の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月10日午後11時
青山さんのお母さんの青い軽自動車は、『特急案件』と言いたげに制限速度ギリギリで走っていた。当然、この時間の周囲には、街灯と車のハイビーム以外の光はなかった。
信号待ち中、青山さんのお母さんは例のSNSについたコメントをチラッと見た。
そこには、
顔は無理でも服ならイケメン犯人を再現できると思った?残念w俺たち庶民には一切手が出ないブランド物でした〜www
と書かれていた。
「相変わらずしょうもないコメントする人がいるのね……。でも今は助かったわ!」
信号が青になったその瞬間、青山さんのお母さんは日の丸百貨店がある方向へ車を走らせた。
「あの魔王はきっとあそこから1番近い森に住んでいるんじゃないかしら?今度こそ見つけて徹底的に苦しませてやりたいわ!」
一方その頃……
「DNAの鑑定結果が出るのは明日か。そろそろ僕も動かないと。さて、これからどうしようか……」
男は寝室で何やら考え事をしていた。昨日までは高濃度グリセリンに漬けられたゆうちゃんの『桃』や『宝石』などを怪物のように貪っていたが、そんな余裕はもう残っていなかった。
「ああ!馬鹿な警察も明日になれば絶対に僕を追い詰めに来るだろう!そうなったら何もかも台無しだ!神よ!どうか僕を守ってくれ!僕はどうすればいいんだ?!」
男は最低な願い事をしながら枕を床に何度も叩きつけた。中の高級な羽毛が床に散らばるのもお構いなしに……
午後11時10分
「はぁ、はぁ……。僕としたことが獣みたいに理性を失ってしまうなんて……。僕は恐ろしい魔王ではあるけれど、誰よりも美しく価値がある存在だよね?そうだろう?ねえお姫様、ちゃんと答えて?」
何もかも狂った男は、ゆうちゃんのピンクのセーラーワンピに向かってそう尋ねた。
「何?君が僕の言葉を信じたのは、女王様からの厳しい掟に耐えられなかったから?そうかそうか。本当は女王様をずっと恨んでいたのか……」
男はゆうちゃんの気持ちを勝手に決めつけていた。
「いいことを思いついた……。これなら、世界一無様な女王様を絶望の淵へと叩き落とせるだろう……!」
午後11時30分
「よし!完璧!可愛いって褒めてくれるといいな♪」
1人の若い女性が、鏡を見ながら洋服を身体に当てていた。それは、ゆうちゃんが命日に着ていたピンクのセーラーワンピとほぼ同じデザインだった。
「えへへ!趣味の洋服作りが役に立って嬉しいな♪私って天才!あ、でもどうしようかな?やっぱりリボンとかもうちょっとアレンジした方がいいかな〜?その方があのイケメンさんもこっちに来てくれる確率上がったりして〜!キャー!恥ずかしい〜!!!」
女性は、セーラーワンピのリボンに付け足すレースを取ろうと引き出しを開けた。
「……あれ?このレースどっかで見たような……ま、いっか!う〜ん、どうしようかな。やっぱりスカートの裾にもレース付けよっと♪」
プルルルルル
「あ、ごめんね。こんな時間に」
「ううん、大丈夫。どうしたの?」
「明日ピンクのセーラーワンピで行こうと思ってるんだけど、そっちは?」
「奇遇だね!私もだよ!」
「やった!それなら話が早いね!あ、そうそう。イケメンさんに見つけてもらうにはやっぱりアイロンでしっかり巻いた方がいいのかな?」
「うーん、ゆうちゃんを再現するなら巻かない方がいいんじゃない?」
「あ、そっか。可愛くしすぎたら逆にもったいなくて食べられないか!それにしてもゆうちゃんって正直顔普通だし垢抜けないよねw例えるなら、ボロ服を着たシンデレラみたいっていうかwウケるwww」
「えっ……シンデレラ……?」
「え、どうかした?」
「……ううん、気にしないで。おやすみ」
「おやすみ」
午後11時45分
洋服作りを趣味とする友達との通話を終えた若い女性が、部屋の大きなカレンダーを見つめていた。
「明日楽しみだな。とにかくゆうちゃんそっくりにしなきゃ!」
気持ちが高ぶった女性は、その辺にあった白い紙にゆうちゃんにそっくりな女の子の絵を描いた。
「明日はこの絵の通りにすれば絶対完璧♪」
女性は絵に向かってニコッと笑った。
午後11時55分
「それにしても、なんでシンデレラの話しただけで変な反応されたんだろう?不思議……」
女性は何を思ったのか本棚をチラッと見た。心臓の鼓動が速くなる一方で、夏の暑さとは一切関係ない汗も止まらない。
7月11日午前0時
女性は、子供の頃によく読んでいたシンデレラの絵本を手に取った。
その時、何かが絵本の隙間からヒラリと落ちた。床に落ちたそれを拾った女性の手は、小刻みに震えていた。
「え……っ?嘘でしょ……?」