の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月10日午後9時
1人の若い男性がおひさまスーパーのお惣菜コーナーを歩き回っていた。
この時間に売れ残っていたのは、筑前煮が2つ、揚げナスの煮びたしが1つ、エビチリが2つ、そして塩むすびが1つ。どれも半額シールが貼られていた。
おことわり
以下のお惣菜は、都合によりしばらく販売を中止させていただきます。
オムライス
カレー(甘口・中辛・辛口)
ハヤシライス
チャーハン
茶碗蒸し
お客様にはご迷惑をおかけし申し訳ございません。
と書かれた大きな貼り紙が近くにあったのは言うまでもない。
「あっ、ラッキー。てか都合って絶対例のSNSじゃん」
男性は、半額シールが貼られた塩むすびとエビチリを1つずつ手に取り、そっとカゴに入れた。
午後9時10分
セルフレジで会計を済ませた男性は、近くのベンチに座ってスマホのロックを解除し、SNSを開いた。
「お?このスプーンクオリティ高いな。そりゃ3万いいねつくよな。すごいな。あ、このなりきり桃松ゆうちゃんの自撮り可愛いな……。え、桃……松?!ゆうちゃんってもしかして副店長の娘だったんじゃ?!」
一昨日の昼に何気なくやったことが、頭の中を走馬灯のように脳裏をよぎった。
「いやいや、たまたま同じ名字なだけだよな……。うん……」
ゆうちゃんのお母さんの部下は、震える右手でスマホを胸に強く押しつけた。
一方その頃、亜李さんの家では……
「みう……」
大輝さんの目は、いつも以上に熱い炎を宿していた。
「大輝?」
もう泣かなくなったみうさんは大輝さんをじっと見つめた。心臓の鼓動はまだほんの少し速いままではあるが。
「もう最愛の姫なんて呼びたくない。みう、これからは、あなたを最愛の女王様と呼ばせてください!」
大輝さんは突然みうさんの前に跪き、青い小さなケースをそっと開けた。
「……っ!!!」
みうさんはまた大粒の涙を浮かべた。ケースの中には、炎より真っ赤なルビーの指輪が入っていた。
「一生俺のそばにいて欲しい。みう!俺と結婚してください!」
大輝さんの声には、太陽よりもずっと熱い想いが込められていた。
「は、はいっ!!!!」
みうさんは号泣し、思わず大輝さんに抱きついた。
「大輝やば〜!ウチの期待をサラッと超えてくんじゃん!よかったね〜!昨年みうにおひさマッチング勧めた甲斐があったよ〜!」
恋のキューピッドをやり遂げた亜李さんは、みうさんの背中をバシッと力強く叩いた。
「あはは。そういえば亜李もそのマッチングアプリで雄馬さんに出会ったんだよね」
「ふふ。おひさマッチングで出会ってないのは僕と遥だけか」
遥さんと誠人さんはお互いの真っ赤な顔をじっと見つめながら微笑んだ。
「正解〜♪って、アンタたちは元々根ノ江南高校のクラスメイトだからアプリいらないでしょw何言ってんのwww」
亜李さんはお腹を抱えて笑っていた。
「恋愛の形は人それぞれだもんね。俺は亜李にゃんって呼ぶけど、誠人くんは遥にゃんって呼ばないみたいにさ。ま、こんなどうでもいい話は終わり!俺もう33歳だよね?いい加減亜李にゃんの彼ピを卒業して、亜李にゃんのダーリンになりたい!」
雄馬さんは黄色の小さなケースをそっと開けた。
「え……?!雄馬にゃん今なんて?!」
亜李さんは彼氏からの思いがけない言葉に動揺しながら聞き返した。
「だから〜!亜李にゃんのウエディングドレス姿をそろそろ見たいってこと!」
ケースの中には、蛍光灯のリングよりもずっと眩しく輝くダイヤモンドの指輪が入っていた。
「ちょ、え?!嘘でしょ?!待って……。ウチも雄馬にゃんのタキシード姿見たいって思ってたの……!ああああっ!!!」
亜李さんはみうさんと全く同じ意味で号泣した。
「亜李、みうさん。2人ともおめでとう……。私すごく嬉しい。……っ、ううっ……。ゆうちゃん、天国で本当の王子様と結婚して幸せに暮らしているかな……?」
遥さんは2人の幸せをとても喜んでいたが、蛍光灯のリングがゆうちゃんの姿を思い出させた。
「ありがとう遥。ゆうちゃんは今頃白馬の王子様と天国オリジナルのアイスクリーム一緒に食べていると思うよ」
「ちょっと遥、泣かないでよ……。ウチの予想では、ゆうちゃんは今頃めっちゃ可愛いウエディングドレス着てるんじゃないかな?たくさんの天使たちが王子様との結婚をお祝いしてくれてると思うよ!」
みうさんと亜李さんは、ほんの少し泣きながらも遥さんを必死に慰めた。
「ゆうちゃんに直接会えなかったのは悲しいけど……。でも、俺たちの心の中にゆうちゃんはずっといる!ゆうちゃんは俺たちが笑っていた方が嬉しいって!絶対!」
「え?大輝くんそうなの?俺も片手で数えられるくらいしか会ったことないけどね……。ま、俺らにできることはゆうちゃんの分まで精一杯生きることだけかな」
大輝さんと雄馬さんは、涙を堪えながら天井に目をやった。
だが、誠人さんだけは下を向いてぶるぶる震えていた。それどころか、言葉を話そうにも唇が震えて思うように声が出せなかったのだ。
「誠人どうしたの?」
なんとか涙を堪えた遥さんは、心配そうに誠人さんを見つめた。
「……っ。は……はる……か……。ごめん……。ゆ……指輪……僕……用意……して……ない……っ。」
誠人さんはついに耐えきれず涙を零した。
「嘘でしょ、アンタ何してんの……」
亜李さんは呆れていた。
「なんだ、そんなことか……。てっきりゆうちゃんのこと思い出して心が苦しくなったのかと思ったよ。ありがとう、誠人。あ、あのっ……!明日……。っ、一緒に……!」
遥さんは、みうさんの指輪のように真っ赤になった顔をそっと両手で隠した。