の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後9時
黄ノ山さんは、心の傷を癒すために日の丸百貨店の公式サイトを見ようと、バッグの中を探った。
「あれ?!ない!」
だが、そこにスマホが入っていなかったのだ。
「最悪……。あ……茜ちゃん……寝てるのにごめんね。忘れ物……取りに行くから……許して……」
茜ちゃんをそっと抱き上げた黄ノ山さんは、足音を立てないように家を出た。
そして、茜ちゃんを後部座席のチャイルドシートに乗せ、黄色の小型車を運転した。
「絶対ロッカーに置き忘れたパターンだ……」
一方その頃……
ゆうちゃんの家の前に、ルビーのように真っ赤な車が10分前からずっと停まっていた。
ゆうちゃんの家のドアの前には、透明の箱に入ったピンクのうさぎのアニマルフラワーがひとり寂しく置かれていた。
「遅くなってごめんね、ゆうちゃん……!あ……ああああ!!」
みうさんの悲痛な叫びを聞いた大輝さんは、何も言わずに後ろからギュッと抱き締めた。
百乃さんと裕香さんは、シンデレラの衣装が入った袋を抱えたまま、2人の後ろに立っていた。
「みうちゃん、大丈夫?」
「大輝くん、これドアノブに引っかかると思う?結構本格的なドレスなんだけど……」
百乃さんは涙ぐむみうさんを心配し、裕香さんは大輝さんに衣装をどうお供えしようか相談した。
「百乃ちゃんも裕香ちゃんもありがとう。みうはまだ辛いみたい。そうだな。クリーニングに出した服を掛けてたハンガーが、確か後部座席にまだあるはず」
百乃さんと裕香さんは、早速ハンガーを取りに行った。
「あった……!」
「念のため2本重ねとくね……!」
少しだけ微笑みを取り戻した2人は、シンデレラの衣装を2本重ねたハンガーに吊るし、ドアノブの根元に引っ掛けた。
お供えを終えた4人は、大粒の涙を流しながら黙祷した。
「ゆうちゃんっ……。最高の親友でいてくれてありがとう……ずっと大好きだよ……」
「ゆうちゃん……。みうと仲良くしてくれて、本当にありがとう……」
「ゆうちゃん……!夢見るゆめこちゃんストーリー、もっと聞きたかったよ……!」
「ゆうちゃん……!天国で素敵な出会いがあったら教えてね……!」
午後9時10分
ゆうちゃんの家の前には、ドア部分に紫の斜め線が3本入った茶色のチェック柄の車だけが停まっていた。
「大輔、見て」
「本当だ。蒼森が一足先にどっちも置いたんだな」
既に車から降りていたひなこさんと大輔さんは、みうさんだけがお供えしに来たと完全に勘違いしていた。
ひなこさんは、透明の箱に入ったピンクのうさぎのアニマルフラワーの隣に、ピンクのテディベアをそっと置いた。
「うう……ゆうちゃん……。天国でおいしい夏のスイーツとか……いっぱい食べてね……」
大輔さんは、すすり泣く最愛の奥さんの背中を優しく撫でた。
「桃松……昨日まで桃松をネタにして遊んで本当にごめん……」
2人は顔を見合わせてから黙祷した。
その後、大輔さんが涼介さんの家に向かって車を走らせてから1分も経たないうちに、紫の軽自動車と銀色の軽自動車が停まった。
「あれ?ドアノブにドレスがある。みうちゃんが引っ掛けたのかな?」
「絶対そうだよ。あと、テディベアと……これはお花のうさぎ……?どっちもピンクだ。みうちゃん、3つもお供えしてたんだね……。翔子もそう思うよね?」
それぞれの車から降りた翔子さんとみなみさんは、既にあったお供えは全てみうさんがしたものだと思い込んでいた。
翔子さんとみなみさんは、シンデレラのBIGぬいぐるみをピンクのテディベアの後ろにそっと置いた。
「ゆうちゃん……。賞味期限切れの赤唐辛子とか使って変なスプーン再現してごめんね……。天国で素敵な王子様とお幸せに……」
「ゆうちゃん……。スプーン再現したのもそうだけど、Aに会いたいなんてバカなこと言ってごめんね……。ゆうちゃん、今頃シンデレラみたいに王子様と踊っているのかな……?」
翔子さんとみなみさんは、ゆうちゃんの夢が叶うことを祈りながら黙祷した。
午後9時25分
今度は真由美さんが運転する赤の小型車と、沙也加さんが運転するピンクの小型車が停まった。
夏菜子さん、真由美さん、まちこさんが赤の小型車から降りるとほぼ同時に、沙也加さんと夏美さんがピンクの小型車から降りた。
5人とも猛ダッシュでゆうちゃんの家のドアの前へと向かった。
「えっ?!みう、こんなにいっぱいお供えしてたの?!」
「夏菜子、もう夜だからあんまり大声出さないでよ。そりゃ、みうはゆうちゃんの親友なんだからそれくらいするでしょ……」
「え?いくら蒼森さんでもこんなにたくさんはお供えしないんじゃない?」
「まちこの言う通りだよ。きっと、遥も蒼森さんと同じこと考えてたんじゃないかな?そうだよね?夏美?」
「そうだよ!亜李はまだお供え選んでる途中だろうし!蒼森さんと遥だよ!」
夏菜子さん、真由美さん、まちこさん、沙也加さん、夏美さんは何もかも勘違いしていた。
「とにかくクッキーお供えしよ!ゆうちゃんのために買ったんだもん!」
夏菜子さんはまた大声を出した。
「そうだね!ゆうちゃんに天国で笑ってほしいもん!」
真由美さんたち4人も、夏菜子さんの大声につられてしまった。
「そう来なくっちゃ!」
夏菜子さんと真由美さんはハート型のチョコクッキー、まちこさんと夏美さんはうさぎ型のイチゴクッキー、そして沙也加さんはハート型のイチゴクッキーをシンデレラのBIGぬいぐるみなどの前に置いた。
「ゆうちゃん……天国で……ああああああああ!!!」
5人は黙祷しようとしたが、とうとう耐えきれず、号泣することしかできなくなってしまった。
一方その頃……
純さんが運転する空色の軽自動車と、颯斗さんが運転する淡い緑の軽自動車が涼介さんの家の前に停まった。
純さんと颯斗さんは、スタスタと涼介さんの家のドアの前へと向かった。
「あれ?なあ、颯斗。俺たちが来る前に誰かがお供えしたのか?」
「絶対そうだろ。誠人くんが一足先にお供えしたと思うぜ」
勘違いした純さんと颯斗さんは、青い邪気眼のリング、青い服を着た男の子の妖精のキーホルダー、王子様のキーホルダーをしゃがんで見つめていた。
「黙祷の前にお供えしねえと」
純さんは立ち上がってそう言った。
「やべw忘れてたwありがとな」
颯斗さんもすぐに立ち上がった。
2人がお供えを取りに行こうとしたその時、
「おい、純……。自分で買っといて忘れんじゃねえよ」
空色の軽自動車の助手席に座っていた康太さんが、少し呆れた様子でシンデレラの仕掛け絵本を持ってきた。
「颯斗も何やってんだよ。せっかくのお供え忘れてどうすんだよ」
淡い緑の軽自動車の助手席に座っていた弘樹さんも、少し呆れた様子で高クオリティの人生ゲームを持ってきた。
「ありがとう!」
純さんと颯斗さんは2人同時にお礼を言うと、それぞれ買ったお供えを受け取った。
純さんは、シンデレラと王子様が踊っているページを開いた仕掛け絵本を、3つのお供えの後ろに置いた。
颯斗さんは、高クオリティの人生ゲームを、箱のまま3つのお供えの前に置いた。
「純。颯斗と同じ位置に置かねえと読めねえだろ」
康太さんがツッコミを入れた。
「たぶん絵本をシンデレラと王子様が踊っている会場に見立ててさ、その中で人生ゲームをさせたいんじゃない?」
弘樹さんは2人の意図に気づいて微笑んだ。
チカチカする涼介さんの家の玄関灯に照らされた純さん、颯斗さん、康太さん、弘樹さんは、夜空の星を見てから黙祷した。
「涼介くん、桃松と一緒に読んでくれよ」
「涼介くん、桃松と一緒に楽しんでくれよ」
「涼介くん、昨日はとても楽しかったよ……」
「涼介くん、元気でね……」
一方その頃……
「え……あ!いやあああああああああああああああああ!!!!!」
茜ちゃんを抱いた黄ノ山さんは、うさぎマーケットの休憩室が地獄絵図へと変わってしまったことに気づいた。
左胸の辺りを真っ赤に染めた黒田さんが床に倒れていたのだ。
「あああああああああああああ!!!」
取り乱した黄ノ山さんは、スマホを取りに行こうと、自分のロッカーまで走っていった。
ガチャ!
「あった!」
ロッカーを開けてスマホを取り出した黄ノ山さんは、大急ぎで電話した。
救急車を呼んでも、もう絶対に間に合わないことを知らずに……