の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月9日午後2時
黒田さんとゆうちゃんのお母さんは、1階にあるレストランハッピーに来ていた。このレストランは、老若男女に愛されるファミリーレストランだ。
2人はとりあえず空いているテーブル席にゆっくりと座った。
「……っ。ここはゆうと2人でよく来ていた思い出の場所なんです……」
ゆうちゃんのお母さんは左手に持った桃色のレースハンカチで顔を隠しながらメニュー表を見ていた。そのハンカチは、ゆうちゃんが母の日にプレゼントしてくれたものだ。それが、娘から受け取る最後の贈り物になるとは、その時は知る由もなかった。
「そうでしたか……。僕もこの店は好きなのですが、もし辛くなったら遠慮なく言ってくださいね……。あと、お金は僕が出しますので安心してください……」
黒田さんもメニュー表を見る時、左手に持ったシンプルな黒のハンカチで顔を隠していた。
「ありがとうございます。むしろここにいたいです。あ……ゆうっ……あああっ……うう……」
「大丈夫……ではなさそうですね……。けど、何も食べずに飢え死にしてしまうと桃松さんもきっと悲しみますから……」
黒田さんは、今の言葉選びで本当によかったのか、と心の中で自問自答しながら、右手でゆうちゃんのお母さんの手をそっと握っていた。
そこから少し離れた別のテーブル席には、金森さん、白谷さん、黄ノ山さんがいた。
「大丈夫?少しは楽になったかしら?」
金森さんと白谷さんは2人同時に黄ノ山さんに声をかけた。
「はい、ありがとうございます。私ひとりだったら何もできませんでした……」
黄ノ山さんはレモンスカッシュを飲みながら答えた。金森さんと白谷さんはオレンジジュースを飲んでいた。
「ねえ白谷さん、不思議よね。いつものエビフライセットが今日はなんか味が違う気がしたわ……」
「そうよね。私も同じこと思ったわ……。あ、黄ノ山さんもそう思わない?」
「私もそう思いました……。味付けは前と変わってないはずなのに、どうしてですかね……」
3人とも同じメニューを頼んでいて、その後は喉の渇きと心の痛みを打ち消そうとドリンクバーに集中していた。
「あ、飲み物取ってくるわね。ウーロン茶でいいかしら?」
金森さんは空になった3つのガラスのコップを持っていた。
「ありがとう。お願いね」
「ありがとうございます。お願いします」
白谷さんと黄ノ山さんは暗い顔でそう言った。
くまさんのおうちにいた頃の微笑みが3人に戻ることはなかった。
午後2時10分
「あれ?金森さんもドリンクバー頼んだの?」
「店長……!」