の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後2時40分
ピンポーン
亜李さんは遥さんの家の玄関チャイムを押した。
だが、遥さんも誠人さんもドアを開けてくれなかった。
「2人ともトイレかな……?いや、まさかね……」
右手にスマホを持った亜李さんは、左手で胸を強く押さえながら誠人さんに電話した。
プルルルルルルル
ただいま、電話に出ることができません。
ピーッという発信音の後に、お名前とお電話番号をお話しください。
「……仕方ない。アイス差し入れするか……」
亜李さんは、金色の小型車に乗ってアイスクリームワールドへと向かった。
この時、誠人さんが孝行さんと電話中だったことを知らずに……
一方その頃……
心身ともに限界を迎えていた百乃さんと裕香さんは、おひさまモールを出て、2人で道を歩いていた。
突然激しい頭痛に襲われたフリをして、仕事を早退していたのだ。
約1時間前におひさまモールの従業員専用の休憩室でスマホを見て、Aの本性やゆうちゃんが不特定多数の人たちに罵倒されていたことなどを知ってしまったからだ。
「酷い……こんなの酷すぎる……。ゆうちゃんが可哀想……」
百乃さんは両手で顔を覆い、掌を濡らしていた。
「Aがクズ野郎と同一人物なのもムカつくけど、やたらピンクのシュシュを返品したがってたお客さんもムカつく!不良品以外は返品不可だっつーの!」
裕香さんは瞬きしながら大声を上げた。そうでもしないと、目が百乃さんの掌と同じくらい濡れてしまうのだ。
「みうちゃんも美由利ちゃんも大丈夫かな……」
百乃さんは涙目で裕香さんを見つめた。
「絶対大丈夫じゃないって!けど、心配だから電話しとく?」
裕香さんはスマホを取りだした。
こうして、百乃さんはみうさん、裕香さんは美由利さんに電話した。
プルルルルルルル
プルルルルルルル
だが、みうさんにも美由利さんにも繋がらなかった。
「もしかして……。みうちゃん、今日も仕事……だっけ……?」
「あ……どうだろう……?って、よく考えたら今日……アイスクリームワールドめちゃくちゃ忙しいじゃん……」
百乃さんと裕香さんは、声を震わせ、スマホを持つ手も震わせていた。
みうさんと美由利さんが電話に出られなかった理由など、知る由もなかったのだ。
一方その頃、孝行さんと美由利さんの自宅では……
「誠人……僕……怖いよ……」
「え、何?どうしたの?」
「あ……ああああああ!!!」
「え、孝行?孝行?!」
孝行さんは、スマホを持つ右手を震わせながら、10分前から嗚咽していた。
電話越しに誠人さんの声を聞いたところで、なんの意味もなかったのだ。
孝行さんのスマホケースに貼り付けられたエビフライのステッカーが、心なしか、どこか悲しげに見えた。
「誠人……助けて、もう辛いよ……!ゆうちゃんもゆうちゃんのお母さんもいなくなって……!」
「そうだよね、分かるよ……って、待って!嫌な予感が……!」
「え?」
「ちょっと遥!ハサミとカッターナイフ返して!あ、孝行ごめん!切るね!」
「えっ……?あ……」
午後2時50分
孝行さんは、午後1時に見たアイスクリームワールドの公式SNSアカウントをまた開いた。
最新の投稿には、
お知らせ
いつもアイスクリームワールドをご利用いただき、ありがとうございます。
アイスクリームワールドは、諸般の事情により、今後の営業を続けることが難しくなりました。
お客様にはご迷惑をおかけし、申し訳ございません。
短い間でしたが、ありがとうございました。
と書かれていたのだ。
「美由利……」
孝行さんは、SNSを閉じ、メッセージを開いた。
美由利、大丈夫?
と、午後1時10分に送ったのだが、未だに既読がつかない。
さらに、誠人さんに電話する前に、何度電話しても美由利さんに繋がらなかったのだ……