※この作品はR-18です。

【完結済】の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】   作:桃色ぴんく

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中盤〜後半辺りに流血および自傷シーンと若干の性描写が入ります。
ただし、これらの行為を肯定・助長する意図はありませんのでご安心ください。

また、メインタイトル の の意味はあとがきに書きました。


第140話(最終話)

7月13日午前3時30分

 

「……大輝。車検のこととか色々ありがとう……」

 

「どういたしまして……」

 

「……っ!ごめん、やっぱり家に来て……。見せたいものがあるの……」

 

「分かった!すぐ行くから!」

 

大輝さんは、5分前にみうさんからかかった電話を切った。

 

そして、『特急案件』と言いたげな足取りで家を出て、車に乗り込んだ。

 

「それにしてもあのクソ野郎……!漆黒のSUVで誘拐した時にゆうちゃんが28歳だって知ったんだな!」

 

大輝さんは、ドリンクホルダーを1発殴ってからエンジンをかけた。

 

「ったく、28歳の女の子が彦星様や王子様を夢見たっていいだろ……。ゆうちゃんはお馬鹿なお姫様じゃねえ、みうの次に可愛いお姫様だよ……」

 

午前3時45分

 

「ららら〜♪ららら〜♪この世界は〜♪本当に楽しくない〜♪この世界とは♪違う世界に♪行ってみたいの♪」

 

30分前まで涙の海にいたはずのみうさんは、なぜかお風呂に浸かって歌を歌っていた。

 

その歌声は、まるでカサブランカのように美しかった。一昨日涼介さんがいつの間にかみうさんの歌声だけでなく、みうさんの全てに惹かれてしまったほどだったのだ。

 

だが、みうさんの表情は、一昨日カラオケで歌っていた頃と同じものではなかった。

 

「ららら〜♪ららら〜♪私も素敵な恋をしたい♪」

 

歌うことをやめたみうさんは、『光』を失った目でシャンプーのボトルを見始めた。

 

本来、そのボトルの色はアメジストのように綺麗な紫なのだが、この時のみうさんには怪しい魅力を持った薬の色に見えてしまったのだ。

 

「……え?夢を叶えたければ条件があるの?……どんな条件でも受け入れるわ」

 

みうさんは、両手でお風呂の縁を掴んでゆっくりと首を置いた。

 

そして、唇を噛み締めながらお風呂の縁に何度も首を叩きつけた。

 

切れた皮膚がルビー色に染まろうと、アメジスト色の大きな痣ができようと、声が本当に枯れてしまおうと、骨が折れたように激しく痛もうと……!

 

ちょうどその頃……

 

ピンポーン

 

大輝さんがみうさんの家の玄関チャイムを1回だけ押した。

 

当然、みうさんはドアを開けてくれなかった。

 

だが、大輝さんは取り乱すことなく合鍵を取り出した。それは、みうさんが昨年のクリスマスにプレゼントしてくれた宝物だったのだ。

 

「持ってきてよかった!」

 

大輝さんは合鍵でドアを開けた。

 

「みう?!みう!見せたいものって何?!」

 

みうさんの家に入った途端、大輝さんはさっきまでの冷静さを完全に失い、みうさんの部屋へ向かって走り出した。

 

大輝さんの足は、みうさんがいる場所からどんどん遠ざかってしまうのだ……

 

「みう?!どこ?!みう!!あれ?!いない?!おい!いるなら返事しろよ!」

 

大輝さんは、今までみうさんに向けたことがない荒々しい声で叫んでしまった。

 

「どこにいるんだよ!俺はここにいるから!なあ!!みう!!」

 

その時だった。

 

バンバン!バンバン!

 

突然大きな音が聞こえてきた。

 

「え?!みうなのか?!」

 

大輝さんは、『特急案件』と言いたげな足取りで音のする方向へと向かった。

 

「今行くから!」

 

午前3時50分

 

大輝さんがお風呂のドアを開けた。

 

そこにいたのは、人魚姫の衣装を着たみうさんだったのだ。

 

「おい、見せたいものってそういうことかよ……」

 

大輝さんは、幼い頃からの夢を叶えたみうさんを見て素直に喜べなかった。

 

可愛い、綺麗、本物みたい。本当はそう言いたかったのだが、大好きなみうさんの首の傷や痣がそれを許してくれなかったのだ。

 

「みうのそんな姿……見たくねえよ……」

 

大輝さんの涙声を聞いたみうさんは、何も言わずに衣装を脱ぎ始めた。

 

「みう……どうしたんだよ……おい……」

 

大輝さんの嘆きはみうさんには届かなかった。

 

それどころか、みうさんは右手に人魚姫の衣装を持ったまま湯船から出て、虚ろな目のままバスチェアに座りだしたのだ。

 

「なんだよ急に……」

 

戸惑う大輝さんの目の前で、みうさんはぎこちなく足をパタつかせた。

 

「俺のこと……求めてた……のか?」

 

大輝さんはみうさんを優しく抱き寄せ、残酷な真実から逃げようとした。

 

「みう。愛してる……」

 

そして、耳元で愛を囁きながら首筋にそっとキスをし、太ももを指先でゆっくりと撫でた。

 

「俺の宝物だから……みうは……」

 

大輝さんは、唇、耳、指先などにも甘いキスをし続けていた。

 

みうさんは身体が熱く火照っていたのだが、サファイアよりも美しい声で喘ぐことはもうできなかったのだ。

 

「……あ」

 

左手の薬指にそっと触れた瞬間、指先ではなく胸の奥に強い痛みを感じた。

 

「大事にしてくれたんだな……ごめん」

 

大輝さんは、目を逸らしながら真っ赤に染まった唇を舐めた。

 

7月8日の夜までだったら10秒も経たないうちに全てを脱ぎ捨てていたが、今日だけは赤い半袖Tシャツ1枚すら脱ぐことができなかったのだ。

 

大輝さんの目は、いつの間にか『光』を失ってしまった。

 

そんな大輝さんの姿には目もくれず、全てをさらけ出したままのみうさんは、濡れた身体のままどこかへ去っていった。

 

「あ……みう……」

 

この時の大輝さんは、走るどころか歩く気力さえ失っていたのだ。

 

午前4時

 

みうさんが今にもふらつきそうな身体でキッチンからお風呂へ戻ってきた。

 

右手にキッチンバサミを、左手に柄を食器拭き用のタオルで包んだ包丁を握っていたのだ。

 

みうさんは、包丁を自分の後ろにこっそり隠し、ピンクのバスマットの上に座った。

 

「おかえり……」

 

大輝さんはそれしか言えなかった。

 

ただいまのたの字も言えないみうさんは、キッチンバサミで髪の毛を切り始めた。

 

気づけばバスマットが徐々に黒く染まっていった。まるで、7月7日に悲惨な最期を遂げたゆうちゃんと同じように……

 

「お……おい……。み……う……」

 

大輝さんはみうさんを止めようとしたが、足がすくんでまともに動けなかったのだ。

 

午前4時10分

 

みうさんの綺麗な黒髪ショートボブは、とうとう不格好なカツラのようになってしまった。

 

だが、みうさんは全く涙を浮かべなかった。それどころか、キッチンバサミをバスマットに下ろし、隠していた包丁を両手で強く握ったのだ。

 

「み……う……?」

 

いつの間にか目に涙を浮かべた大輝さんは、声を震わせながら後ずさりしようとした。

 

みうさんは、小刻みに震える両手で大輝さんの胸を刺そうとした。

 

「……っ!本当にごめん……!最低だよな……俺」

 

大輝さんがバツのジェスチャーで胸元を隠したその時!

 

みうさんは、包丁の向きを変えてその場に倒れ込んでしまった。そして、最後の力を振り絞って自分の右胸をそっと刺した。

 

午前4時20分

 

みうさんの命の灯火が泡となって消えてしまった。

 

「あ……ああああああああ!!!」

 

美しい『海』が、悍ましい『三途の川』へと変わってしまったのは、もはや説明するまでもない。

 

大輝さんの目の前に、いつの間にか食器拭き用のタオルが落ちていた。その真っ白なタオルには、ピンクと青の花がたくさん描かれていたのだ。

 

「みう……!ごめん……ごめん!!!」

 

大輝さんは、本来描かれていない赤い『花』も描かれたタオルを手に取った。

 

「俺を許s……あ!」

 

悲しいことに、みうさんが叶えられなかったもう1つの夢に気づいてしまったのだ。

 

「みう……そうだったのか……」

 

絶望した大輝さんは、変わり果てた姿のタオルを三角に畳み、みうさんの左手に添えた。その後、みうさんの右胸から抜き取った包丁の刃先をじっと見つめた。

 

「俺がその夢……叶えねえとな……」

 

そして、みうさんとお揃いの場所を強く刺した。

 

「ゆうちゃん……待ってろ……」

 

最後の力を振り絞った大輝さんは、蚊の鳴くような声でそう呟いた。

 

もう心以外の痛みを感じることはなかったのだ。

 

午前4時30分

 

みうさんと大輝さんは、遂に結婚式の会場を決めることができた。

 

みうさんのもう1つの夢を叶えられる唯一の場所に……

 

午前9時30分

 

この時間は、かつてうさぎマーケットの開店時間だった。

 

その建物の前には、赤竹さん、茶山さん、金森さん、白谷さん、青木さん、緑ヶ丘さん、赤森さん、チョコを抱いた藍谷さん、そして茜ちゃんを抱いた黄ノ山さんがいた。

 

特殊清掃の人への挨拶を済ませた後も、なお涙を堪えきれない9人の大人たちは、真夏の空を見上げながらゆうちゃん、青山さん、黒田さんたちの幸せを祈っていた。

 

その時、午前1時30分過ぎに閉店作業を終え、帰る前にみんなで分け合って食べた桃のケーキの甘みが、ふと蘇ったのだ。

 

1匹の犬はパタパタとしっぽを振り、1人の赤ちゃんはキャッキャと笑っていたのだ。

 

その頃、おひさまファッションビルの電光掲示板は相変わらず最悪なニュースを映し出していた。

 

 

続いてのニュースは〜♪

 

月曜日なのに学校や仕事に行けない人がいっぱい!Aロス現象〜♪

 

日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件の犯人であり、大人気歌い手だったAの死を受け入れられないたくさんのファンたちによるこの現象!

 

それが原因で学校が休校になったり、お店とかが臨時休業になったり、公共交通機関にも影響が出たり……

 

うーん、気持ちは分かるんだけどね……

 

あと、SNSなんとなく見てたらこんなコメントが……

 

ゆうちゃんをクソ女って呼ぶのやめようぜ!ゆうちゃんは日の丸の国を救ったんだから。だって、Aがゆうちゃんに出会わなければ他の誰かが食べられたかもしれないだろ?

 

ねえ、どう思う?

 

 

七夕の日にゆうちゃんが犯したたった1つの過ち。

 

その代償はあまりにも大きすぎた。

 

だが、ゆうちゃんは何も悪くない。

 

運命の彦星様との出会いを夢見ていただけの、世界一無垢な織姫様だったのだから……




最後まで読んでくださってありがとうございました✧(*,,ÒㅅÓ,,)✧

メインタイトル の は、ゆうちゃんの命を守る方法。つまり、いかのおすしの の(のらない)という意味です(。>ㅿ<。)

このお話はフィクションです。しかし、知らない人の車に乗ることは危険が伴うということ、だからといって被害にあった方を責めてはいけないということは紛れもない事実です。

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