の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後3時30分
百乃さんと裕香さんは、まだ外を涙目で歩いていた。
2人ともおひさまモールから徒歩10分ほどの場所に住んでいるのだが、帰ろうにも帰る気になれずにいたのだ。
「ねえ……これ見た……?」
百乃さんは、アイスクリームワールドの公式SNSアカウントの投稿を裕香さんに見せた。
「え……!そんな……!まだ1回しか行けてないのに!……って、そうじゃない!美由利ちゃんが最優先!」
裕香さんは、百乃さんの腕を強く引っ張り、日の丸バスのバス停に連れて行った。
午後3時35分
百乃さんと裕香さんの前に、松ノ森3丁目経由の日の丸バスが止まった。
「裕香……ゆうちゃんを殺して食べたのがAだったから……。やっぱり、美由利ちゃんもショックだったのかな……」
「百乃!今はAのことは忘れて!とりあえず、着いたらガンガンノックしよ!そうすれば美由利ちゃん絶対気づいてくれるはず!」
何も知らない2人は、美由利さんの無事だけをひたすら祈っていた……
一方その頃……
プルルルルル
信号待ち中、亜李さんのスマホに電話がかかってきた。
「え、雄馬にゃん……じゃない、みうだ!あ!もしもし!」
「あ、亜李……。仕事中だったらごめん……」
「それはいいけど、どうしたの?」
「あ、お花のことなんだけど……どうしよう……。伊東くんもゆうちゃんのお母さんも死んじゃった……から……」
「……っ!あ……そうだったね……。その……ウチらだけで……ゆうちゃんの家……行く?あ、信号青になったから1回切るね……」
亜李さんは、目を潤ませながら電話を切ると、おひさまファッションビルまで車を走らせた。
「アイスは諦めてお菓子にしよ……。そうだ、とにかく大量に買おう。ゆうちゃんたちへのお供えにもなるし、遥たちも少しは楽になるはずだし……ね」
一方その頃、アイスクリームワールドでは……
「うう……美由利……。どうして?僕を置いていかないでよ……!」
孝行さんは、美由利さんとの永遠の別れをまだ受け入れられずにいた。
冷凍庫はしっかり閉まっていたものの、大粒の涙の通り道は全く閉じられていなかったのだ。
「どうして僕は家にいたの?最低な男だよね……!ああ……!」
午後3時45分
やや泣き疲れた孝行さんは、また冷凍庫を開けた。
「美由利、僕の可愛いアリスでいてくれてありがとう……痛っ!」
美由利さんの冷たい手の甲にそっとキスをしたが、唇を襲ったあまりの痛みに、つい後ずさりしてしまった。
一瞬の痛みが収まった後、孝行さんはそっと冷凍庫を閉めた。
「誠人、僕の1番の親友でいてくれてありがとう。ゆうちゃん、美由利たちと仲良くしてくれてありがとう。遥ちゃんも亜李ちゃんもみうちゃんも百乃ちゃんも裕香ちゃんも……本当にありがとう。」
何か言わないと耐えられなくなった孝行さんは、アイスのショーケースに向かって歩きだした。
「そうだ、ダブルにしようかな」
孝行さんは、木の温もりを連想するような色の紙カップと、イートイン用の銀色のスプーンをそれぞれ1つずつ手に取り、目の前に置いた。
そして、美由利さんの結婚指輪と同じ色のスクープで、バニラアイスとストロベリーアイスを掬った。
「よし、できた」
耐寒仕様の手袋をはめた孝行さんは、2色のアイスが入った紙カップを両手で包み込むように持った。
そして、アイスを左手に持ち替え、右手で冷凍庫のドアを開けた。
「美由利、お疲れ。ただでさえ日曜日なのに、猛暑日だったから忙しかったでしょ?ほら、食べて」
孝行さんは、ストロベリーアイスを掬ったスプーンの先を美由利さんの口元に当てた。
「ゆうちゃんとお揃いだね、美由利」
涙はもはやどこかへ消えてしまった……