の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
残虐行為を肯定、助長する意図はありませんので、ご安心ください。
7月10日午後10時30分
おひさまホテルの部屋にいたゆうちゃんのお母さんは、スマホの画面を見つめずにはいられなかった。
子犬や子猫などの癒し動画や焼きとうもろこしや冷やしうどんなどの夏の飯テロ画像を見ればいいものの、見てしまうのは例のSNSやゆうちゃんの写真だけだ。
「ゆう……。どうしてゆうが殺されて食べられるの?どうしてゆうなの……!」
ゆうちゃんが4月15日にレストランハッピーのストロベリーパフェをニコニコしながら食べている写真。これが、ゆうちゃんのお母さんの心を突き刺したのだ。
「ああああああああああああ!!!!」
ゆうちゃんのお母さんの心は、ストロベリーソースの赤に染まるほどひどく痛めつけられてしまった。
午後10時45分
ゆうちゃんのお母さんは、6月16日に撮った写真を泣きながら見つめていた。
「……っ!!あああああっ!!!!もう……叶わないなんて……っ!!」
その中でも1番心を抉ったのは、ゆうちゃんが一生懸命作った手作りカップケーキの写真だ。1つめのプレーン味のカップケーキには5、2つめのチョコ味のカップケーキには8とピンクのチョコペンで数字が書かれていた。
数字はややガタガタではあったが、ゆうちゃんのお母さんにとってはパティスリーサニーどころかデパ地下の高級ケーキよりもずっと価値のあるものだったのだ。
「ゆう……!来年の誕生日もあたしケーキ作るねって言ってたじゃない……!」
ゆうちゃんのお母さんはあのハンカチではなく、スマホで涙を拭こうとしてしまうほどボロボロになってしまった。
その時、充電は28%だったのだ。
一方その頃……
「来年の誕生日……。僕は何を食べているのだろうか」
白ワインを飲み干した男は、夜食を食べながらそう呟いた。
メニューは、ゆうちゃんの肝臓のバター焼きと、ゆうちゃんの唇を添えたカップケーキだ。当然、無惨にも細かく切り刻まれた黒髪が上質なスパイスや隠し味になっていた。
「桃松ゆう。これで食べ納めか……」
男はゆっくりと包丁を入れた。いつもは狂ったように笑っていたのだが、この時だけは人が変わったように暗い顔をしていた。
「おいしいよ、お姫様……。けど、これを食べきったらもう何もかもおいしく食べられない。僕って世界一可哀想だね……」
男はゆうちゃんの家から盗んだ水色のドレスを左腕で抱き締めていた。これは、ゆうちゃんが17歳の時に文化祭で着ていた衣装だった。
「見た目は傷みかけの桃、味は最高級のシャトーブリアン、いや!それもはるかに凌ぐシンデレラだねえ……桃松ゆうは」
男はゆうちゃんの衣装の裾をそっと舐めた。
「ねえ、シンデレラ?僕はまず君を33歳の誕生日にバースデープレートにして食べたよね。胸、お腹、太ももの肉を使ったホワイトシチュー、両手の指を使ったフライ、小腸を使ったスープ、そして、左目と血液を使ったパフェ。本当に最高だったよ」
男の口元が少しだけ緩んだ。目は相変わらずかき氷のように冷たいままだが。
「その次の日は確か……。朝はまず玄関に飾る用の右目をくり抜いたっけ。ふふっ。目玉焼きの下に入れるベーコンに顔の皮膚、ランチには肘から手首までを使ったな。切り刻んで塩コショウで夏野菜と一緒に炒めたやつだ。ちょっと食べ足りなかったから指を失った手のバター焼きも食べたなあ……」
男は、7月8日以降にゆうちゃんをどう食べたかを思い出した。
「ディナーには、肺と胃と腎臓と脾臓を細かく切り刻んで究極のスープを作ったかな。これもまたいい出汁が出ていたよ。白米と眉毛の相性が案外良かったねえ」
一等星よりも明るい顔に戻った男は、水色のドレスに向かって狂った笑みを浮かべた。
「背中のレアステーキは予想以上のクオリティに仕上がったね♪その後は鼻を軽く炙ってワインと一緒に楽しんだかな♪おいしかったよ、シンデレラ♪」
男は、肝臓のバター焼きを食べるスピードが速くなるくらい上機嫌になった。
「昨日の朝は、クルトンと同じくらいの大きさに切り刻んだ鼻をコーンスープに添えたっけ。それから、シンデレラらしい小さな左足首から下を香草焼きにして……。あっはは!」
男は笑いながら思わずカップケーキの唇にキスをした。
「ランチは首と喉の合い挽きハンバーグにしたね♪ケチャップの隠し味にほんの少しの血液添えちゃった♪ディナーの心臓のソテーもおいしかったなあ……。軽く血液の残りをかけたら最高だったよ。ああ、この日で最高の飲み物や調味料が全部無くなってしまったのが残念だ」
男はほんの少し顔を暗くした。だが、ゆうちゃんの衣装の胸元をしゃぶると、すぐにまた狂った笑みを浮かべていたのだ。
「あっはは!今朝は肩を岩塩でこんがりと焼いて♪ランチは桃そっくりなお尻のバター焼きだね♪アイスクリーム感覚で優しく丁寧に舐め回した後に食べるのが楽しかったな♪ふふ……。おやつはお手頃バニラアイスの髪の毛添えだね。それから、両耳と左足の指のおつまみ♪」
男は、あっという間に夜食を食べきった。
「あと、ディナーに二の腕と大腸を使ったソーセージも作ったな。そのまま焼いたり茹でたりして食べてもおいしかったけど、舌とふくらはぎとすねが入った夏野菜カレーに混ぜても最高だったな♪僕って顔も家事も完璧♪そりゃ、お馬鹿なシンデレラは簡単に騙されちゃうね♪」
男はゆうちゃんを小馬鹿にしながら、スリッパと銀の折り紙で作られた22.5cmのガラスの靴の匂いを嗅いでいた。
「シンデレラ役をニコニコで演じていた桃松ゆう……。ジュルリ……。あんまりおいしそうだったから、ランチの前に写真つい舐め回しちゃった。……ああ!どうして僕は5歳も年上なんだ!もし僕が王子様役なら、もっと早くその味を知れただろうに!!」