の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月10日午前9時
「ゆうさんのお母さん、あいつのせいでかなり精神的に参っているみたい。だからちょっと遅れるって……」
「だよな。僕から見ても悪魔でしかない。しばらくは黒田さんとのやり取りだけになりそうだな……。お母さん、水分とかちゃんと取れているのかな?」
下田さんたちはそう呟いた。2人とも男を一刻も早く捕まえようと必死だったが、それ以上にゆうちゃんのお母さんの無事を祈っていた。
「……?あれ?黒田さんもいない……」
1人目の下田さんはうさぎマーケットのバックヤードの異様な静かさに違和感を覚えた。
「とりあえず、もう例のSNS解析しちゃっていいよね?誰かに通報されたわけじゃないけど……」
2人目の下田さんは例のSNSの投稿主を特定しようと考えた。
「そうだな。ゆうさんのためと伝えれば、拝郷さんたちもきっと分かってくれるだろうし」
「そうしよう。あ、でもその前に聞き取り調査の続きしないとだな」
「それにしてもあのSNSさ、いつ見ても気分悪いよ。あたしも男に食べられたいとか、俺も食べちゃいたいなとかさ。そういう変なコメントばっかりだから。ゆうさんやゆうさんのお母さんの気持ち全然考えていないんだろうな」
「そうだな。人が1人亡くなっているっていうのに、スプーン欲しいとか映画化して欲しいとかさ……。僕には理解できないよ。不謹慎にも程があるし、本当に許せないよ」
下田さんたちは本当に世も末な例のSNSのコメントに呆れながら、黒田さんを探しに外に出ることにした。
午前9時10分
「えっ?!黒田さん大丈夫ですか?!」
黒田さんは完全に気を失っていた。
「絶対これのせいだ……。まさか、これもあいつの仕業か?!」
「いや、違う!筆跡からして何人もの人たちが貼ったんだよ……。男の手下か誰かか?それとも……」
下田さんたちは呆れながらも1枚ずつ貼り紙を剥がした。だが、貼り紙の数は思ったより多く、1枚剥がせばまたもう1枚よくわからん貼り紙が顔を出すのだ。
I want to be his best food♡
営業再開したら例のスプーンの取り扱いお願いします!
ゆうちゃんの肉も売ってください!食べてみたいです!
などなど、本当に世も末だ。
一方その頃……
藤田さんは根ノ江駅の前で必死に聞き取り調査をしていた。
「すみません!この男を見ませんでしたか?」
「見ていません……」
「ありがとうございました……あ!すみません!この男をどこかで見かけませんでしたか?」
「見てないです……というか私が聞きたいくらいです。私もイケメンに会いたいですよ……」
「あ……あはは……。すみません、僕も分からないんです……。ありがとうございました……」
こんな感じで、藤田さんはたくさんの人に質問したが、帰ってくる答えは同じだった。
あっという間に午前10時
「はぁ……時間帯が悪かったのかな?それか、僕がまだまだひよっこだから……?」
藤田さんは心が折れて、その場にしゃがみこんでしまった。快晴なのに、真夏のアスファルトは藤田さんの周りだけが雨が降ったかのように濡れていた。
「……っ。僕はやっぱり向いていないのかな?昨日ピンクセーラーの集団を前に何も出来なかったこと……拝郷さんたちに何やってるのって叱られたし……」
藤田さんがシンプルな緑のハンカチを取り出したその時、手伝いに来ていた浅川さんが声をかけた。
「仕方ない。君はまだ若いから。それに、あの悪魔は誰にも見つからないよう必死に動いていたんだろう。けど、ここで諦めたらゆうさんにもゆうさんのお母さんにも失礼だと思うよ。ほら、もう少し頑張ろう」
浅川さんは、藤田さんの右肩にそっと自分の右手を置いて励ました。
「は、はいっ!ありがとうございます!もう少し頑張ります!」
「そうだ、その意気だ。俺もいるから安心しな!」
藤田さんと浅川さんは、今度は根ノ江駅の中に入って聞き取り調査をすることにした。
一方その頃……
拝郷さんと風雅さんは、根ノ江駅の防犯カメラの映像を警察署でチェックしていた。
「綺麗ね……」
「今それどころじゃないですよ!」
拝郷さんは揺れる大きな笹と短冊に一瞬心を奪われてしまったが、風雅さんの必死の制止でなんとか気持ちを切り替えられた。
「私としたことが、ごめんなさい。ゆうさんとあの男いた?」
「いません……。似たような黒い半袖Tシャツの人はいますが、顔が全然違います……」
「そうね、ゆうさんもいないわね……。なんならピンクのセーラーワンピを着た女の子が誰もいないのよ……。もしかして、駅に着く前に誘拐されたんじゃ?!」
「誘拐?!ゆうさんはもう28歳ですよ!」
「子供だけの問題じゃないのよ!若い女性の連れ去り事件だってあるでしょう?よく考えてものを言いなさい!」
「そうでした……すみません……」
「本当に気をつけなさい」
拝郷さんと風雅さんは、絶対に手がかりを得られない防犯カメラの映像を隅から隅まで念入りに確認した。