※この作品はR-18です。

の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】   作:桃色ぴんく

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第125話

7月12日午後8時

 

雄馬さんの車が、亜李さんの家の駐車場に停まった。

 

「ありがとう、雄馬にゃん!あ、孝行ごめん!待ってて!」

 

亜李さんは『特急案件』と言いたげな足取りで玄関へと向かった。

 

お昼頃に、電話のやり取りやお菓子を買うことなどに気を取られていたせいで、ひまわりの花束を家に置き忘れてしまったのだ。

 

「やっぱり家にあった!」

 

亜李さんはサッと助手席に乗り込んだ。

 

「お待たせ!あ、お供えはウチのお菓子分ける?それとも別で買う?」

 

ひまわりの花束を両手に持った亜李さんは、早口でまくし立てた。

 

「あ、亜李にゃん落ち着いて。お供えは別で俺がまとめて買う。だから、そのお菓子は亜李にゃんが食べな」

 

雄馬さんは、大人の余裕を見せながら亜李さんの頭をポンと軽く叩いた。

 

2人の後ろの席にいた孝行さんは、スマホで誠人さんとのメッセージのやり取りをしていた。

 

「あ、誠人たちはおひさまモールでゆうちゃんと……涼介くんだっけ?……にお供え買うみたい。みうちゃんたちはまだ考え中みたい」

 

孝行さんの目は、まだ少しだけ潤んでいた。

 

「そうなんだ。あ、雄馬にゃん、おひさまファッションビルに行きたい」

 

亜李さんが口元を緩ませたその時!

 

プルルルルルル

 

「え、また電話……?もしもし?」

 

「もしもし?あたしたち、ゆうちゃんと伊東くんにお供え買ったんだけど住所分かんなくて……」

 

「なんだ、夏菜子か。ゆうちゃんの住所は松島県根ノ江市松ノ実6丁目12-18、涼介の住所は松島県根ノ江市松ノ実4丁目7-8だよ」

 

「ありがとう!真由美たちに伝えとくね!」

 

「え、他にも誰かいるの?」

 

「うん。真由美と沙也加とまちこと夏美もいるよ。あたしたち、おひさまファッションビルでクッキー買ったんだ」

 

「奇遇じゃん!ウチ今から雄馬にゃんの車でそっちに行くところ!あ、まだ帰ってない?」

 

「うん、おひさまファッションビル1階の休憩スペースにいる」

 

「じゃあそのまま待ってて!あ、5人とも車で来た?」

 

「ううん、真由美と沙也加だけ。あ、でもゆうちゃんの家と伊東くんの家に車3台停めるのはちょっと厳しいんじゃない?」

 

「あ、そっか……」

 

「そうだ。お供えのタイミングはずらすとして、先にご飯食べるのはどう?あたしたちと一緒に」

 

「分かった、そうしようかな。じゃあ、Twinkle Star希望」

 

「あたしの職場キター!まちこたちに伝えとくね!またね!」

 

亜李さんは電話を切った。

 

一方その頃……

 

京子さん、桃香さん、秋奈さんがおひさまスーパーで買い物しながら時間を潰している間、遥さんと誠人さんはにこにこランドの着せ替え人形コーナーにいた。

 

「ねえ、何これ……」

 

貼り紙を見た遥さんの額には、暑さとは違う汗が滲んでいた。

 

「もしかして、孝行が昨日あんなに泣いてたのって……!」

 

誠人さんの目と頬は、また涙で濡れてしまった。

 

そこには、

 

 

おことわり

 

オシャレなサニーちゃんシリーズ 新作

 

桃松ゆうちゃんコラボサニーちゃん&日ノ松藍斗様コラボサンシャインくんのラブラブセット

 

予定数に達したため、ご予約を締め切らせていただきます。

 

なお、ご予約後のキャンセルはできかねますのであらかじめご了承ください。

 

 

と書かれていた。

 

「酷すぎるよ!ゆうちゃんは白馬の王子様を夢見ていた女の子なのに……!」

 

遥さんは、号泣しながら誠人さんに抱きついた。

 

遥さんの腕や、誠人さんのシャツの胸元は、あっという間に涙でぐっしょりと濡れてしまったのだ。

 

「こんなの絶対おかしいよ……!桃松さんを何だと思ってるんだろう……」

 

誠人さんは、遥さんを力強く抱き締めた。

 

抱き締める力は、少しずつ強くなっていった。そして、誠人さんの目からも、大粒の涙が零れてしまったのだ。

 

午後8時15分

 

泣き疲れて何も買えなかった2人は、結局おひさまスーパーへ向かうことにした。

 

だが、おひさまでんきのテレビコーナーで放送されていた最低な特番が、2人の足を止めてしまったのだ。

 

 

いや〜。Aの日記……衝撃ですね〜。ゆうちゃんは、漆黒のSUVで無理矢理連れ去られたのかと思っていました……

 

まさか、自らニコニコして乗り込んでいたなんて……

 

Aは国宝級のイケメンだから、気持ちは分からなくもないですが……どう思います?

 

女の子って言っても28歳なら自業自得としか言えませんね。子供じゃあるまいし……

 

 

「何それ……。ゆうちゃんは何も悪くないのに……!」

 

「そうだよ、悪いのは全部Aなのに……!」

 

一方その頃……

 

大輝さん、みうさん、百乃さん、裕香さんは、おひさまファッションビルの2階にあるミラクルサニーにいた。

 

そこは、一昨日大輝さんと雄馬さんが衣装などを買ったコスプレ専門店だ。

 

「大輝さん……!今日は何から何まで本当にありがとうございます!」

 

「みうちゃん……!仮病を疑われるのが怖いっていう、あたしたちの我儘に付き合ってくれて本当にありがとう!」

 

百乃さんは大輝さんに、裕香さんはみうさんに泣きそうな顔でお礼を言った。

 

「こちらこそありがとう。あと、そんなに堅くならなくていいよ」

 

「友達なんだからそれくらい普通だよ」

 

大輝さんとみうさんの表情は、ミラクルサニーの照明のように明るかった。

 

こうして、4人は童話コスプレコーナーへと向かった。

 

「あ、大輝……。ゆうちゃんと伊東くんへのお供えが終わったら、美由利ちゃんにもお供えしたい」

 

シンデレラ、人魚姫、アリスの衣装を迷うことなくカゴに入れたみうさんは、いつの間にか暗い顔に逆戻りした。

 

シンデレラの衣装の水色のせいで、11年前の文化祭でニコニコ演じていたゆうちゃんを思い出してしまったからだ。

 

青に近い水色の人魚姫の衣装と水色のアリスの衣装までもが、どこか悲しげに見えた。

 

「いいよ。その子もみうの友達だもんな……」

 

大輝さんの表情も同じように逆戻りしたのは言うまでもない。

 

「みうちゃん、泣かないで……。ゆうちゃんはきっと、美由利ちゃんと仲良くそうめんとか食べてるかも……しれ……ない……よ……」

 

百乃さんはみうさんを必死に慰めようとしたが、白雪姫の衣装が目に入った瞬間、声が勝手に震えてしまった。

 

「みうちゃんも百乃……。あ……!」

 

赤ずきんの衣装が目に入った瞬間、裕香さんも思うように慰めの言葉をかけられなかった。

 

「ありがとう……。辛かったら無理しないでね……。伊東くんの分は……えーと……」

 

みうさんは涼介さんに相応しい衣装をどれにしようか迷っていた。

 

「男の定番の衣装は王子様だけど……。涼介くんはそもそもこういうの好きなのかな……?」

 

大輝さんは、シンデレラの王子様の衣装をじっと見つめていた。

 

それは、一昨日みうさんに内緒で買った衣装と全く同じものだったのだ。

 

だが、元クラスメイトのみうさんですら詳しくは知らない涼介さんのことなど、大輝さんが知る由もなかったのだ。

 

「あ、大輝さん……?涼介くんの衣装はあえて違うジャンルにするのはどうでしょうか?」

 

「例えば……戦隊ヒーローとか……RPG系とか……。あたしの考えですが……どうでしょうか?」

 

百乃さんと裕香さんは、震えた声のまま大輝さんに提案した。

 

「そっか、ありがとう。あと、俺にもタメ口で話していいんだよ。あ、みう……。百乃ちゃんと裕香ちゃんが涼介くんのお供え選びたいって。一緒に行こう」

 

大輝さんはみうさんの手を優しく握ったが、みうさんの表情はまだ暗いままだった。

 

「……ごめん。ゆうちゃんのお供えはみうが選んでくれたシンデレラの衣装にする。悪いけど、涼介くんのお供えだけ2人で決めてもらっていい?」

 

大輝さんは、百乃さんと裕香さんに涙目でそう言った。

 

百乃さんと裕香さんは、何も言わずにゆっくりと頷き、RPGコスプレコーナーへと向かった。

 

午後8時25分

 

百乃さんと裕香さんは、勇者の衣装だけを無意識にじっと見つめていた。

 

その衣装は、シンデレラのガラスの靴のようにキラキラと輝いていたのだ。

 

「裕香……。涼介くんって確か……!」

 

百乃さんは、右手で掴んだ左手首を裕香さんにゆっくりと見せた。

 

「ん?……あ、そういうことか。ちょっと待って……」

 

裕香さんは何を思ったのか、

 

涼介 腕時計

 

とスマホで検索した。

 

「本当だ……!シルバーの腕時計をしていたって書いてあった……!」

 

裕香さんは、スマホを持つ手をぶるぶる震わせていた。

 

腕時計のジェスチャーをやめた百乃さんは、銀色の勇者の衣装を震える手でゆっくりとカゴに入れた。

 

「裕香……大丈夫?あ、美由利ちゃんの分もここで買おうよ……。アリスはたぶんみうちゃんと被ると思うから……」

 

「そうだね……。じゃあ、魔術師にしようかな……」

 

百乃さんの提案を受け入れた裕香さんは、白の魔術師の衣装をそっとカゴに入れた。

 

その衣装は、アイスクリームワールドのバニラアイスを思い出させるほど真っ白だったのだ。

 

百乃さんと裕香さんは、小刻みに震える足で大輝さんとみうさんのいる場所へ戻ろうとした。

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