の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後10時30分
サニーショップにいたのは、遥さんと誠人さんだけだった。京子さん、桃香さん、秋奈さんは15分近く前にタクシーでそれぞれの家に帰ったからだ。
3人と別れた直後、遥さんは美由利さんのお供えをまだ買っていなかったことに気づいたのだ。
「美由利さんにも麦茶買おっか」
「そうだね」
遥さんと誠人さんは、ペットボトルの麦茶を同時に手に取った。ゆうちゃんと涼介さんのお供えとは、ラベルのデザインが違う。
2人ともすぐにレジへ向かおうとしたが、半額シールが貼られたお惣菜に足を止められてしまった。
「あ、これ車の中で食べよう……」
遥さんは、おかかおにぎりと昆布おにぎりを1つずつ手に取った。
「いいよ。半分ずつ食べようか……」
誠人さんが暗い顔で答えたその時、
プルルルルルルルル
遥さんに電話がかかってきた。
「あ、亜李だ。もしもし?」
「……遥。美由利のお供えは9人で行こうって言うの忘れてたの今気づいた……!もうお供えしちゃったかな?」
「ううん、今選んだところだよ」
「よかった……何にした?」
「ペットボトルの麦茶」
「なるほど、めっちゃ暑いもんね……」
「ところで、みうさんたちは?」
「涼介の家の前にいるよ……ウチらと一緒に……っ!」
「亜李?どうしたの?」
「……っ!みう……Aと同じくらい最低な元彼の顔見ちゃって……すごく泣いてたって大輝たちから……!」
「えっ、可哀想……。ただでさえゆうちゃんを失って苦しいのに……」
「ねえ!あの馬鹿、みうに向かってあの時なんて言ってたと思う?!」
「……え?もう興味ねえし飽きたから一生話しかけるな……?」
「……そう思うでしょ?実際はもっと酷いこと言ってたんだよ!」
「な……何?ブスとか死ねとか?!」
「お前が言ってたゆうちゃん……オレンジ人間だよな?そんなやつを親友にしてる女と付き合ってた自分が恥ずかしい……って!」
「何それ……。みうさんにもゆうちゃんにも失礼だしありえない……!」
「ゆうちゃんを殺して食べたのがAなら、みうとゆうちゃんに暴言吐いたあいつはBだよ!」
「そうだね……あ、私たちは先に美由利さんの家に行けばいいのかな?」
「……うん」
「亜李ちゃん、聞こえちゃったんだけど……」
誠人さんが割り込んできた。
「誠人……ごめん、嫌だったね……」
「亜李ちゃんじゃない。そのBって男が嫌。顔も何も知らないけど、Aと同じくらい大嫌い」
「誠人……!私も同じ気持ち……」
「だよね!Aが阿呆のAなら、Bは馬鹿のB!マジでウチが許さないんだから……!」
午後10時35分
「孝行くん。亜李にゃんと電話変わるから、その2つお供えしといてくれる?」
雄馬さんは、孝行さんに日の丸新幹線と特急サニーの鉄道模型が入った袋を渡した。
「はい……」
蚊の鳴くような声で返事をした孝行さんは、ゆっくりと中身を取り出してから涼介さんの家のドアの前へと向かった。
「あ、亜李にゃん代わるね。もしもし、遥ちゃん?」
雄馬さんが電話を代わった瞬間、亜李さんは小走りで孝行さんについて行った。
「あ……雄馬さん……!亜李から全部聞いたんです!ゆうちゃんは……ゆうちゃんは!」
「知ってるよ。聞きたくない言葉が聞こえちゃったからね」
「あ、雄馬さん。僕も辛いです……」
「俺もだよ。ゆうちゃんのオレンジの手帳拾ったの急に思い出しちゃった……」
「あ……。3年前に亜李とおひさまモールでデートした時ですよね……。亜李が送ってくれたゆうちゃんの写真、今も大事にしています……」
「あの時も桃松さん、ピンクのセーラーワンピ着てましたね……」
午後10時40分
「あれ……?誰がお供えしたのかな……?」
孝行さんは、王子様のキーホルダーと、青い服を着た男の子の妖精のキーホルダーを日の丸新幹線の鉄道模型に、白いテディベアを特急サニーの鉄道模型に乗せた。
「あ、孝行くん。その模型かっこいいね……」
「あたしたちはこれにしたんだ……」
百乃さんと裕香さんは、2本重ねたハンガーに掛けた銀色の勇者の衣装を涼介さんの家のドアノブに引っ掛けた。
みうさんと大輝さんは、3人の後ろで涙を流し続けていた。
「ありがとう孝行……。涼介、きっと喜ぶよ……」
亜李さんも静かに涙を流していた。
「あ、亜李ちゃん。みうちゃんのところに行ってきてあげて」
百乃さんは、亜李さんの耳元で優しく声をかけた。
「みうちゃん。悪いけど、亜李ちゃんと2人で黙祷してもらっていい?同じクラスにいた仲間がした方が涼介くんも喜ぶと思うから……」
裕香さんは、みうさんの背中を撫でながらそう伝えた。
「僕たちは後ろで見守ろう……」
孝行さんは、百乃さんと裕香さんの潤んだ目をじっと見つめていた。
「私もそうしたい……」
「あたしも賛成……」
午後10時45分
「……っ!伊東くん……ゆうちゃんをよろしく……ね……」
「涼介……昨日は……ありがとう……」
みうさんと亜李さんは、大粒の涙を流しながら黙祷した。
2人の後ろには、大輝さん、百乃さん、裕香さん、孝行さん、そして電話を終えた雄馬さんがいた。
5人は何も言わずに両手を合わせ、夜空に光る2つの星をじっと見つめていたのだ。
一方その頃……
信号待ち中、遥さんと誠人さんはサニーショップで買ったおかかおにぎりと昆布おにぎりを半分ずつ食べていた。
2つとも余分な塩気のせいで味が少し変わってしまったのは言うまでもない。
「ねえ、誠人……。美由利さんへのお供えを置くの……アイスクリームワールドでいいのかな?」
おかかおにぎりを持っていた遥さんは、誠人さんに尋ねた。
「そうだね、着いたら亜李ちゃんに電話するよ……」
昆布おにぎりを持っていた誠人さんは、信号を何度か確認しながらそう答えた。
信号が青に変わると、遥さんは無意識にスマホへ手を伸ばした。
「ゆうちゃん……。もしまだ生きていたら、何を食べていたのかな?」
なんとなくゆうちゃんのSNSのアカウントを見返そうとしただけだったのだが……
「何これ……!」
遥さんのSNSのタイムラインは、
Aはクソ女と抱き合ってる写真を、自宅に戻る前にSUVの中で撮ったの?!なんで私じゃなくてあのクソ女だったの?!
A様のセンスは最強!She was my best foodって星の言葉をスプーンに彫っちゃうなんて!
A様に抱き締められるとかめちゃくちゃご褒美じゃん!なのになんでゆうちゃん可哀想とか言う奴がいるの?
A様は例のスプーンを左目と血液のパフェを食べるために使ったらしい……オシャレ!
などといった本当にありえない投稿の嵐で汚されてしまっていた。それらは、ゆうちゃんの事件の特番を見た人たちの感想だったのだ。
「何これ……?星の言葉の投稿もいっぱいある……」
日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件は、とうとう隣の国のStar Worldに住む人たちにも知られてしまっていた。
Oh, no! A! Why did you die?
I hate Yu-chan because she turned A into a murderer!
Yu-chan is such a bad, ugly girl! Fuck!
A... I'll love you forever.
「どうして……どうしてそうなるの……」
遥さんは、スマホを持つ右手を小刻みに震わせていた……
プルルルルルルル
その時、誠人さんのスマホが鳴った。
「ごめんね誠人……」
遥さんは、運転席と助手席の間にあったレジ袋から誠人さんのスマホを左手でそっと取った。
「あ……もしもし?」
「遥……大丈夫?」
「……っ!ゆうちゃん……Star Worldでも貶されてたの……」
「そんな……!酷いよ……」
「でしょ……あ、あと、美由利さんへのお供えは……アイスクリームワールドに置こうと思ってる……」
「分かった、みうたちに伝えとくね……」
「ありがとう……」
遥さんは、誠人さんのスマホをペットボトルの麦茶が入ったレジ袋にそっと戻した。