の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後1時10分
翔子さんとみなみさんは、スマホを見ながら星のハンバーグランチが届くのを待っていた。
自分の子供の写真や動画を見ればいいものの、どうしても例のSNS関連の情報ばかり目で追ってしまうのだ。
「みなみ、大丈夫?」
翔子さんはみなみさんの顔をじっと見つめた。
みなみさん側のテーブルクロスには、いくつもの小さな水溜まりができていた。
「しんどい……」
みなみさんはスマホを持った手を小刻みに震わせていた。
画面に映っていたのは、
ゆうちゃんさえいなければ、Aが日の丸の国史上最悪の犯罪者になって死なずに済んだのに!
というSNSの投稿だった。
「そんな……Aの歌がもうこれ以上聞けなくなって悲しいのは分かるけど……。でも、こんなのあんまりだよ……!」
翔子さん側のテーブルクロスも、だんだん小さな水溜まりが増え始めたのだ。
一方その頃、レストランハッピーでは……
「お待たせしました!冷製トマトパスタです!」
汗だくの夏美さんは、精一杯の作り笑顔で接客していた。
日曜日のこの時間は、どうしても忙しくなるのはもはや説明するまでもない。
さらに、今日は冷たいメニューが異常に売れているのも原因の1つだったのだ。
「ああ……泣きたい……」
ピーンポーン
「あ、はーい……」
夏美さんは、今にも倒れそうな身体で次の注文を取りに向かった。
「お客様、お待たせ……あれ?沙也加、真由美と一緒じゃないの?」
夏美さんの目の前にいた沙也加さんは、メニュー表を潤んだ目で見つめていた。
「真由美?……藍斗がAだったから、ショックで寝込んでるんじゃないかな……?それに、伊東くんもゆうちゃんのお母さんも死んじゃったし……!桃色の天使……私も神曲だと思ってたから悲しいよ……」
その時、夏美さんの手が小刻みに震え始めた。
「嘘……嘘だ……!」
夏美さんは、注文を取ることを忘れてハンディを床に落とし、パタリと倒れてしまった。
「夏美!夏美?!あ、あああああああ!!!」
沙也加さんは、夏美さんの背中や肩をメニュー表で何度も叩いた。
だが、夏美さんは完全に気を失っていた。
遠目に見れば、生きているのか死んでいるのかさえ分からないほどに。
「どうしよう……!夏菜子とまちこは絶対忙しいし……!」
沙也加さんは、もう1回注文用チャイムを鳴らした。
ピーンポーン
沙也加さんは、まだ使っていないおしぼりを胸元にグッと押さえつけていた。
「あとで真由美にも電話しよ……」
午後1時15分
赤森さんがめるへん♡らんどに着いた。
「彩音……少しでも楽になるかな……。ツナマヨと明太エビマヨ用意したけど……」
赤森さんは、セーラーワンピコーナーを涙目で歩いたが、当然、ゆうちゃんの面影などどこにもなかったのだ。
「桃松さん……最期にAに会えただけでも幸せだったのかな……?」
セーラーワンピコーナーを通り過ぎた赤森さんの目線の先には、ゆうちゃんが7月4日に着ていたジャンスカがあった。
そのジャンスカこそ、彩音さんが今朝マネキンに着せた、王子様のハートを射止めるサックスのフリフリジャンスカだったのだ。
「桃松さん……!」
赤森さんは、その場に崩れ落ちて泣き出してしまった。
その時だった。
「いらっしゃいませ〜!……って、お兄ちゃん?!え、どうしたの?!なんでおにぎり4つも持ってんの?!」
新作のワンピースを抱えた彩音さんが通りかかった。
「あ、あああああああああああ……!」
赤森さんは、おにぎりを買った理由を伝えることができなかった。