の【日の丸の国史上最悪の猟奇殺人事件がきっかけで始まった物語】 作:桃色ぴんく
7月11日午前10時30分
緑ヶ丘さんはおひさまファッションビルの1階にあるおにぎりアイランドにいた。ここは、若者に大人気のおにぎり屋さんだ。
昆布おにぎりやツナマヨおにぎりなどの定番はもちろん、もち麦カリカリ梅おにぎりや照り焼きミートボールおにぎりなどの変わり種もある。
「なんで桃松も青山も死んじまったんだよ!おい!みんながどんだけ泣いたと思ってんだよ!藍谷なんてボロ泣きだったぞ!ったく、俺らを置いていなくなるんじゃねえよ!!クソが!!!」
現実を受け入れられない緑ヶ丘さんは、手に取った鮭おにぎりとおかかおにぎりを床に投げつけてしまった。
「お客様!困ります!」
若い女性店員さんが慌てて駆け寄った。
「あ?!誰だよ?……あ、すみません……。って、真理子?!」
「あ……。涼太か。なんかごめんね」
その店員さんは、藍谷さんの姉であり、緑ヶ丘さんの高校時代のクラスメイトだった。
「俺が悪かった、ごめん。桃松と青山のことでイライラしてたんだ」
緑ヶ丘さんは暗い顔で謝った。
「こっちこそ言い過ぎた、ごめんね。真理奈は今頃お菓子買ってるはず。ちょっとでも心の傷を癒したいって言ってたよ。あ、チョコのお世話は私1人で頑張ってるから心配しないでね」
真理子さんは目を潤ませながらなんとか笑顔を作った。
「チョコな、俺を見るといつもワンワン鳴いてたっけ」
一方その頃、おやつワールドでは……
真理子さんの言う通り、藍谷さんは涙を堪えながらゼリーコーナーでお菓子を選んでいた。
「桃松さん……。これ大好きでしたよね?後でロッカーにお供えしますね……。あ……。今日最高気温37度らしいので、熱中症には気をつけてくださいね……」
藍谷さんは、右手に持った大容量の桃味のこんにゃくゼリーに向かって喋っていた。
「どうして桃松さんは食べられたんですか……?桃松さんは食べ物じゃないですよね?桃松さんは……いつもニコニコしてて……あたしに優しくしてくれた先輩ですよね?そうですよね……?」
声を震わせた藍谷さんは、絶対に答えが返ってこない質問をし続けていた。
午前10時50分
藍谷さんは、キャンディコーナーにいた。
「青山さん……。これ大好きだったよね?後でロッカーにお供えしたいけど、溶けちゃうかな……?あ、昼だけ冷房つけとけばいいか。店長も怒らないだろうし。あ、熱中症に気をつけてね……」
藍谷さんは、右手に持った大容量のソーダ味のキャンディに向かって喋っていた。
「ねえ……?やっぱり最初あたしがSNSを嘘って言ったの怒ってたのかな?あたしのせいで苦しめちゃったのかな……?桃松さんのことお姫様は言い過ぎって言っちゃったせい……?やっぱりそうだよね……!桃松さんは正真正銘のお姫様だったのに……!なんであたしあんなこと言っちゃったの……?」
藍谷さんはその場で泣き崩れてしまった。
一方その頃、サンサンベーカリーでは……
「お兄ちゃん大丈夫?どうしたの?ほら、好きなパン買って元気出そ!」
彩音さんは暗い顔の赤森さんを必死に励まそうとした。
「……」
赤森さんはゆうちゃんと青山さんの死をまだ受け入れられず、無言で俯いていた。
「お兄ちゃん?私はここだよ。どうする?あ、1回休憩する?」
彩音さんは心配そうに赤森さんの顔を覗き込んだ。
「……あ……彩音……。そばにいて……」
涙目の赤森さんは、かすかな声でそう返した。
午前11時
「あ、メロンパン焼きたてのが今から来るって!あ!メープルメロンパンも焼きたてだって!」
2種類のメロンパンの甘い香りが突然漂ってきた。
彩音さんはトングを空っぽのトレイに乗せ、トレイの角で赤森さんの背中辺りを何度も叩いた。
「……?……そうなんだ、ありがとう……。あれ?クロワッサンは?」
少し立ち直れた赤森さんは、彩音さんをじっと見つめた。
「食べたい!それも焼きたてだって!あ、メロンパンも私が取るね」
彩音さんは、トングでメロンパン、メープルメロンパン、クロワッサンを2つずつ取ってトレイに乗せた。
彩音さんの優しさに安心したのか、赤森さんはほんの少し微笑んだ。