の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午前11時
赤森さんはまだレジに向かえずにいた。
まあ、その理由は、偶然会った真理子さんと雑談していたからだが。
「今日はピンクセーラーの女の子が全然いないな……と思ったら、犯人がAって分かったからなんだよね……。辛い……」
真理子さんは目に涙を浮かべていた。
「え!そんな……。ファンだったのに……!」
敬語を忘れてしまった赤森さんは、ハンカチではなく、手に取った昆布おにぎりで涙を拭いた。
「分かるよ……。Aの歌が嫌いな人なんかいなかったもん……」
真理子さんは、自分のハンカチで赤森さんの涙を拭いた。
その藍色のハンカチには、綺麗なニチニチソウの刺繍が施されていた。
真理子さんの優しさに救われた赤森さんは、昆布おにぎりとツナマヨおにぎりを1つずつカゴに入れた。
「あ、それ交換しとくね」
なんとか涙を堪えた真理子さんは、赤森さんのカゴに入った昆布おにぎりを、売り場にあったものに替えた。
「ありがとうございます……!」
お礼を言った赤森さんは、明太エビマヨおにぎりと梅おにぎりを1つずつ追加し、レジへと向かった。
一方その頃、みうさんの自宅では……
みうさんと大輝さんは、久しぶりにおうちデートをしていた。
あえてテレビと例のSNSを見ないようにしていた2人は、みうさんの部屋でAの新曲をまた聞こうとしたが……
「どういうこと……?え……?」
「俺たちの希望の星じゃねえのかよ……!」
コメント欄には、
ゆうちゃんを食べたのがA……?ショックで寝込みます……
え、これ追悼曲ですよね?どういうことですか?
これが最後の曲なのも悲しいけど、Aが犯罪者だったのはもっと悲しい
などといったまともなコメントもちらほらあったが、
A様可哀想……ゆうちゃんさえいなければ!
ゆうちゃんA様に感謝しろよな!垢抜けない顔してんのにA様においしく食べられたんだからな!
ゆうちゃんは桃色の天使じゃなくて、桃色の悪魔だったの草www
などといった本当に最悪なコメントの方がずっと多かったのだ。
「ちょっと待って……」
何もかもに耐えられなくなったみうさんは、大輝さんの胸に飛び込んだ。
大輝さんの赤い半袖Tシャツは、ぐっしょりと濡れてしまった。汗のせいではないのは言うまでもない。
「俺も信じたくねえよ!Aがあのクソ野郎と同一人物だったなんて……」
何もかもに耐えられなくなった大輝さんは、みうさんの青いルームワンピの胸元に小さな水溜まりを作ってしまった。
結婚式の会場をどこにしようか相談する余裕すらなくなってしまうほどに……
一方その頃、アイスクリームワールドでは……
美由利さんは今日も働いていた。
おやつの時間はまだ先なのだが、最高気温が37度で、さらに日曜日なのもあり、たくさんのお客さんが来ていたのだ。
「あああ……やっぱり忙しい……」
美由利さんの心と身体は悲鳴をあげていた。個人店の宿命ともいえるだろう。
「あ、バニラアイスとチョコアイスのダブルですね。かしこまりました……」
午前11時30分
お客さんはさらに増えていった。
美由利さんは、2年前にゆうちゃんがくれたうさぎのタオルハンカチで汗を拭き、接客モードに切り替えた。
「いらっしゃいませ〜」
そして、アイスの売れ方が昨日までと全然違うことに気づいてしまった。
「あれ?もう2時間半も営業してるのに、なんで誰もストロベリーアイス頼んでないのかな……?」
美由利さんは小声でそう呟いた。
「そういえば、ゆうちゃんにそっくりな格好の女の子も全然いない……」
時間を確認するフリをしてスマホを見ようとしたが、この忙しさではできなかったのだ。
その時、京子さん、桃香さん、秋奈さんがアイスを食べに来た。
3人とも、一昨日の午後4時におひさまファッションビルの黄色のベンチに座って笑顔で自撮りや加工を楽しんでいたのだ。
「桃香……。ゆうちゃんを食べた犯人がAなのがまだ信じられない……」
「分かるよ、京子も昨日新曲聞いてたもんね。秋奈もメンタル大丈夫?」
「ぶっちゃけ辛い……。これからゆうちゃんにどんな顔したらいいの……?と、とりあえず暑いしアイス食べまくって忘れよ……」
3人ともあの時の行動を悔やんでいた。
同窓会の日に着ていたピンクのセーラーワンピ姿ではなかったのは、もはや説明するまでもない。