の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後10時
ゆうちゃんの家の前にいたのは、康太さん、弘樹さん、純さん、颯斗さんだった。
「それにしても量すげえな。一体誰が……」
少女マンガテイストのイラストで描かれたシンデレラの絵本を持った康太さんは、たくさんのお供えに目を丸くしていた。
「蒼森、金山、誠人くん、黒谷の4人が置いたんじゃね?」
レインボーカラーのジェンガを持った弘樹さんは、相変わらず勘違いしていた。
康太さんは少女マンガテイストのイラストで描かれたシンデレラの絵本、弘樹さんはレインボーカラーのジェンガをシンデレラのBIGぬいぐるみの前にそっと置いた。
「あ、田辺と大輔くんもお供えしたんじゃねえか?俺、人生ゲーム買った時に2人に会ったんだよな」
純さんは1時間半前の出来事を思い出したが、ひなこさんのお供えだけが置いてあったことには気づかなかった。
「ということは……俺らの前に6人がお供えしたのか」
口元を緩ませた颯斗さんも完全に勘違いしていた。
「桃松……。一昨日は本当にごめん。いやらしいだの変なこと言って……」
「桃松、大して可愛くねえとか酷いこと言ってごめん……」
「桃松、ファンアートでオナニーとか最低なこと色々しちまった!本当にごめん!」
「桃松……!女体盛りとか食いてえとか不謹慎なこと言っちまった!かつての仲間だったのにごめん!」
康太さん、弘樹さん、純さん、颯斗さんは土下座したまま黙祷した。
小刻みに両腕を震わせていた4人の元に、亜李さん、雄馬さん、孝行さんが来た。
同時に、涼太さん、健二さん、智和さんも来た。
「あれ?康太に弘樹に純に颯斗。アンタたちもゆうちゃんのために来てくれてたんだ」
亜李さんは、ひまわりの花束を抱えたまま4人の背中を見つめていた。
「え……金山?どういうことだ?」
「あれ?もう桃松にお供えしたんじゃねえのか?」
「え、金山じゃねえのか?じゃあ、黒谷と誠人くんと蒼森の3人か?」
「あ……!それよりも、昨日のこと絶対怒ってるよな……?」
4人とも土下座をやめて、ゆっくりと振り返った。
「昨日?それはもういいよ。ゆうちゃんのための追悼劇を一緒にしてくれただけでも嬉しいから。あと、お供えしに来たのはみうたちだけじゃないよ」
亜李さんは4人を許した。
「あれ?君たちは亜李にゃんの元クラスメイトかな?はじめまして。亜李にゃんの彼氏……正確に言うと未来のダーリンの山吹雄馬だよ」
雄馬さんはいきなり自己紹介をし始めた。
「こんばんは、誠人の親友の紅山孝行です……」
孝行さんも雄馬さんにつられて自己紹介をした。だが、孝行さんだけは下を向いていたのだ。
「あ、弘樹。昨日ガラスの靴を持ってきてくれたのは孝行なんだ」
亜李さんは弘樹さんの肩をポンと叩いた。
「そうなんだ……!桃松のために……ありがとう……」
弘樹さんは、孝行さんの顔を見て思わず目を潤ませてしまった。
「どういたしまして……」
孝行さんは下を向いたまま弘樹さんの元へゆっくりと歩いた。両手で大事に持っていたシンデレラの水色のオルゴールが少し濡れてしまったのは言うまでもない。
「あれ、金山さん。今来たんだね……」
「こんばんは、金山。あ、そのひまわりすげえ綺麗だな……。涼介たちと一緒に買ったんだな……」
「あ、金山さん……!涼介……ううう……!」
シンデレラのキーホルダーを持った涼太さん、ピンクの服を着た女の子の妖精のキーホルダーを持った健二さん、眠り姫のピンクのオルゴールを持った智和さんは、3人とも暗い顔をしていた。
「そうだよね……あ、この後ウチらも涼介の家に行くよ……」
亜李さんは、ひまわりの花束をゆうちゃんに見立てて抱き締めた。
「あ、康太くんたちも来てたんだね……」
涼太さんは蚊の鳴くような声でそう言った。
「涼太くんたちも来てたんだ」
家に帰ろうとしていた康太さんは、それしか言えなかった。
同じく家に帰ろうとした弘樹さん、純さん、颯斗さんは、何も言わずに頷くだけだったのだ。
その間に、亜李さん、雄馬さん、孝行さんはゆうちゃんの家の前へ向かった。
亜李さんはひまわりの花束を透明の箱に入ったピンクのうさぎのアニマルフラワーの前に置いた。
「雄馬さん、一緒に持ってください……」
孝行さんは雄馬さんを上目遣いでじっと見つめた。
「いいよ。それ壊れやすそうだもんね」
こうして、雄馬さんと孝行さんはシンデレラの水色のオルゴールをシンデレラの衣装のすぐ近くに置いた。
そして、孝行さんはゆっくりとオルゴールのゼンマイを回した。
♪〜
「ゆうちゃん……っ!王子様とお城の舞踏会楽しんでね……!涼介が演奏者になってきっと応援してくれてるよ……」
「ゆうちゃん……!今まで俺たちと仲良くしてくれてありがとう……。ゆうちゃんの分まで頑張って生きるよ……」
「ゆうちゃん……!美由利……を……よろしく……うっ……」
3人とも黙祷しようとしたが、合わせるはずだった両手は、涙を受け止めるものにしかならなかった。
亜李さんに至っては、オルゴールのBGMが昨日の追悼劇を思い出すきっかけとなってしまったのだ。
午後10時10分
康太さん、弘樹さん、純さん、颯斗さんがとっくに帰った頃、涼太さん、健二さん、智和さんもお供えをしに来た。
亜李さん、雄馬さん、孝行さんは、3人に軽くお辞儀をした。そして、雄馬さんの車に戻って涼介さんの家に向かおうとしていた。
「もう夜遅いし、そろそろお供えしようか」
涼太さんは、シンデレラのキーホルダーをシンデレラのBIGぬいぐるみの前に置いた。
「そうだな……」
健二さんは、ピンクの服を着た女の子の妖精のキーホルダーをピンクのテディベアの前に置いた。
「あ、色違いだ……」
智和さんは、眠り姫のピンクのオルゴールをシンデレラの水色のオルゴールの隣に置き、早速ゼンマイを回した。
♪〜
「桃松さん、あの時は最低な漫画に夢中になっててごめんね……。本当は怖かったし痛かったんだよね?涼介くん……桃松さんをよろしくね……」
「桃松、俺は桃松に最低なことをした!本当にごめん……。涼介……俺はお前の上司にも酷いことをした……ごめん……」
「桃松さん……。僕は承認欲求のためだけに桃松さんを最悪な形で利用してしまった……!ごめん……!涼介……!君の上司にも謝りたいよ……ごめん……」
3人とも大粒の涙を流しながら黙祷した。
亜李さんの心を蝕んだ曲とは違うオルゴールのBGMが、ゆうちゃんだけでなく涼介さんの顔も思い浮かべさせてしまったのだ。
一方その頃……
大輝さんの車が涼介さんの家に向かって走っていた。
「みう、本当にゆうちゃんが大好きだったんだな。って、当たり前か……っ」
運転席にいた大輝さんは、涙を堪えながら助手席にいたみうさんに話しかけた。
「……っ!!!」
当然、みうさんは言葉にならない声で泣き続けていた。
「みうちゃん……元気出し……無理だよね。あんな言葉……考えただけで私、耐えられないよ……。美由利ちゃんも泣いているだろうな……」
「オレンジ人間とか本当に最低!ゆうちゃんもみうちゃんも可哀想!信じらんない!涼介くんも絶対あたしと同じこと思ってるよ!」
大輝さんだけでなく、後部座席にいた百乃さんと裕香さんもみうさんと全く同じ気持ちだったのは言うまでもない。
「どうしてあんなクソ野郎がいるんだろう……。ゆうちゃんは俺たちと同じように一生懸命生きていただけなのに……」
気づけば、大輝さんの涙がハンドルにいくつも落ちていた。
4人とも、ゆうちゃんが生前持っていたオレンジの手帳のことがどうしても頭から離れなかったのだ。