※この作品はR-18です。

の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】   作:桃色ぴんく

129 / 132
第129話

7月12日午後9時25分

 

25分前にひとりでふぇありぃているに入った孝行さんは、美由利さんのお供えをまだ決められずにいた。

 

メルヘン雑貨コーナーにある何かを手に取ろうとするたびに、大粒の涙と心の痛みに邪魔されてしまうのだ。

 

「……っ!み……美由利……!ああ……」

 

孝行さんは、アリスとマッドハッターのペアキーホルダーを見て、とうとう泣き崩れてしまった。

 

その理由はもはや説明するまでもない。

 

「……っ。あれ?他にも泣いている人がいるんだな……」

 

15分前にひとりでふぇありぃているに入った智和さんが、孝行さんの後ろを通りかかった。

 

午後9時30分

 

孝行さんがまだ美由利さんのお供えを決められない中、智和さんはあるものに目を奪われていた。

 

「あ、こんなの売ってたんだ……」

 

それは、童話モチーフのオルゴールだった。ハートの形のゼンマイを時計回りに2回回すと音楽が鳴る。

 

「あ、赤ずきんのオルゴールは、にじいろクローバーRの来るぜっ!可憐な王女、白雪姫のオルゴールは、≠YOUの飴いらっしゃいませ……。2つとも赤なんだ。他には……」

 

智和さんは、商品説明のPOPに書かれた曲一覧をまじまじと見つめていた。

 

「シンデレラのオルゴールは、BEAUTY STRAIGHTのたのしいだけでもいいですか?が流れるのか……」

 

昨日の同窓会の追悼劇を思い出した智和さんは、早速お試し用のそのオルゴールのゼンマイを回した。

 

♪〜

 

音楽が閉店30分前の静かな店内に鳴り響いた。

 

「こういうのって女の人が喜ぶものだろうけど、男の僕にも刺さるんだな……」

 

智和さんは、近くに置いてあったカゴを手に取り、シンデレラの水色のオルゴールをそっと入れた。

 

「……って、早く選ばないと!健二たちがエレベーター近くで待ってるんだった!桃松さんの分は……!これだ!」

 

ゆっくり考える余裕がなくなった智和さんは、眠り姫のピンクのオルゴールをサッとカゴに入れた。そのオルゴールからは、みうさんが昨日カラオケで歌ったあの曲が流れるのだ。

 

智和さんは、息を切らしながらレジへと走り去った。

 

「あそこから音楽が聞こえたような……?」

 

ちょうどその頃、孝行さんは少し前まで智和さんがいた場所へと向かった。

 

午後9時35分

 

「ごめん、お待たせ……」

 

智和さんが健二さんと涼太さんの元へ歩いた。

 

「気にすんなって。いいのがあったのか?」

 

「全然待ってないよ、何買ったの?」

 

2人とも、智和さんが買ったものを優しい眼差しで見つめていた。

 

「オルゴールを買ったんだ。桃松さんにはピンクの眠り姫で、自分用に水色のシンデレラ……」

 

智和さんは、いつの間にか頬を濡らしていた。

 

「そうだよな。涼介は昨日までいたもんな……」

 

「昨日のこと思い出したのかな……?分かるよ。王子様を演じている時、桃松さんが可哀想になってきたから……」

 

健二さんと涼太さんは、智和さんに寄り添いながらエレベーターへと向かった。

 

閉店まであと25分あるのだが、3人の心は、閉店後のおひさまファッションビルよりもずっと真っ暗だったのだ……

 

一方その頃、ダークモードでは……

 

「亜李にゃん、この模型見て!」

 

雄馬さんは、涙ひとつ見せることなく日の丸新幹線の模型を高く掲げた。太陽のように輝く赤が男のロマンをくすぐるのだ。

 

「うわー!懐かしいね!2年前に太陽都デートに行った時にそれ乗ったっけ」

 

亜李さんは、全47都道府県を走る日の丸新幹線の模型を満面の笑みで高く掲げた。

 

この時、雄馬さんのカゴには既に3つの鉄道模型が入っていた。

 

それは、松島県のみを走る松島電車、松島県、鳥ノ子県、桃岡県を走る特急サニー、根ノ江市と白雲市のみを走る太陽電鉄の模型だったのだ。

 

「そうだね。すごく楽しかったよね♡」

 

「うん♡また連れてって♡」

 

雄馬さんと亜李さんは、日の丸新幹線の模型を自分用にそれぞれのカゴに1つずつ入れた。

 

「って、涼介くんの分も買わないと!」

 

雄馬さんは、大慌てで日の丸新幹線の模型をもう1つカゴに入れた。

 

「そうだった!あ、念のためこれも入れよっか!」

 

亜李さんも、大慌てでもう1つカゴに入れた。ただし、選んだのは特急サニーの模型だった。

 

一方その頃、ゆうちゃんの家の前では……

 

10分前に白のワゴン車を停めた誠人さん、遥さん、京子さん、桃香さん、秋奈さんは、まだ泣き続けていた。

 

「桃……松……さん……遅くなって……ごめん……」

 

「ゆうちゃん……辛いよ……」

 

「ゆうちゃん……昨日……ごめんね……」

 

「アイス……おいしかった……?」

 

「劇……気に入って……くれ……た……かな……?」

 

5人とも、ドアの前にあったお供えを買った人が誰なのか考える余裕を失っていた。

 

それどころか、声の震えがどうしても止まらなかったのだ。

 

京子さんはいちご味のくまさんマドレーヌ、桃香さんはキャラメル味のくまさんクッキー、秋奈さんはココア味のくまさんクッキーを透明の箱に入ったピンクのうさぎのアニマルフラワーの前に置いた。

 

誠人さんと遥さんは、ペットボトルの麦茶1本を2人で持って、シンデレラのBIGぬいぐるみの目の前に置いた。

 

そして、黙祷した。

 

午後9時40分

 

孝行さんは、虚ろな目でオルゴールを見つめていた。

 

「これか……」

 

だが、商品説明のPOPに書かれた曲一覧を見る気力はもう残っていなかったのだ。

 

「あ、美由利だ……」

 

孝行さんは、いつの間にかアリスの水色のオルゴールに手を伸ばしていた。そのオルゴールからは、MAIのFA.I.RYが流れるのだ。

 

その音楽こそ、美由利さんが生前、子供の頃からよく歌っていた歌だった。

 

「美由利。大好きなアリスだよ……。そうだ……」

 

アリスの水色のオルゴールを優しくカゴに入れた孝行さんは、シンデレラの水色のオルゴールもカゴに入れた。

 

その理由はもはや説明するまでもない。

 

プルルルルルルルル

 

「……あれ?亜李ちゃんから?もしもし?」

 

「孝行!閉店まであと20分だけど、お供え決まった?」

 

「うん……」

 

「分かった。美由利のお供えには、ウチ、雄馬にゃん、孝行、遥、誠人、みう、大輝……。あと、百乃と裕香で行こうかなって思っててさ。どう?」

 

「いいよ。むしろそうしてくれないと僕が辛い……」

 

「なら話は早いね。遥たちにはウチが連絡しとくから!ダークモードの入口で雄馬にゃんと一緒に待ってるね!」

 

「ありがとう……!」

 

孝行さんは、目を潤ませたままレジへと向かった。

 

午後9時45分

 

みうさん、大輝さん、百乃さん、裕香さんは、まだ涼介さんの家に向かえず、根ノ江川の河川敷にいた。

 

35分前にたまたま見てしまった最悪な光景に心を壊されたからだ。

 

それは、ゆうちゃんが生前勤めていたうさぎマーケットの自動ドア近くに、ピンクのシュシュやピンクのセーラーワンピがボロボロの状態で大量に捨てられていたというものだ。

 

さらに、ゆうちゃんが通っていた小学校、中学校、高校、短大の卒業アルバムを笑いながら投げる人たちもいた。

 

悲しいことに、ゆうちゃんの写真だけが真っ黒なペンで塗りつぶされていたのだ。

 

「酷いよ……!ゆうちゃんはあんな風に扱われていい子じゃない!うう……もう嫌……!」

 

みうさんは35分前からずっと泣き続けていた。

 

大輝さん、百乃さん、裕香さんはみうさんを慰めようとしたが、一緒にゆうちゃんを想って泣くことと、ピンクのシュシュなどを捨てた血も涙もない人たちに怒りを露わにすることしかできなかったのだ。

 

「A……いや、あのクソ野郎も許せねえけど……っ!ゆうちゃんを傷つけて笑う馬鹿も同じだよ……っ!」

 

「なんでゆうちゃんにあんな酷いことができるんだろう……。あんなのA……いや!もうAって呼ぶのも嫌だよ、あれと変わんないじゃん!あああ……」

 

「クズ野郎は論外として、本当に酷いよね……。自分がされたらどう思うのか……考えてないのかな……っ!」

 

3人ともみうさんの背中をずっと撫で続けていた。

 

「いやああああああああああああ!!!」

 

何もかもに耐えられなくなったみうさんは、後ろを振り返って大輝さんにしがみついた。

 

松島短期大学の卒業アルバムを捨てていた人たちの中には、みうさんが学生時代に2週間だけ付き合っていた元彼もいたからだ。

 

「ごめん……ゆうちゃんの職場があんなことになっていたとは思わなくて……。みう、本当に辛かったな……」

 

大輝さんは、大粒の涙を流しながらみうさんをギュッと強く抱き締めた。

 

「みうちゃん……大丈夫……?今は大輝くんがいるから……ね……」

 

「みうちゃん……しんどいよね……。あのクズ野郎……浮気性なだけじゃなかったね……」

 

百乃さんと裕香さんは、みうさんの肩をそっと撫でながら声を震わせていた。

 

「ごめん……!浮気されたってのは嘘なの……!」

 

みうさんはとうとう号泣した。

 

その時、3人は何も言えずにみうさんの顔だけを見つめていた。

 

「ゆうちゃんはオレンジ人間って馬鹿にされたからなの!本当のこと言ったら……特にゆうちゃんが悲しむと思って……!」

 

日の丸の国で最も言ってはいけない言葉とされるオレンジ人間。みうさんは、大好きなゆうちゃんにそんな言葉を吐いた元彼を永遠に許せなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。