の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後7時15分
京子さん、桃香さん、秋奈さんは、3人が働くくまさんのおうちで焼き菓子を選んでいた。
日曜日ということもあり、くまさんクッキーもくまさんマドレーヌもほんの少ししか残っていなかった。
カヌレに至っては、もう完売していたのだ。
「もう少し早く来ればよかった……」
京子さんは、プレーン味のくまさんマドレーヌと、いちご味のくまさんマドレーヌを1つずつ手に取った。
「そうだね。店としては嬉しいことなんだけどね……」
桃香さんは、塩バター味のくまさんクッキーとキャラメル味のくまさんクッキーを1つずつ手に取った。
「あ、2人とも決めたんだ。どうしようかな……えっと、私は……」
秋奈さんは、ココア味のくまさんクッキーと、いちご味のくまさんマドレーヌを1つずつ手に取った。
3人とも、自分たちのためのお菓子まで買う気にはなれなかった。
「そういえば、ゆうちゃんと伊東くんの住所……誰か知ってるかな?」
京子さんは、震える手で亜李さんに電話した。
プルルルルルルル
「京子……どうしたの?」
「昨日はごめんね。……それと、お菓子をお供えしたくて……。ゆうちゃんと伊東くんの住所……もし知ってたら教えて」
「それはもういいよ。……って、ちょうどよかった。ウチらも今からお供えしようと思ってたから。涼介の住所は健二か智和に……あ、誠人に電話してもらおうか?」
「ありがとう。今どこ?」
「アイスクリームワールド……」
「あ……了解。桃香と秋奈もいるから、今行くね……」
聞き覚えのある店名を耳にした京子さんは、震える親指で電話を切った。
会計を済ませた3人は、おひさまモールの入口でタクシーを呼んだ。
一方その頃……
颯斗さんと純さんは、おひさまモールの4階にある日の丸書店にいた。
そこは、小説やマンガだけでなく、絵本やファッション雑誌なども多数取り揃えていた。
「なあ、純。桃松がシンデレラ好きだったのは分かるけど、涼介くんは何が好きだったか分かるか?」
「分かんねえ。颯斗の直感でいいんじゃねえか?こういうのは気持ちが大事って言うだろ?」
2人とも俯きながら絵本コーナーへ向かって歩いていた。
午後7時20分
「え、康太くん……どうしてここに?」
「あ、康太くん……お疲れ……」
颯斗さんと純さんは、シンデレラの絵本を立ち読みする康太さんを不思議そうに見つめていた。
それは、いかにもゆうちゃんが好きそうな少女マンガテイストのイラストで描かれた絵本だったのだ。
「あ、本泉に吉岡。何だろう……仕事終わりに寄り道したくなってさ」
康太さんは、シンデレラの絵本を両手に持ちながら誤魔化した。
「そっか……。あ、涼介くんって何の本が好きか分かるか?」
颯斗さんが康太さんに尋ねた。
「ごめん、分かんねえや……。けど、俺だったら、涼介くんには桃松と2人で仲良くシンデレラを読んでほしいって思うかな」
康太さんは、無意識にシンデレラの絵本をそっと抱き締めていた。
「ありがとう」
颯斗さんは康太さんにお礼を言った。
ちょうど同じタイミングで、純さんは、別のシンデレラの絵本を手に取った。
それは、ページを開くと、登場人物たちが飛び出す楽しい仕掛け絵本だったのだ。
「あ、康太お疲れ。今日めっちゃ忙しかったよな……。あれ?本泉と吉岡もここにいたのか」
純さんがシンデレラの仕掛け絵本のページを開こうとするタイミングで、弘樹さんも絵本コーナーに来た。
「あ、お疲れ……!うっ……あ……!」
弘樹さんの顔を見た康太さんの目に、どっと涙が溢れてきた。
「え、どうした?え?」
「康太くん?大丈夫か?」
「桃松と涼介くんがいなくて寂しいのか?」
3人は、それぞれハンカチを取り出し、康太さんの涙を拭おうとした。
「弘樹……!どうして俺なんかに優しく声掛けてくれたんだ?俺は一昨日、桃松に酷いことしたのに……!」
康太さんは、シンデレラの絵本を抱えたまま、顔を弘樹さんの胸元に当てた。
「そんなの友達、いや!親友だからに決まってるだろ……。一昨日、俺だって酷いことしたんだから……お前が泣くことねえだろ……」
弘樹さんは、右手で康太さんの背中をゆっくりと撫でた。
「……康太くん。それで泣いてたのか……」
「やべえ、颯斗。俺も泣きそう……」
颯斗さんと純さんも、康太さんの背中を同じように撫でた。
いつの間にか、康太さんが抱えたシンデレラの絵本だけではなく、純さんが手に取ったシンデレラの仕掛け絵本も表紙が濡れてしまったのだ。
「あ、その2冊……桃松と涼介くんにお供えしようぜ……」
颯斗さんは、目を潤ませながらそう提案した。
一方その頃……
仕事終わりのひなこさんと大輔さんは、おひさまモールの1階のベンチに座ってスイカジュースを飲んでいた。
今日、スイカジュースを買った最初の客が2人だったことは、もはや説明するまでもない。
「見て……リアルタイム配信……。ほぼ全部ゆうちゃんの事件の特番で埋め尽くされてる……」
「本当だ……。そういえば俺、今日の新聞読んでなかったな……」
ひなこさんは、大輔さんにサニーTVのリアルタイム配信を見せていた。
2人は、おひさまファッションビルの電光掲示板に映っていた特番と同じ番組を見ることにした。
Aが桃松ゆうさんを食べようと決めた理由を、少しずつ明かしていこうと思います……
ピンクのセーラーワンピと黒髪ツインテール、ニコニコした顔、無邪気な少女のような歌声。
これらが僕の食欲を刺激しちゃったね、お馬鹿なお姫様♪
お昼のニュースで公開されたAの日記には、こう書かれていました。
ですが、その続きには、さらに恐ろしいことが書かれていました。
個体識別番号1218の桃松ゆうは、見た目は華奢だったな。でも、肉はまるでマシュマロか何かのようにふっくらしていて柔らかそうに見えたんだ♪
桃松ゆうはお世辞にも美人とは言えないけど、最高の肉質であることは間違いないって確信したんだ♪
本当に恐ろしいですね……。
そんな悪魔みたいなことを言う男がAだったなんて、本当に信じられませんよね……
「ゆうちゃん……ごめんね……」
ひなこさんは、スマホを右手で握ったまま大輔さんに抱きついてしまった。