の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後8時25分
康太さん、弘樹さん、颯斗さん、純さんは、にこにこランドのボードゲーム・パーティーゲームコーナーにいた。
そこには、ジェンガ、オセロ、人生ゲームなどの複数人で楽しむゲームがいくつも売られていた。
「懐かしいな……。ガキの頃に弘樹とよく遊んでたっけ」
「そうだな。康太に5連敗した時はガチで悔しかったよ」
18年前の記憶を思い出した康太さんと弘樹さんは、オセロの箱をじっと見つめていた。
「うわ!これ純と遊んでた!」
15年前の記憶を思い出した颯斗さんは、人生ゲームの箱を指差した。
人物ピンも車も本物とそっくりで、さらに、綺麗な金色のルーレットがついていたのだ。
「すげえ!ガキの頃よりめっちゃクオリティ上がってる!購入〜www」
純さんは、颯斗さんが指差した人生ゲームをサッと両腕で抱えると、1人で勝手にレジへと向かってしまった。
「はぁ……。吉岡のやつ、弘樹がどんな気持ちでここに誘ったのか忘れたのか……?」
康太さんは呆れていた。
「いや、康太くんもオセロ懐かしいって言ってただろw」
颯斗さんは、康太さんの右肩を叩きながら笑っていた。
「まあ、自分の分も買っていいよ?けど、桃松と涼介くんの分を忘れないでね」
弘樹さんは、ジェンガをカゴに入れながらそう言った。
それは一般的なジェンガと違い、赤、オレンジ、黄色、緑、水色、藍色、紫の7色で構成されていたのだ。
颯斗さんは、弘樹さんのカゴの中をこっそり覗き込んだ。その目は、少年のようにキラキラと輝いていた。
「すげえ!レインボーカラー?!めっちゃいいじゃん!」
興奮した颯斗さんは、同じものをサッとカゴに入れた。そして、純さんが自分用に買ったものと同じ人生ゲームも、お供え用としてカゴに入れた。
「絵本だけじゃ桃松も涼介くんもつまんねえからな」
康太さんは弘樹さんの目をじっと見つめた。
「そうそう。だから誘ったんだよ」
弘樹さんは得意げに笑っていた。
午後8時30分
「イェーイ!買ったぜ〜www」
純さんは、上機嫌で人生ゲームの箱を高く掲げていた。少し前までとは違い、行進をするように歩いていたのだ。
「あ……偶然だね」
「吉岡じゃん。昨日ぶりだな」
そこに、ひなこさんと大輔さんが声をかけてきた。
「あ!田辺と大輔くんじゃん!ウィッス!もしかして、お前らも人生ゲーム買いに来たのか?」
純さんは、人生ゲームの箱をメトロノームのように激しく左右に振り始めた。
それだけでは物足りなかったのか、公共の場であることを忘れて、高くジャンプしようとした。
「ちょ!子供じゃないんだからやめて!」
「おい!アラサーにもなって何やってんだよ!」
だが、ひなこさんと大輔さんにあっさり止められてしまった。
「あ、悪い悪いwwwで、お前らも人生ゲーム買うのか?」
純さんは、高く掲げていた両腕をサッと降ろした。
「ううん。ゆうちゃんと伊東くんにお供えするぬいぐるみを買うよ」
ひなこさんは、大輔さんと一緒にお供えを買うつもりだったのだ。
「マジ?……あ!俺たち仲間じゃん!」
満面の笑みを浮かべた純さんは、ここに来た本当の目的を思い出した。
「しまった!桃松と伊東の住所……俺、分かんねえ……!」
2人のすぐ近くにいた大輔さんは、大慌てで誠人さんに電話した。
プルルルルルル
「あれ?大輔……くん?」
「白石……。その……どうした?」
「……っ!」
「昨日のことか……本当にごめん……」
「もしもし、鈴木くん?」
「誰?!」
「誰って……桃香だよ。同窓会で会ったじゃん。白石くんはおひさまでんきで見ちゃった特番とかでメンタルやられてるから、代わりに私が聞く」
「そうなのか……実は、桃松と伊東にお供えしたいから、住所教えて欲しくて……」
「いいよ。ゆうちゃんの住所は松島県根ノ江市松ノ実6丁目12-18で、伊東くんの住所は松島県根ノ江市松ノ実4丁目7-8だよ」
「ごめん、もう1回ゆっくり言って。ひなこ!悪いけど、スマホのメモに桃松と伊東の住所書いてくれる?」
「ゆうちゃんの住所は松島県根ノ江市松ノ実6丁目12-18で、伊東くんの住所は松島県根ノ江市松ノ実4丁目7-8」
「ありがとう、助かった。じゃあな」
ひなこさんのスマホのメモを確認した大輔さんは、少し微笑みながら電話を切った。
ひなこさんだけではなく、純さんもいつの間にかこっそり聞き耳を立てていたのだ。
「あ、田辺!桃松と涼介くんの住所撮らせて」
純さんは、両手を合わせながらひなこさんにお願いした。
「いいよ」
ひなこさんは、嫌な顔をせずスマホのメモを見せた。
カシャ!
「サンキュー♪」
純さんは、康太さん、弘樹さん、颯斗さんの元へとスキップして帰っていった。
午後8時35分
ひなこさんと大輔さんは、ぬいぐるみコーナーに着いた。
日曜日のこの時間だからか、棚はほんの少し寂しげだったのだ。
「大輔、見て。売り切れてる……」
「本当だ……」
ひなこさんと大輔さんは、空っぽになった黒いテディベアの棚を暗い顔で見つめていた。
それは、一昨年の七夕の日にひなこさんが自分で買ったものと同じだったのだ。
「……あれ?」
2人は、ぬいぐるみの棚に違和感を覚えた。
売り切れていたのは、テディベアを含む全ての黒いぬいぐるみだったのだ。
「……でも、ゆうちゃんの好きそうなものはあってよかった」
ひなこさんは、一切の迷いを見せることなくピンクのテディベアをカゴに入れた。
だが、大輔さんは、色とりどりのテディベアを前に、どれにしようか迷っていた。
「問題は伊東だな……。ピンクは違うとして、赤?青?黄色?緑?それとも……」
大輔さんは、手に持ったスマホで
伊東涼介
と検索した。
「そうだ……!桃松のお母さんにカサブランカ……あ!」
大輔さんが何色のテディベアをカゴに入れたかは、もはや説明するまでもない。
一方その頃……
健二さん、智和さん、涼太さんは、静かに涙を流しながら黙祷した。
涼介さんの家のドアの前には、青い邪気眼のリング、青い服を着た男の子の妖精のキーホルダー、そして、王子様のキーホルダーがポツンと悲しげに置かれていた。
「涼介……。桃松さんと仲良くしてね……」
「涼介……。桃松をよろしくな……」
「涼介くん……。桃松さんとゆっくりしてね……」
悲しみに包まれた3人の声は、無情にもセミの声にかき消されてしまったのだ。
午後8時40分
「あ……桃松さんの住所分かんないな……」
その場に座り込んだ涼太さんは、白のトートバッグからメモ帳とボールペンを取り出し、亜李さんに電話した。
プルルルルルル
「もしもし涼太?もしかしてゆうちゃんの住所知りたいの?」
「うん、さっき涼介くんにお供えしてたんだけど、桃松さんの住所だけが分かんなくて……」
「松島県根ノ江市松ノ実6丁目12-18」
「松ノ実6丁目……12-18だね、ありがとう!健二くんと智和くんに伝えとくね」
「あ、待って!もしかしたら翔子とみなみもお供えしに行くかも!あの2人仲良いから。えっと翔子の電話番号は……」
「あ、楠木さんのSNS知ってるから大丈夫だよ」
「え?アンタ、みなみと仲良かったっけ?」
「どうだろう?一昨日、何気なくみぃにゃって人の投稿にいいねしたんだ。でね、昨日の同窓会で話してたら、その正体が楠木さんだって分かったんだ。詳しい内容は言えないけど……」
「OK、分かった」
「またね」
涼太さんは電話を切ると、早速みなみさんのDMに、
こんばんは、涼太だよ。
もしかして、桃松さんと涼介くんの家に土岐さんと一緒に行くかなと思って住所書いといたよ。
桃松さんは松島県根ノ江市松ノ実6丁目12-18
涼介くんは松島県根ノ江市松ノ実4丁目7-8
と送った。
「昨日楠木さんのSNSフォローしといてよかった……。そういえばあのスプーン、結局家のゴミ箱に捨てたな……」
涼太さんはボソッと呟いた。
その近くにいた健二さんと智和さんは、目を潤ませてその場に立ち尽くすのが精一杯だったのだ……