あるものがいいか……」
彩音さんは、口ではそう言っていたのだが、心の底ではなりきり桃松ゆうちゃんに嫌悪感を抱いていた。
午前9時45分
「これにしよう……。ブラウスと靴はやっぱりこれだね。あ、そろそろイメチェンさせてあげないと可哀想だよね……」
王子様のハートを射止めるサックスのフリフリジャンスカ、白い丸襟が付いた白のフリルブラウス、そして、リボン付きのサックスのサンダル。
彩音さんは、ゆうちゃんにそっくりだったマネキンを、猛暑日にぴったりな可愛いコーデに変えた。
さらに、ゆうちゃんそっくりな黒髪ツインテールを、涼しげな黒髪ショートボブにしたのだ。
一方その頃、おひさまファッションビルでは……
Hinomaru Dreamのスペシャルシャインマスカットパフェ……2万円は高すぎて手が出ないよ〜!
おっとここで緊急速報が入りました!
桃松ゆうさんの自宅で死亡が確認された日ノ松藍斗容疑者は、大人気歌い手Aと同一人物であることが分かりました!
また、ゆうさんの母親である桃松ゆりさんの遺体のそばで亡くなっていた20代くらいの男性。
彼が、ゆりさんの部下の伊東涼介さんであることも新たに分かりました!
本当に悲しいですね、どうしてこうなったんでしょう……
警察は詳しい経緯を慎重に調べていて、容疑者死亡のまま書類送検する方針です。
A、桃松ゆりさん、伊東涼介さんのご冥福をお祈りします……
電光掲示板は、『不幸なお知らせ』を容赦なく映し出した。
「そんな……え……」
「嘘……だ……ろ……!」
黒田さんと緑ヶ丘さんは、もはや泣くこともできず、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
電光掲示板の前には、黒田さんと緑ヶ丘さんの他に、平日の何十倍もの人たちが集まっていた。
だが、大勢の人たちは、Aの死を心から悲しみ、ゆうちゃんの死を心の底から喜んでいたのだ。
午前10時
赤森さんは、おひさまファッションビルの開店と同時に、おにぎりアイランドへと向かった。
「彩音……昨日、俺のそばにいてくれたからな。サプライズで何か買おう」