の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月10日午後4時
おひさまファッションビルの3階にある休憩スペースは、たくさんの若者たちで埋め尽くされていた。みんな例のSNSを意識した格好だったのは言うまでもない。
赤のベンチに座っていた2人組の若い男性が、スマホの画面をニヤニヤしながら見つめていた。そこに映し出されたのは、真っ白なお皿に盛り付けられたゆうちゃんのファンアートだ。
「なあなあwゆうちゃんのこの絵wマジ最高じゃね?」
「それなw実物と同じで大して可愛くねえけど、それが逆にそそるんだよなwww」
「涙目で助けを求めつつ顔真っ赤なのが最高にいやらしいよなw」
「だよなw俺もゆうちゃん食いてえw」
「どっちの意味だよwハッキリ言えよw」
「性的な意味に決まってるだろ馬鹿w犯罪者にはなりたくねえよwww」
2人とも公共の場にいることを忘れて大声で笑っていた。
青のベンチに座っていた別の2人組の若い男性も似たようなファンアートをスマホで見ていた。彼らは内緒話をするかのような声で気味悪く笑っていた。
「マジ最高だよな。裸のゆうちゃんがピンクのリボンで拘束されてるやつ。ふふふ、たまんねえなぁ……」
「おま、ドSかよw俺はそういう趣味はねえな」
「素直になれってw昨日これでオナニーしただろw」
「してねえよw俺がオカズにしたのはこれだよ。ゆうちゃんの女体盛りさ。おいしそうだろ?刺身もだけどゆうちゃんもまとめて食いてえよな?」
「ちょ、怖えよw俺より性癖やべえじゃねえかよw」
「え?普通じゃね?ゆうちゃんの肉めちゃくちゃ柔らかそうじゃん。俺もイケメンになりたかったな〜!」
2人とも考えただけで吐きそうな会話を楽しんでいた。
黄色のベンチに座っていた3人組の若い女性が笑顔で自撮りや加工を楽しんでいた。
「見て見て!この落書き最高だよね?」
「可愛い!星の言葉でI'm your best food♡とか超センスある〜!私は赤いペンでケチャップ風にするのが精一杯だよ〜!」
「え!それはそれでありよりのあり!私は日の丸の言葉で、あなたのメインディッシュです♡って書いちゃった〜!キャー!恥ずかしい〜!」
「ゆうちゃんガチで羨ましいし悔しい〜!私の方が絶対可愛いしおいしいのに!」
「まあまあ、豪華にケチャップデコしたらきっと来てくれるって〜!」
「私たち3人まとめておいしく食べられるならどんな料理がいいのかな?甘いキスされてうっとりしてる隙にステーキにされちゃうのかな〜!」
3人ともゆうちゃんの体と心の痛みに全く気づいていなかった。
3階の休憩スペースは、恋バナや推しの話などを楽しむ若者たちの憩いの場から、本当によくわからん行為を楽しむ若者たちの溜まり場に成り下がってしまったのだ。
一方その頃、おひさまファッションビルの1階にある休憩スペースでは……
遥さん、誠人さん、亜李さんは大量のお菓子を手に持ち、死んだ目でオレンジの長いベンチに座っていた。
「遥、誠人……。ごめん……。そういうことだよね……」
亜李さんは小声で謝った。
「亜李は何も悪くないよ。悪いのは全部ゆうちゃんを殺したあの男だから……」
「遥の言う通りだよ。亜李ちゃんが謝ることない。桃松さんと同じように、亜李ちゃんが食べられるのも嫌だよ。っ!ああ……僕の遥も食べられたらと思うと……!」
遥さんと誠人さんは、泣きながら亜李さんをじっと見つめた。亜李さんは手を震わせながらひまわり柄のハンカチで2人の涙を必死に拭こうとした。
「泣かな……あ、無理だよね……!」
1階の休憩スペースには、オレンジの長いベンチが5つあった。だが、3人の悲しみの声は残り4つのベンチに座る若者たちには全く届かなかったのだ。