※この作品はR-18です。

の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】   作:桃色ぴんく

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第130話

7月12日午後9時45分

 

黄ノ山さんは、根ノ江病院の病室からまだ離れられずにいた。

 

あの残酷な光景は、立ち上がることだけでなく、誰かに電話をかけようという考えさえも簡単に奪ってしまったのだ。

 

「店長……どうして……!」

 

ちょうどその時、お医者さんと救急隊員の通報を受けた2人の下田さん、藤田さん、浅川さん、拝郷さん、風雅さんが来た。

 

「そんな……!店長さんまで……」

 

「え……どうして……!」

 

2人の下田さんは、同時にその場に崩れ落ちた。

 

「え?!大丈夫ですか?!」

 

藤田さんは両手を小刻みに震わせたままその場に立っていた。

 

「誰がこんな酷いことを……。もしかして、うさぎマーケットはクソ女の職場とか書いた奴らの仕業か?」

 

浅川さんは、黒田さんがゆうちゃんに恨みを持った誰かに殺されたのではないかと疑っていた。

 

「とにかく、まずは胸元に刺さっていた包丁を証拠として確保するわ。そのうえで、持ち手の指紋を採取しないといけないわね」

 

「そうですね。現時点では自殺なのか他殺なのかまだ分かりませんから」

 

拝郷さんと風雅さんは、あくまで冷静に自分の仕事に取り掛かろうとした。

 

「……あれ?あなたは?」

 

1人目の下田さんが黄ノ山さんの顔を見た。

 

「……っ!黄ノ山……明里……です……」

 

黄ノ山さんはただ涙ぐむことしかできなかった。

 

「お気持ちお察しします……。ですが、少しだけお話を聞かせてください……」

 

2人目の下田さんも涙声だったのだ。

 

「私は……!スマホを……取りに行っただけなのに……!」

 

一方その頃……

 

「そりゃそうよね……」

 

リビングにいた赤竹さんは、何度もテレビチャンネルを変えた。だが、どのチャンネルもゆうちゃん関連の特番や嫌なニュースしかやっていなかったのだ。

 

「はぁ……。それにしても、桃松さんと青山くん……夏限定のパフェか何か食べたかしら?」

 

テレビを消した赤竹さんは、固定電話の近くにあったメモ用紙と黒いペンを手に取った。

 

「店長は明日、本格的に閉店に向けた作業をするに違いないわ。いくら小さい店とはいえ、私も手伝いに行った方がいいわよね……」

 

午後9時50分

 

メモ用紙には、

 

 

明日すること

 

店内と休憩室の掃除、売れ残った商品をどうするか相談、棚や仕切り板などの処分

 

 

と書かれていた。

 

「私、これからどうしたらいいのかしら……!」

 

その時、メモ用紙が少しずつ濡れ始めた。決して、麦茶の入ったガラスのコップを倒したからではない。

 

「桃松さん、青山くん……!そういえばまだ何もお供えしていなかったわ!ごめんね……!許して……!」

 

プルルルルルルルル

 

その時、赤竹さんのスマホが鳴った。

 

「誰よ……って、金森さん?……もしもし?」

 

「あ……副店長。夜分にすみません」

 

「……何よ」

 

「あの……私、SNS見ちゃったんです……」

 

「え?何の話……?」

 

「すみません。うさぎマーケットの裏口近くに救急車が停まってたって内容です……」

 

「……それだけ?」

 

「あ……えっと……。写真にはモザイクがかかっていましたので、私の思い込みでしたらすみませんが……」

 

「何よ」

 

「搬送された人と通報したと思われる女性……服装からして店長と黄ノ山さんだと思うんです!」

 

「待って!本当かどうか確かめるわね!」

 

泣く暇もなくなった赤竹さんは、金森さんからの電話を切った。

 

そして、『特急案件』と言いたげな手つきで黄ノ山さんに電話した。

 

プルルルルルルル

 

「……っ!副店長……」

 

「……え、どうしたの?」

 

「ああああああああああああああ!!!」

 

「嘘でしょ……!」

 

赤竹さんはとうとうスマホを床に落としてしまった。

 

そこから聞こえてくるのは、あの『メロディー』と似た黄ノ山さんの叫び声だけだったのだ。

 

赤竹さんは、電話を切りたくても切れずに倒れ込んだ。

 

まるで、青山さんが悲劇の最期を遂げたことを3日前の午後6時20分頃に知った黒田さんのように……

 

プルルルルルルル

 

プルルルルルルル

 

プルルルルルルル

 

プルルルルルルル

 

プルルルルルルル

 

プルルルルルルル

 

赤竹さんのスマホには、白谷さん、藍谷さん、青木さん、緑ヶ丘さん、赤森さん、茶山さんの順に電話がかかってきた。

 

だが、6人からの電話に出る余裕なんかあるわけがなかったのだ。

 

一方その頃、涼介さんの家の前では……

 

「あれ?すげえ量のお供えだな。もしかして白石か?」

 

「きっとそうだよ。あの人優しいもん」

 

大輔さんとひなこさんは、また勘違いをしていた。

 

「とりあえずここに置くか」

 

大輔さんは、白いテディベアを王子様のキーホルダーの隣に置いた。

 

「あれ?ひなこちゃんに鈴木くん、偶然だね」

 

「見て!これ翔子が1発で取ったやつ!」

 

バイオリンのBIGクッションを抱えた翔子さんとみなみさんは、2人に後ろから話しかけた。

 

「え!何それ、バイオリン?」

 

「でかっ!すげえじゃん!」

 

バイオリンのBIGクッションがひなこさんと大輔さんを笑顔にした。

 

「あれ?鈴木くんの前に白石くんがお供えしたのかな?みなみ、どう思う?」

 

「え?遥ちゃんもお供えしたんじゃない?あの2人ラブラブだもん」

 

また勘違いした翔子さんとみなみさんは、バイオリンのBIGクッションをシンデレラの仕掛け絵本の後ろにゆっくりと置いた。

 

「伊東くん。ゆうちゃんと仲良くしてね」

 

「伊東。桃松と色違いのテディベア、気に入ってくれるといいな」

 

「伊東くん。バイオリンの演奏楽しんでね」

 

「伊東くん。昨日の校歌、ゆうちゃんに届いたんじゃないかな」

 

4人はほんの少しだけ口元を緩めて黙祷した。

 

「そういえば子供は大丈夫なの?そろそろ帰らないと寂しがらない?私はお母さんに預けてるからいいけど……」

 

黙祷を終えたみなみさんは、翔子さんの顔を心配そうに見つめた。

 

「ん?私もお母さんにお願いしたから大丈夫……だよ」

 

翔子さんは、明日の朝ごはん用に買ったパンをふと思い出した。

 

午後10時

 

夏菜子さん、真由美さん、まちこさん、沙也加さん、夏美さんが涼介さんの家に着いた。

 

「あー!やっと着いたー!」

 

「夏菜子!さっきからうるさいんだけど!」

 

真由美さんは、夏菜子さんの肩をバシッと叩こうとした。

 

「まあまあ、落ち着いて」

 

だが、まちこさんに簡単に阻止されてしまった。

 

「あ、とりあえずお供えしよっか……ん?」

 

「そうだね。もう遅いし……あれ?」

 

沙也加さんと夏美さんは、既に置かれていたお供えを不思議そうに見つめていた。

 

「どうしたの?って……あれ?」

 

「すごいお供えの量……」

 

「先に誰かがお供えしたのかな?」

 

2人の声を聞いた夏菜子さん、真由美さん、まちこさんも同じ反応をした。

 

誠人さんが全てお供えしたと、5人全員が勘違いしていたのは言うまでもない。

 

夏菜子さんと真由美さんは、猫型のバタークッキーを青い服を着た男の子の妖精のキーホルダーの前にゆっくりと置いた。

 

その後、まちこさんは熊型のバタークッキー、沙也加さんは星型のイチゴクッキー、夏美さんは猫型のチョコクッキーを白いテディベアの前に2人と同じように置いた。

 

5人はあえて夜空を見上げながら黙祷した。

 

「伊東くん。ゆうちゃんと一緒にクッキー食べてね……」

 

「伊東くん。ゆうちゃんのこと大事に思ってくれてたんだね……」

 

「伊東くん。ゆうちゃんの王子様が伊東くんだったらよかったのになって今になって思うよ……」

 

「伊東くん。昨日の劇、きっとゆうちゃん喜んでたと思うよ……」

 

「伊東くん。昨日校歌一緒に歌ってくれてありがとう……」

 

悲しいことに、5人は涼介さんにとってのお姫様がみうさんだったことを知らなかったのだ。

 

その時、誠人さん、遥さん、京子さん、桃香さん、秋奈さんが涼介さんの家の前に着いた。

 

5人とも、おひさまモールで売られていたあの悪趣味な商品のことがまだ頭から離れず、目を潤ませていたのだ。

 

誠人さんと遥さんは、もう1本のペットボトルの麦茶を2人で持って歩いた。

 

「あれ?遥と白石くん?えっ?」

 

「お供えまだしてなかったの?」

 

「どういうこと???」

 

「亜李はまだお供え選ぶって聞いたのに……」

 

「じゃあ、一体誰が……」

 

家に帰ろうとしていた夏菜子さん、真由美さん、まちこさん、沙也加さん、夏美さんはかなり戸惑っていた。

 

「あ、廣瀬さんたち……偶然だね」

 

誠人さんは涙を堪えながら作り笑顔を見せた。

 

「あ、今井さんと鷲見さんが先にお供えしたんだと思うよ。2人は伊東さんの親友だから……っ。確か、鈴木さんとひなこさんも……かな……」

 

だが、遥さんはうまく笑えなかった。

 

「そういうことか……教えてくれて……ありがとね……」

 

5人とももらい泣きするのを堪えながらそう返し、そのまま帰っていった。

 

その後、誠人さんと遥さんはペットボトルの麦茶を王子様のキーホルダーの前にゆっくりと置いた。

 

続けて、京子さんはプレーン味のくまさんマドレーヌ、桃香さんは塩バター味のくまさんクッキー、秋奈さんはいちご味のくまさんマドレーヌを白いテディベアの前にそっと置いた。

 

そして、5人とも両頬を濡らしながら黙祷した。

 

「涼介くん……。桃松さんへの劇にカラオケに……昨日はありがとう……」

 

「伊東さん……。ゆうちゃんと2人でお茶飲んでね……」

 

「伊東くん……。私たちのお店のお菓子、ゆうちゃんと一緒に食べて……」

 

「伊東くん……。ゆうちゃんと仲良く遊んでね……」

 

「伊東くん……。ゆうちゃんをよろしくね……」

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