の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
自傷行為を肯定・助長する意図はありませんのでご安心ください。
7月12日午後6時45分
誠人さんは、消えそうな声で智和さんと電話していた。
電話の向こうでは、智和さんの隣に健二さんもいた。
「え、なんで蒼森さんの連絡先……?」
「え?蒼森さんは桃松さんの親友だから、住所知ってると思って……」
「おい智和、その言い方じゃ分かんねえよ。要は、桃松とそこまで仲良くねえはずの涼介が桃松の家を知ってるはずねえってことだよ。蒼森に直接聞いてねえ限り……」
「つまり、同窓会が終わってから、涼介くんに何があったか蒼森さんの口から聞かせてほしいってこと?」
「そうだよ……。どうして僕らに内緒で桃松さんの家に行ったか……!」
「俺たち悲しいんだよ!涼介まで桃松と同じ世界に行っちまったんだから!」
「あ、とりあえず蒼森さんと代わるね……」
誠人さんは、震える手でみうさんにスマホを渡した。
みうさんは急な電話に戸惑ってしまった。
「あ……もしもし?誰……?」
「あ、僕だよ。智和」
「……あ、こんばんは……」
「あ、蒼森?健二だけど……。お前、涼介に桃松の家の住所教えたか……?」
「こんばんは……。うん、教えたよ……。ゆうちゃんにお花を買いたいって言ってたから……」
「……おい、智和。桃松のお母さんが持ってたカサブランカ……」
「あ、蒼森さん?その話、もっと聞かせて……」
「えっと……サニーランドで買ったよ。あの時はもう真夜中だったから……」
「……ありがとう。涼介に桃松さんの住所教えてくれたんだね……」
「……でも、まさか私たちより先にゆうちゃんの家に行ってると思わなくて……!」
「は?どういうことだよ!他にも誰かいたのか?!」
「健二、落ち着いて」
「亜李もいた……」
「なあ!涼介は俺らのこと恨んだりしてなかったか?!」
「それは絶対ないよ。ゆうちゃんが食べられたことと、ゆうちゃんのお母さんにSNS見せちゃったショックでずっと泣いてた……」
「ん……?蒼森さんと金山さんをサニーランドに誘ったんだよね?僕らを誘わなかった理由……分かる?」
「ごめん、それは分かんない。あと、最初は私だけ誘ってた。あの時は大輝に怒られないかなってちょっと戸惑っちゃった」
「待って……。涼介……カップケーキ渡す前に……優しい蒼森さんと仲良くなれたらって、僕の耳元で言ってたのって……!」
「え……?伊東くん、私と友達になりたかったの?」
「んなわけねえよ!もし友達としてしか見てねえなら、俺らに内緒で蒼森だけ誘うことねえだろ……」
みうさんは、いつの間にかスマホを持つ手を震わせていた。
「それって……」
心臓の鼓動は速くなる一方だったのだ。
「だから!本当は蒼森と2人きりになりたかったって意味だよ!涼介……あんな傷だらけの心で死んじまったのかよ……」
「え……っ、え?」
「健二の話を聞いて確信した。涼介は蒼森さんと距離を縮めたかったんだね。あ……桃松さんがいなくなって苦しいのにごめん。またね、ありがとう……」
智和さんはそう言って電話を切った。
一方その頃、うさぎマーケットの休憩室では……
「お皿もフォークもまだ残っててよかった……」
黒田さんは、家から持ってきた包丁で桃のホールケーキを切った。
ケーキに添えられた桃は、本物のピンクダイヤモンドのようにキラキラと輝いていたのだ。
「桃松さん、青山くん、2人のお母さんとあと……涼介くんって人だったかな?みんなで仲良く食べてね……」
目を潤ませた黒田さんは、5枚の真っ白な紙皿に、ケーキとプラスチックのフォークをそっと乗せた。
「今日は気温が高いからな……」
そして、ケーキとフォークが乗せられた5枚の紙皿を1つずつ冷蔵庫に入れた。
午後6時50分
黒田さんは、ゆうちゃんと青山さんのロッカーに向かって黙祷した。
おやつワールドのレジ袋に入れられたあのお菓子が、まだ片付けられていなかったのは言うまでもない。
「幸せになってね……」
黒田さんはそう呟き、ゆうちゃんと青山さんのロッカーに深くお辞儀をした。
午後7時
「給料日が10日でよかった……」
黒田さんは、包丁を右手に取り、左手首に何度も突き刺した。
床が真っ赤に染まろうが、鉄のような臭いが充満しようが、刺したところがズキズキと激しく痛もうが、そんなことはもうどうでもよかったのだ。
「あれ?うまくいかないな……」
黒田さんは、包丁を突き刺す勢いをだんだん強めていった。
「いつまでやれば……!」
黒田さん以外誰もいないうさぎマーケットの休憩室は、誰も入りたがらない地獄へと変わってしまったのだ。
「はぁ……。ああ、もういいや……」
だんだん視界が霞んできた黒田さんは、血が止まらない自分の左手首をじっと見つめた。
「桃……松……さん、青……山……くん……?」
そして、最後の力を振り絞って左胸を刺した。
「……っ!」
急所に当たったのか、黒田さんはあっという間に力尽きた。
永遠の眠りについた黒田さんの周りだけが、本物のルビーと同じ色に染まってしまった。