の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月9日午後2時15分
ゆうちゃんのお母さんはなかなか席に戻ってこない黒田さんを待っていた。
「場所が分からなかったのかしら?」
ドリンクバーコーナーに向かうゆうちゃんのお母さんの足は鉛のように重かった。
ドリンクバーコーナーでは、店長と金森さんが真剣な顔で会話をしていた。
「店長……。やっぱり桃松さんはもう二度と……」
「ああ。そうなんだよ……。警察にあの恐ろしいスプーンのDNA鑑定をお願いしたんだ。まだ鑑定中だけど、お母さんの元に実物が届いたって……」
「そんな!!」
「僕も同じ気持ち……いや!僕だけじゃない……」
黒田さんと金森さんは飲み物を片手に涙を浮かべていた。
「あら店長。偶然ですね……」
なかなか席に戻って来ない金森さんを心配した白谷さんが合流した。
「あ……店長お久しぶりです」
もちろん黄ノ山さんも一緒に来た。
「まさか君たち3人もここに来ていたとは……。こんな偶然はなかなかないよ」
「ですよね。あ、白谷さんから聞きましたが、うさぎマーケットは当分臨時休業……。びっくりしましたよ」
「そうだね……。警察との対応があるからね……。鑑定結果は最短でも7月11日にならないと出ないらしい……」
「そうですか……。金森さんにうさぎマーケット臨時休業って今朝伝えたら、え!何があったの?!って反応だったんですよ……」
「え、そうなんですか?すみません。私、育休中で全く見ていませんでした……。今知りました……」
そこに、黒田さんを探していたゆうちゃんのお母さんが来た。
「あら?お知り合いですか?」
「いえ。桃松さんの職場仲間ですよ。金森さん、白谷さん、育休中の黄ノ山さんです。」
「娘がお世話に……ああああああ!」
娘という言葉を口にしてから、ゆうちゃんのお母さんの涙はとうとう止まらなくなってしまった。
一方その頃、めるへん♡らんどでは……
「藍谷さん!緑ヶ丘さん!あれ?いない……。どこ……?」
赤森さんは、普段なら絶対に行くことのないメルヘンチックなお店で心が折れそうになっていた。
売られている服がどれもゆうちゃんを連想するようなものばかりだからかもしれない。もちろんピンクのセーラーワンピはとっくに完売しているが。
そこに、藍谷さんに声をかけた22歳の女性店員さんが通りかかった。
「いらっしゃいませ〜。って、お兄ちゃん?!どうしてここに?!」
「えっ、彩音ここで働いてたんだ……。なんで俺に教えてくれなかったんだよ……」
その店員さんは赤森さんの妹だった。2人ともひとり暮らしであまり連絡を取り合っていなかったのだ。
「ごめん忘れてた〜。って、お兄ちゃんどうしたの?!何があったの?!」
彩音さんは赤森さんの涙にかなり動揺していた。
「後輩の桃松さんが…、男に殺されて食べられたんだ……。あと、ここにいるはずの先輩の緑ヶ丘さんと後輩の藍谷さんがいなくて……。2人とも桃松さんの死をすごく悲しんでた。特に藍谷さんは桃松さんと年が近いから……」
「え!もしかしてSNSでめっちゃバズってるうさぎマーケットの店員の桃松ゆうちゃんのこと?!あれガチなの?なんかごめん……」
「彩音は悪くないから……。俺がまだ太陽都でプロデビュー目指して路上ライブしてるって思ってたもんな。21歳の時、ミュージシャンの道を諦めて根ノ江市に戻ったことは内緒にしてって親に伝えてたから……」
赤森さんは震えた声で彩音さんを許した。
「なんで内緒にすんのよ……」
彩音さんは呆れていた。
「あ!そういえばちょっと前にめっちゃ泣いてる茶髪のポニーテールのお客さんに声かけたよ。Beautiful flowerのワンピースが入った紙袋とうちの商品3つも入った紙袋の2つ抱えてた。もしかしてその人が藍谷さん?ごめん。緑ヶ丘さんは知らない」
彩音さんは、45分ほど前の出来事を赤森さんに教えた。
「ありがとう……。あ、仕事終わったら連絡して……」
赤森さんは彩音さんに見せた涙を完全に引っ込めることはできなかった。