の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月12日午後10時45分
「……え?もう11時前?」
赤竹さんはようやく目を覚ました。決して寝落ちしていたわけではない。
「何よ、この不在着信の数……。気持ち悪いわね……」
赤竹さんは、怪訝な顔をしながら着信履歴を見た。
誰に最初に折り返そうか迷った途端!
プルルルルルルル
いきなり電話がかかってきた。
「青木さん?とりあえず出ないと……もしもし?」
「副店長!あの……店長が……!」
「それはもう黄ノ山さんと金森さんからとっくに聞いたわ……」
「あ……分かりました……。まさか……こんなことになるなんて……っ!」
「そうよね……。桃松さんと青山くんのところに行ってしまうなんて……!あああ……」
「あ……あと、どうしましょう……。売れ残った商品やら……」
「……っ。そうね……本来は明日、私と店長の2人でなんとかする予定だったのよ……」
「……ですよね。ただ、片付けはするとして、建物だけはそのまま残した方がいいんじゃないかな……と私は思うんです……」
「えっ、どういうつもりなの?桃松さんがまた誰かに傷つけられるかもしれないのよ!それでもいいってこと?!」
「違います!むしろ逆です!建物がなくなると、桃松さんの事件や桃松さんたちとの思い出も全部なかったことにされるみたいで嫌ってことです!」
「そういうこと……?」
「はい……。あの嫌な貼り紙やらなんやらを大量のお花やお供えで埋め尽くしてしまえばいいのではないでしょうか?それに、優しい人たちも絶対いると思います!」
「分かったわ。悪いけど、明日ちょっと手伝ってくれるかしら?」
「今からでもやりたいです!家にいたら、私……もう辛くて耐えられません!無理言ってすみません!」
「……そこまで言うならそうしなさい。私も行くから……」
赤竹さんは涙目で電話を切った。
一方その頃、うさぎマーケットの自動ドア近くでは……
「ちょっと白谷さん、これ見てよ……」
金森さんは根ノ江南高校の卒業アルバムを指差した。
「やだ、どうしてこんなところに捨てられているのよ……」
白谷さんは震える手でそのアルバムを開いた。ページをめくればめくるほど、手の震えが激しくなったのだ。
「ああああああああああああああ!!!」
金森さんは思わず後ずさりし、白谷さんはアルバムを思いっきり自動ドアめがけて投げつけてしまった。
どのページが開かれていたかは、もはや説明するまでもない。
そして、金森さんと白谷さんは、真夏とは思えないほどぶるぶる震えながら抱き合った。
「どうして……!どうしてあんな酷いことをする人がいるの……?」
金森さんは白谷さんにそう尋ねた。
「知らないわよ、そんなの……っ!桃松さんが天国で見たらどう思うか……!青山くんだってきっと……!」
当然、白谷さんは質問に答えられなかった。
「そうよね……。あと……白谷さんも……そう思うわよね……」
金森さんは、55分前に赤竹さんに伝えたSNSの投稿をふと思い出してしまった。
「そうよ……!服装からして店長よ……!あと、あの女の人……絶対黄ノ山さんよね?」
白谷さんもあの投稿を既に知っていたようだ。
午後10時50分
「どうしよう、副店長に繋がらなかったな……」
藍谷さんは、裏口のドアノブをゆっくり回しながらそう呟いた。
ゆうちゃんのロッカーにお供えした大容量の桃味のこんにゃくゼリーと、青山さんのロッカーにお供えした大容量のソーダ味のキャンディを家に持って帰るつもりだったのだ。
「あのSNS……本当だよね……。店長まで……!そんな……もう辛いよ……っ……」
藍谷さんは泣きながら階段を上っていた。小走りで上りたかったが、足が思うように上がらない。
「確か、お供えって……持って帰らないといけないよね……っ。え……?あっ……!なんで電気……つけっぱなし……なの?」
涙声の藍谷さんは、独り言を言いながら休憩室のドアを開けた。
「……!いやああああああああああああああああああああ!!!!」
真っ赤に染まった床が藍谷さんを絶望に陥れた。
「え、待って……待って待って!いやっ!やだ……!やだああああああああああああ!!!!」
藍谷さんは、大急ぎでゆうちゃんと青山さんのロッカーへと向かった。
そして、大容量の桃味のこんにゃくゼリーと大容量のソーダ味のキャンディを取って休憩室から逃げ出した。
ゆうちゃんのロッカーにはピンクのマグネットフック、青山さんのロッカーには青のマグネットフックが悲しげに取り残されていたのだ。
その時だった。
「真理奈!大丈夫?!」
「ワンワン!ワンワン!」
真理子さんとチョコが、藍谷さんの元に駆けつけてくれた。
「お姉ちゃん!チョコ!!」
一方その頃……
「搬送されたの絶対店長だよな……。副店長に連絡したいのに繋がらねえ……」
10分前から日の丸コンビニにいた緑ヶ丘さんは、弁当やスイーツには目もくれず、スマホの発信履歴をじっと見つめ続けていた。
うさぎマーケットの裏口近くに救急車が停まっていたというSNSの投稿がどうしても頭から離れなかったのだ。
「おかしい。3回かけても出ねえなんてこと、今まであったか?……って、よく考えたらもう夜遅いよな……明日謝ろうか。仕方ねえ、とりあえずお茶買うか……」
緑ヶ丘さんが緑茶のペットボトルに手を伸ばそうとしたその時!
「あああああああああああああああ!!」
いきなり大声が聞こえてきた。
「誰だよ!ったく、うるせえな!……なんだ、赤森か。急にでけえ声出すんじゃねえよ……」
緑ヶ丘さんは驚きつつ呆れていた。
赤森さんも緑茶のペットボトルを取ろうとしていたのだ。
「すみません。ただでさえ店長のことで辛いのに……ああああ……」
手が震えてお茶を取れなかった赤森さんは、蚊の鳴くような声で謝った。
ちょうどその時、ゆうちゃんが聞けなかったAのあの曲がBGMで流れていたのだ。
♪〜ああどうして 罪のない
無垢な天使は殺されてしまうの?
ああどうして 罪深い
残酷な悪魔は笑ってるの?
ああどうして 人間は
神聖な天使を傷つけるの?
ああどうして この僕は
可愛い天使を守れなかったのだろう……
緑ヶ丘さんと赤森さんは、ペットボトル飲料コーナーの前で抱き合った。2人とも泣きたくてもうまく泣けなかったのだ。
午後11時
「お兄ちゃん、スイーツ選んだよ……え?」
赤森さんと一緒に来ていた彩音さんが、遠くから声をかけてきた。
彩音さんが持っていたカゴの中には、レアチーズタルトとカスタードシュークリームがそれぞれ2つ入っていたのだ。
「何やってんの……?聞いてる?ねえ……」
彩音さんは、はじめは何か勘違いしていた。
だが、緑ヶ丘さんと赤森さんの結露したペットボトルのような頬を見てからは、思うように言葉が出なかったのだ。
2人に近づきたくても、足がすくんで近づくことができなかったのは言うまでもない。
ちょうどその頃、茶山さんがスナック菓子コーナーの前を歩いていた。
「店長と副店長に閉店作業のこと相談したいのに、2人とも出ないなんて……」
黒田さんがもう日の丸の国にいないことをまだ知らない茶山さんは、玉ねぎチップスの袋を手に取ってそう呟いた。
さらに言うと、うさぎマーケットの裏口近くに救急車が停まっていたというSNSの投稿をまだ見ていなかったのだ。
「差し入れ買った方がいいわよね……。玉ねぎチップスと、他は何がいいかしら?」
茶山さんは、追加の差し入れをコーンスナックにするか、ポテトスナックにするか迷っていた。
「どうしましょう、決まらないわ……」
その時だった。
プルルルルルルルル
「あら、もしかして……。もしもし」
ほっと胸を撫で下ろした茶山さんは、赤竹さんからの電話に出た。
「茶山さん……!遅くなってごめんなさいね……」
「いえ。こんな時間に電話してしまって本当にすみません……」
「……っ!うう……!」
「……副店長?どうされましたか?」
「副店長、すみません!私、代わりますね!もしもし、茶山さん?」
「あら?どうして青木さんもいるの?」
「閉店作業を副店長と一緒にすることにしたからです……」
「そうなの?今から私もうさぎマーケットに行こうかしら」
「ありがとうございます……」
「ところで、店長は一緒にいないの?」
「亡くなりました……。知らない間に自殺してたって……っ!黄ノ山さんから聞きました……」
「そんな……嘘でしょ……!」
青木さんに残酷な真実を告げられた茶山さんは、スマホを床に落とし、玉ねぎチップスが入ったカゴを持ったままその場に倒れてしまった。