※この作品はR-18です。

の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】   作:桃色ぴんく

110 / 132
後半に、刃物を使った流血表現ありの自傷シーンが含まれています。

自傷行為を肯定・助長する意図はありませんのでご安心ください。


第110話

7月12日午後2時

 

「疲れた……」

 

亜李さんは、予定より30分も遅れて休憩に入った。

 

ポテトを揚げたり、バーガーを作ったり、そして冷たいシェイクを作ったりと、とにかく大忙しだったのだ。

 

その理由は、もはや説明するまでもない。

 

「仕事終わったら、ゆうちゃんにお花届けなきゃ……。ウチとみうと涼介だけじゃ寂しいから、遥と誠人も誘おうかな……。あ、やっぱり大輝と雄馬にゃんも……」

 

サニーランドの従業員専用の休憩室に入った亜李さんは、そんなことを呟いていた。

 

いつものようにスマホを開いたが、その画面は不在着信の通知に埋め尽くされていたのだ。

 

「えっ、遥に誠人?!それに、雄馬にゃんまで!どんだけウチに電話してんの?!」

 

遥さんと誠人さんはそれぞれ3回、雄馬さんに至っては10回も亜李さんに電話していたのだ。

 

亜李さんは、家から持ってきたサンドイッチを食べる前に、雄馬さんに電話した。

 

プルルルルルルル

 

「亜李にゃんっ……!よかった、生きてて……」

 

「は?勝手に殺さないでよ……。てか、なんで10回も電話してんの?いくら雄馬にゃんでも怖いから……」

 

「……ごめん。俺、謝りたい」

 

「え、どうしたの急に?!」

 

「昨日……Aの曲聞きなって亜李にゃんに言ったよね……?だから……」

 

「うん、で?って、え?なんで泣いてんの?」

 

「あ……ニュース速報……見てなかったんだ……」

 

「ちょ、どういうこと?」

 

「ゆうちゃんを殺して食べた犯人はAってことだよ……!そして、Aは死んだ……。あと、ゆうちゃんのお母さんも涼介くんって人も……」

 

「は……?待って、待って待って……!いやああああああああああ……!!!」

 

残酷な真実を突きつけられた亜李さんは、スマホを壁に思いっきり投げつけてしまった。

 

午後2時10分

 

「あ!ウチとしたことが……!」

 

亜李さんは、重い足取りで画面にヒビが入ったスマホを拾った。

 

雄馬さんからの電話は、いつの間にか切れてしまったのだ。

 

「ウチ、こういう時なんて言えばいいの……?」

 

亜李さんは、震える声と震える手で遥さんに電話をかけた。

 

プルルルルルルル

 

「あ……亜李ちゃん、大丈夫?」

 

「え?なんで誠人が出てんの?」

 

「遥は急に体調が悪くなったので、お休みさせてあげてくださいってパティスリーサニーの店長に伝えたから」

 

「マジ……?あ、誠人……その……!ゆうちゃんを……食べたの……は……!」

 

「知ってるよ。僕のスマホで3回電話しても出なかったから、遥のスマホ借りて言おうと思ってたんだ……」

 

「そんな……!遥は大丈夫なの……?」

 

「うーん……生きてはいるけど、僕が見てないとどうなるか……」

 

「あ……ああああ……!!!」

 

大粒の涙を流した亜李さんは、震える右手の親指で電話を切った。

 

大好きなハム入りのサンドイッチを食べようにもどうしても食べられなかったのだ。

 

「あ、あああああああああ!!!!痛い……痛いよ……。苦しい……辛い……ああああ!!!」

 

亜李さんは、スマホを持った右手でお腹を強く押さえながら、自分のロッカーへと向かった。

 

「すみません……。10分前から急にお腹が痛くなりまして……早退させてください……」

 

亜李さんは、たまたま目の前を通ったSUN SUN BURGERの店長にそう伝えた。

 

当然、本当に痛いのは別の場所だったことは言うまでもない。

 

一方その頃、遥さんの自宅では……

 

部屋のベッドにいた遥さんは、机にあったカッターナイフとハサミを必死に取ろうとしていた。

 

だが、誠人さんが意地でも許してくれなかったのだ。

 

「どうして止めるの……?」

 

遥さんは涙目で尋ねた。

 

誠人さんが電話している間に、カッターナイフとハサミの刃で腕にいくつもの傷を作っていたのだ。

 

真っ白なシーツには、小さな赤い水溜まりがいくつもできていた。

 

「僕と亜李ちゃんが悲しむからだよ……。遥……辛いのは分かるけど、そういうのやめて。桃松さんと蒼森さんだって、そんなこと望んでないから……」

 

誠人さんはそう言うと、血の付いたカッターナイフとハサミを掴み、そのままゴミ箱に投げ捨てた。

 

「ねえ……捨てないで……!返して……!」

 

遥さんは誠人さんの白い半袖Tシャツの裾を力強く引っ張った。

 

「嫌、あんなもの……返したくない……」

 

後ろを振り返った誠人さんは、遥さんが身動きできなくなるほど力強く抱き締めた。

 

「ねえ!やめて、離して!」

 

遥さんが誠人さんを拒否したのはこの時が初めてだったのだ。

 

「どうしてそんなこと言うの……?僕のこと嫌いなの……?Aと違って歌上手くないから?誰もが見とれるようなイケメンじゃないから?」

 

完全に取り乱した誠人さんは、気づけば遥さんの腕に爪を立ててしまっていた。

 

決していつもの天然が出てしまったからではない。

 

「違う!桃色の天使……ゆうちゃんにピッタリの神曲だよねって亜李に送っちゃったからだよ……。ゆうちゃんよりも……伊東さんよりも……ゆうちゃんのお母さんよりも……。私が死んだ方が……ずっといいでしょ……?」

 

寝る前に送ってしまったメッセージに呪われた遥さんは、誠人さんを両手で突き飛ばそうとした。

 

だが、誠人さんの力には到底及ばなかったのだ。

 

「桃松さんたちの分まで生きるって言うまで、僕は絶対に離さない……。遥がいなくなったら、生きる希望が1つもなくなってしまうから……」

 

誠人さんは、気づけば遥さん以上に涙を流していた。

 

プルルルルルルルルル

 

机にあった誠人さんのスマホの着信音が鳴った。

 

これは、亜李さんからの電話ではない……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。