の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月9日午後5時30分
赤竹さんは、おひさまランドの中にあるミニ遊園地のメリーゴーランドに一切笑みを浮かべることなく乗っていた。
スタッフのお兄さんの明るい声につい体が引き寄せられ、無意識に右手が赤い長財布へと伸びてしまっていた。
当然、メリーゴーランドの明るくて楽しげなBGMがここまで似合わないお客さんは赤竹さんが初めてだった。
「メリーゴーランド〜♪まだまだ〜♪回りっ♪まっすっよ〜♪」
お兄さんは楽しい歌を歌うような喋り方だったが、赤竹さんはあの『メロディー』を脳内で響かせることしかできなかった。
一方その頃……
赤竹さんを探していた青木さんは、数多くのプリクラの機械の近くにいた。
「副店長もこれ好きだったなんてちょっと意外ね。一体いつ買ったのかしら」
青木さんは、右手に持った赤竹さんのストラップと自分の白いバッグの持ち手に付けられたストラップを交互に見つめていた。
青木さんのストラップは、熊型の青い文字入れストラップだ。そこには白い平仮名で6文字のパーツがはめられている。
「青木雅恵って私の名前入れるの楽しかったわ……。って思い出話は後!今は走らなきゃ!」
一方その頃、めるへん♡らんどの近くでは……
ゆうちゃんのことを思い出して泣き疲れた茶山さんは、30分ほど前からソファで死んだように横たわっていた。
茶山さんの目の前には、なりきり桃松ゆうちゃんが何十人も通っていた。
彼女たちは、どうすればゆうちゃんと同じようにパッと見では王子様にしか見えない男に食べてもらえるのか、悪意の無い究極の乙女心で真剣に妄想していたのだ。
さらに、その他大勢までもが例のSNSのスプーンの再現方法などの本当によくわからん会話を楽しんでいた。
午後5時40分
「あら。寝ていたのね私……」
茶山さんはゆっくりと目を覚まし、スマホを開いた。
「やだ。もうこんな時間……。とりあえずお店の人に緑ヶ丘くんたちを探していることを伝えなきゃ。そうすればきっとあの3人は見つかるはずだわ……。副店長や金森さんたちの場所は分からなくても……」
まだ目に涙がほんの少し残っている茶山さんは、めるへん♡らんどの店内に戻った。
グレーのバッグの持ち手に付けられたうさぎ型の茶色い文字入れストラップはゆらゆらと揺れていた。
そのストラップは、白い平仮名で7文字のパーツがはめられている。
「お姉さん。ちょっといいかしら?」
「はい」
呼びかけに応じた店員さんは彩音さんだった。
「ごめんね。実は、職場の後輩の緑ヶ丘くん、赤森くん、藍谷さんを探してるの。悪いけど、放送で呼び出してくれるかしら?」
茶山さんが思いがけない人を探していたことを知り、彩音さんはこう言った。
「え!すぐ連絡します!あ、お客様。念のためお名前をお願いします!」
「茶山優美よ」
「茶山優美様ですね!少々お待ちください!」
プルルルルルル
「あれ?彩音どうした?」
「お兄ちゃん!今どこ?」
「おひさまモールの1階だけど……?」
「あのさ、職場の先輩の茶山さんって人がお兄ちゃんたちのこと探してるらしいの!緑ヶ丘さんと藍谷さんもいるなら今すぐ一緒にめるへん♡らんどに来て!」
「分かった。黄ノ山さんもいるから俺たち4人ですぐ行く!」
「ありがとう!待ってるから!」
赤森さん兄妹は同時に電話を切った。